阪神優勝が決まっている!? 悲願の15年ぶり優勝へ向け、2年目の指揮を執る阪神矢野燿大監督(51)に日刊スポーツのコラム「虎になれ!」を連載する高原寿夫編集委員(56)が新年から直撃。普通はちょっと質問しにくいようなあれこれをズバリと聞いた。そのココロは「20年優勝は阪神!」だ。【取材・構成=編集委員・高原寿夫、松井周治】
高原 今年もよろしくお願いします。いきなりですが初めて1軍監督をして、正直、一番腹が立ったことは何でしょう? メディアに対してでもいいですけど。
矢野 難しいですね。メディアで言えば、普段、付き合っている人はいいんだけれど、そうでない人に決めつけのように書かれるのは怒りというか、寂しい、複雑な感じがしますね。批判は仕方ないと思っているんですけどね。
高原 球団、選手に対しては? 昨季、走塁とかで「全力でやれ!」ということはあったけれど。
矢野 まあ、いつも完璧なことないんで。いちいち怒りとか不満とか、そういうふうに捉えてないです。面白いところを出したいだろうけど、あんまりそのへんないんですよ。年取って人間的にそういうところ、なくなってきました(笑)。
高原 そこで聞きます。今年に向けてのコーチ陣に中日色が濃いのでは、という見方がある(※)。
矢野 すごく小さいなあ、と思う。なんでそういう話になるのかなって思いますね。井上一樹を呼んで、山本昌さんに臨時コーチを頼んでとかでしょう? 僕は選手にとって何が一番いいのかな、というところで判断させてもらっています。小さいというか、なんでそういうところにこだわるんかなあ、と。
高原 中日色どうこうではない考えがあると。
矢野 何か打撃に変化をもたらしたい、誰がいいのかと思ったとき思いついたのが一樹で。仲がいいというのはあるけれど野球観が一緒なんですね。選手を盛り立てていく姿勢とか、2軍監督やっているときから大事にしている部分が似ているんですよ。
高原 僕なんかは、そのへんは星野仙一さんにつながるところでもあると思うんですけど。闘将イズムを受け継いでいる、と。
矢野 それは絶対、あります。間違いなく。でも逆のところもあるんです。ボクらは星野さんと同じようにできない。時代も違うしあんなに怒れない。選手の背中を押していきたいということですね。でも星野さんに対するあこがれとか勝利への執念とかファンを大事にする気持ちとか、そういうものは僕らの体に染み込んでいる。かねもっちゃん(金本知憲前監督)も言っていたけれど、僕らが言っていることって振り返ったとき星野さんが言ったことやなあ、と…。
※今季の阪神スタッフのうち、中日に在籍経験のある監督、コーチは7人。1軍に限れば、矢野監督はじめ10人中過半数の6人が中日出身。
高原 さらに聞きにくいようなことを聞きます。
矢野 なんでも、なんでも。どうぞ。
高原 藤浪です。この数年の状態が続くことは誰にとっても幸せだとは思わない。今季はどうなる?
矢野 それは僕にも分からない。やってみないと分からないです。現実を受け止めてやっていくしかない。でもずっと晋太郎のことは応援してます。今回、昌さんに来てもらった中でも晋太郎に熱心に教えてくれている。晋太郎も苦しんでいる中で、いいアドバイスを送ってくれたり、ヒントを与えてもらえるのかな、というのもありながら。でも急に全部が良くなるのはなかなか難しい。良くなったり悪くなったりというのを繰り返しながら、ステップアップしていってくれたらいいんじゃないかなと。
高原 藤浪の復活を待っているファンは多い。
矢野 そうですね。でも晋太郎のことは応援しているけれど、僕の中では望月も浜地も才木も晋太郎と一緒なんです。メディアの方は話題になる選手で、晋太郎が、晋太郎が、となると思うけれど、僕の立ち位置としてはそれぞれにいい野球人生を送ってもらいたい。
高原 昨季で言えば1度投げて抹消した(※)。いい内容ではなかったけれど、もうちょい使って…という手もなかった?
矢野 じゃあ高原さん、あの登板で、次、投げさせるんですか?
高原 う~ん。それは難しいんでしょうけどね。
矢野 ないでしょ。
高原 でもそこが恐ろしいなあ、と。ずっとそれだったらダメになるだけじゃないかと。
矢野 さっきも言ったようにモッチー(望月)も才木も晋太郎も一緒なんです。なのに晋太郎があの登板で次も、となれば。そら、えこひいきというか、将来性を見たり、力を見てのバランスはあります。チャンスを多く与える選手とチャンスが少ない選手とは分かれてきますよ。晋太郎にもチームにもプラスになるんだったら次の登板を用意しました。でもあの時点ではそう思わなかったんです。でも、それをメディアの方が言うのは、それだけ晋太郎自身が魅力あるからだろうし、悪いことではないと思うんですね。
※昨年2軍調整を続けていた藤浪は8月1日中日戦にシーズン初登板初先発。4回1/3で1失点ながら、8四死球の大乱調。翌2日に抹消された。1軍登板はこの1試合のみで、プロ入り初めて0勝に終わった。
高原 次は新外国人、特に打者ですね。ボーア、サンズ。新しい人を獲得したけれど昨年はナバーロ、ソラーテと正直うまくいかなかった(※)。
矢野 仕方ないでしょ。(獲得には)僕も関わっているし、球団だけのせいではない。僕にも責任はもちろんある。外国人選手に関しては本当に難しい。
高原 運のような。当たり外れみたいな…。
矢野 うちの今の現状のチームバランスから考えると理想と現実とのギャップはあります。生え抜き(4番)とエースは、日本人選手を育てたいというのはあるんですけど、それが今年実現可能なのかとなったとき、まだもう少し時間は必要。その中で現実のチームを勝たせるためには、打線の中で外国人選手は欠かせない存在になってくる。
高原 長年の課題ではありますけれど。
矢野 まあまあ、どこでもだと思うんですけど。
高原 たまたま巨人が岡本とかでうまいこといっているんでね。
矢野 それが理想だと思うんですよ。岡本とか坂本勇とか菅野とかが中心になりながら。枝葉もすご過ぎますけど。丸とかゲレーロとか昨年で言えば外国人が枝葉をつくっているのもすごいことやし、亀井とかでもそういうピースになっているのはすごいこと。まあ現実と理想とのギャップはありますね。
※一昨年から在籍したナバーロは開幕から先発出場したが、長打力不足から4月28日に2軍降格。シーズン途中加入のソラーテは、2軍調整から9月6日に1軍昇格を命じられながら、前代未聞の合流拒否。2人とも退団となった。
高原 今季のキャッチフレーズ「It's 勝笑 Time! オレがヤル」(※)というのすごくいいと思います。
矢野 ありがとうございます。
高原 でもチームは相変わらずおとなしいというか、あまり感情を出さない選手もいる。監督は感情を出せと言うけれど出さないとそれはマイナスになる?
矢野 マイナスではないですよ。出してほしいというか、結果、そうなればいいと思っているだけで。それぞれ個性がある。全員が同じようにはできない。僕も野球をしんどくやってきたけど今は楽しむことの方が結果も出て、ファンのみんなもその野球の方がいいよと言ってもらえる気がする。今の自分よりはほんの1歩、半歩でもいいから、そういう気持ちで頑張っていってくれるだけ。1人がそれをやったら全員になったらすごいパワー。全員に押しつけようなんてまったく思っていない。
高原 1年取材させてもらって、大山なんてもっと明るくしたらいいのになんて僕は思ったり。彼はおとなしい、出さないタイプですよね。そこをもっと出せや、とかは。
矢野 一切、ない。
高原 言いもしない?
矢野 言いもしないというか努力をしていたらそれでいいじゃないですか。じゃあ高原さんの部下で、お前ああやれよと言ったヤツで変わったことあるんですか? 人って強制で変わらないんです。自分で変わろうと思ったときしか変わらないんですよ。本当に自分が変わるときって、あこがれとか尊敬とか、そうなりたいと思ったとき。こういう風にプレーした方が気持ちもいいし、ファンも喜んでくれるんだなと大山が実感できたときに変わるだけで。
高原 監督自らああやって出してるというのは、僕たちは分かっている。監督がやってるのにな、と思ったりもする。
矢野 やってくれてるんじゃないですか。それは高原さんの目で見たときには変わってないかもですけど。悠輔の側の目から見たときは変わっているんですよ。それに「ここまで笑え」という期待値を上げすぎるとね。期待って裏切られるんですよ。期待って見返りを求めているんです。
高原 それは分かるかも…ですな。
矢野 後輩にこれだけのことを教えてあげたら、これだけ成長するやろうと言うのは見返りを求めているんですよ。そんな期待って裏切られるんですよ。一番は悠輔のことを応援することですね。「悠輔、お前4番になるためにいくぞ」「タイガースの中心選手になるためにいくぞ」と。それが結局、悠輔に対して僕ができることなんです。それを自覚できたときに変わるんです。
※昨秋キャンプでスタッフがミーティングを開き策定。苦しいときも笑顔で乗り切り、リーグ優勝で最高の笑顔にたどりつく決意を込めた。
高原 昨季は終盤に6連勝して3位に滑り込んだけれど、正直、Bクラスの可能性も高かった(※1)。考え方によっては1年目はBクラスだった方が上が望めるのでは、という見方もあったりして。
矢野 う~ん。最初がBクラスやったらって思って、僕、監督として成長します? Bクラスやったら来年Aクラスになったらいいなという目標になりかねない。Aクラスに入ったからこそ、上がはっきり見える位置にきた。それに起こった出来事って何も変えられないんですよ。
高原 過去は変えられないですからね。でも結構、そんな発想する人も多い。
矢野 まあ僕もそうだったんで。でも本も好きですし、いろんな人に学ばせてもらったり。そういうことで不安って減るんで。進む道も見えてくる。
高原 今年はオリンピック(五輪)イヤー。関西は話題で阪神が五輪に負けてはいかんと思うんですけど。そのあたりはどうですか。
矢野 五輪と争っているわけではないんでね。自分のチームをどうするかだけ。五輪については僕も北京行ってメダルとれなかったので、日本の野球界のために日本が金メダルとってもらいたいという思いは変わらないです。
高原 前回の東京五輪(64年)のとき、日本シリーズはどことどこがやったかもちろんご存じですよね。
矢野 阪神、優勝しましたね(※2)。
高原 そういう希望もあったりして
矢野 それは僕も。いつもというか“予祝”で言うんですけど。2020年は阪神が優勝すると決まっているんで。はい、決まっているんです。東京五輪のときは、タイガースが優勝すると決まっているんです。もう決めているんです。
高原 では優勝旅行は。
矢野 ハワイですよね。
高原 ハワイでいいですか。
矢野 ハワイが一番いいじゃないんですか。みんな穏便で、ハワイでいいんじゃないですか。
高原 ではもう予約しないとダメですね。球団も。
矢野 予約してるんじゃないですか。
高原 行きたいですね。
矢野 どうぞ。ハワイでお待ちしています!
※1 昨年9月20日時点で阪神は、3位広島から3差の5位に低迷。ここから残り6試合を全勝した。この間1勝2敗に終わった広島にも助けられ、阪神はCS進出。
※2 64年の阪神は、大洋と優勝争いを展開。夏場には、2位ながら最大6・5差をつけられた。その後追い上げ、終盤の直接対決で4連勝。球団史上最大の逆転Vを飾った。
◆高原寿夫(たかはら・ひさお) 1963年(昭38)7月22日、大阪府生まれ。関大から88年、日刊スポーツ入社。芸能・社会担当を経て94年から野球記者に。オリックス、近鉄、広島、阪神などを担当。イチロー日本一(96年)、星野阪神優勝(03年)などを現場で取材した。デスクを経て現在は編集委員。「虎になれ!」「高原のねごと」などのコラム執筆を中心に活動する。ABCテレビ「おはようコールABC」(関西ローカル)で金曜日のスポーツ・コメンテーターとして出演中。