阪神北條5打点でド派手ガッツ 矢野監督は声が出ず

DeNA対阪神 8回表阪神2死二、三塁、北條は中越え2点三塁打を放ちガッツポーズ(撮影・奥田泰也)

<セ・CSファーストステージ:DeNA7-8阪神>◇第1戦◇5日◇横浜

これが奇跡の始まりや。阪神がプレーオフ、クライマックスシリーズ(CS)史上最大の逆転劇で、CSファーストステージ突破に王手をかけた。

DeNAに最大6点のリードを許した一戦で、北條史也内野手(25)が終盤に5打点の活躍。7回に反撃3ラン、8回には逆転2点三塁打を放ち、劇的勝利を呼んだ。シーズン最終盤に6連勝して逆転CS進出を決めた虎が、下克上ロードを突っ走る。

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神経を研ぎ澄ましていた。1点差まで追い詰めた8回2死二、三塁。北條が振り抜いた。「どんどん甘い球を振っていこうと。最後まで集中力は絶対に切らさず、ここ一番で集中できた」。国吉の外角カットボールを捉えた。打球は前進守備を敷いていた中堅神里の頭上を越えた。一気に三塁まで到達すると、勢いそのまま三塁側ベンチに向かってド派手にガッツポーズ。ベンチも総立ちでヒーローを祝福した。

7回1死一、二塁では2点差に迫る反撃の3ランを放っていた。「点差が開いても諦めない気持ちはみんなあった。そういうのが結果的にホームランになった」。初回に3点を先行された。5回にも4点を奪われ、最大6点ビハインドの苦しい展開だった。だが、7回の1発で勝利への扉に手を掛け、8回の一打でCS史上最大の逆転劇を結実させた5打点だ。

試合前には矢野監督がナインを奮い立たせていた。練習直前のミーティング。「6連勝してCSに来たことは、俺は奇跡だと思っていない。みんなの力、粘り、諦めない気持ちでここに来たと思う。CSを勝って、甲子園で日本シリーズを戦おう。今日から奇跡のスタートだ」。かけ声通り、6点差となっても誰も諦めなかった。指揮官は試合後、大逆転劇に目を潤ませた。「全員で野球できたのがすごくうれしい。常々、苦しい時どうするかとか、諦めないとか…」。感情が高ぶり、続く声が出ない。約20秒の沈黙。鼻もすすって、声を震わせながら絞り出した。「…そういう野球をできました」。会見で“泣く”のは6月9日の日本ハム戦で原口がサヨナラ打を放って以来2度目だった。

もちろん、北條も諦めない男の1人。今季は序盤から遊撃を新人木浪に奪われ、終盤は大山と三塁を競い合った。決して多くない出場機会。だが、ベンチでは誰よりも大声を張り上げ、準備を怠らなかった。本拠地甲子園での試合後は、残ってバットを振り続けた。陰の努力を知る清水ヘッドコーチは「あいつは試合が終わっても、どんな時でも打っている」という。そんな男のバットで、虎は奇跡への1歩を踏み出した。

北條は「明日決める気持ちで。今日みたいに諦めない気持ちを持って、全力でプレーしたい」と誓った。王手から一気に決めてみせる。【奥田隼人】