宮本慎也氏&上原浩治氏/新春対談(上)

日の丸を背に笑顔を見せる宮本氏(左)と上原氏(撮影・山崎安昭)

日刊スポーツ評論家に復帰した宮本慎也氏(49)と、新たに加わる上原浩治氏(44)の新春対談を3回で送ります。テーマはもちろん、金メダルが期待される東京オリンピック(五輪)。思わずテーマがそれても切れ味は抜群で…2人にしか醸し出せない空気を、余すところなくどうぞ!

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-2020年といえば、東京五輪イヤー。野球は悲願の金メダル獲得へ期待が高まっています。単刀直入に、勝てるでしょうか

上原氏(以下、上) そりゃ、勝ってほしいし、勝てると思う。

宮本氏(以下、宮) 野球が五輪種目になるのは最後の可能性だってある。勝たなきゃいけないでしょう。

-五輪は12年ぶり。プレッシャーは相当でしょう

宮 もちろん、あるでしょうね。でも今のチームは何年も前から作っている。それに地元開催。日本には訳の分からない球場とか、ないでしょ。どこも整備が行き届いている。ここの部分は圧倒的に有利と思う。

上 アテネや北京も球場はひどかった。個人的にはどこでも別に…って感じ。マウンドは硬いけど、あんまり気にならないタイプ。硬い方が好きだから。でも、低いのは嫌だったなぁ。

宮 当たり前だけど、特に影響を受けるのは守備。野球の盛んじゃない国の球場は、大事な時間に太陽が目の前にある…みたいな。それに芝も根付いていないから上滑りする。その点、守るプレッシャーが少ない。北京のグラウンドは本当にひどくて。西岡が脇腹が痛くなって「守れない、投げられないけど打てる」と。壮行試合でエラーしてたんですよ。それを聞いて「守るのが嫌なんだろうな」って思った。自分も守備固めなんかでエラーしたら目も当てられないし、終盤でもつれたゲームなら最悪。痛みの度合いは個人差が出るし、なんとも言えないけど、どこかが痛かったら、なおさら守りたくなくなる。同じ内野手として気持ちは分かる。で、西岡がDHに入ったからG・G・佐藤が守ることになって、2回落球したんです(※)。

上 確かにあの落球が勝負を分けてしまった。やっぱり余分なプレッシャーはない方が日本には有利。実力が劣るチームは運任せでいいけど、日本は実力的にNO・1。太陽が目に入ったり、イレギュラーして捕れなかったり、そういうのが少ない方が実力だけの勝負になりやすいし。

-断トツの優勝候補。重圧は余計にありますよね

宮 初めてオールプロでやったアテネより全然マシでしょう。実際にやってみてどうなのかが分からないのに、勝って当然みたいに思われてた。それも1つも負けちゃダメ、みたいな。自分たちも全勝しないとダメと思って戦っていた。

上 宮本さんはキャプテンも任されていたし…一選手だった自分とは立場も違う。実際は負けても決勝ラウンドに進めばいいんだけど。個人的に、それほど重圧はなかったけど、確かに負けられないという妙な雰囲気はありましたね。

宮 そこが難しい。結果的にアテネも北京も金は取れなかったけど、選手は全勝を目指して戦った方がいい。緊張感があったアテネとは違って、北京では逆にこう…とりあえずベスト4に行けばいいという感じがあったから…。ずっとチームが締まらなかった。その中で、首脳陣は「ここは負けても」という使い方をする。アホみたいに全部、勝ちゲームのピッチャーをつぎ込んでいって、最後疲れちゃったはダメだから。でも選手は、全部勝ちにいかないとダメだと思ってやらないと。実際、韓国は全勝で金メダルを取っているし、絶対にできると思う。

上 メンバー選考が一番大事になるんじゃないかな。直前まで試合をやっているから、調子のいい選手を選びやすい。アテネのときは1チーム2人とか、くだらない規定があった。

宮 ハッキリ言いづらいけど、若くて監督経験のない人が監督をやると、フロントの人がなめてきますよね。これが王さん、長嶋さん、星野さん、原さんだったら「出せ」と言ったら「分かりました」と言っている。蹴散らして協力しなかったのは落合さんくらい。そういうのも、多少なり影響が出る。稲葉監督は若いから、そういう部分で苦労してると思いますよ。

上 みんなが協力して、ということ。

宮 そう。若いからとか、監督経験がないからとかは関係なし。代表の監督がある程度「この選手を呼びたい」と言ったら気持ちよく出さないと。

上 12年前にそんな空気はなかった。何回も断ったけど、星野さんがねぇ。断れなかった(苦笑い)。

-指名しても出られないなら、理由をオープンにすべき。事務局側がしっかりやらないといけませんね

宮 そうそう。ましてオリンピックは24人。編成を間違えると大変になる。ここを間違えなければ、金は取れると思います。

上 侍ジャパンを運営していく会社まで作っているんだから、いろんなところで、もっとアシストしていかないと。プレミア12なんかでも、お客さんがいっぱいになったのは韓国戦だけ。チケットが高すぎる。普段より高い。そういうファンからの文句が多い。

宮 いい席は1万、2万とする。決勝は満員になると思ったけど、韓国じゃなければあそこまで入らないでしょう。みんなが盛り上げるようにしていかなきゃ。

-肝心のメンバーはどうなるでしょうか。プレミア12のメンバーから減らさないといけません

宮 中の温度差が、どんなものか分からない…。北京の時は、予選は結構1つにまとまってグッとやっていた。だけど、サブローを外したりしてG・Gが入ったりすると何かグチュグチュッとしたものが、正直あった。中心があって、枝葉の部分をどうするか。例えば、ベテランの松田はよく声を出してチームを盛り上げてくれる。そういうのもとても大事なんですよ。でも、好不調の波が激しいタイプだし、単純に戦力として見ていくんだったら…という部分が出てくる。人選は一番難しい。単純に野球のうまい順番だけで選べない。人数が少ないし、人選を間違えるとヤバくなる。

上 個人的には今回のプレミア12のメンバー中心でやってほしいなぁ。プレミアのメンバーで五輪も…。難しいとは思うけど。

-メジャー表明をしていた選手とか、五輪は出場しないんだし呼ぶ必要はなかったのでは

宮 何としても勝ちたいというのがあったんでしょうね。でも本番はオリンピック。大げさに言うと、24人で戦ってもよかった。

-侍ジャパンに“喝”ですか

上 そこまでいかないでしょ。でも話は変わるけど、張本さんの“喝”は野球界には必要だと思うんです。ボクは張本派ですから。

-話題になった大船渡・佐々木朗希投手(ロッテ1位指名)の県大会決勝での登板回避とか、この前はイチロー氏が受講した学生野球資格回復研修に“喝”を入れていた。佐々木の件では、ダルビッシュが反論してました

宮 あれは張本さんが正しいと思う。でも言い方がねぇ。別に佐々木君を非難するわけじゃないけど。公式戦でそれほど酷使してないでしょ。ただ、ケガとかあったのかもしれないし、投げなかった真相が外部の人には分からない。なんとも言いにくい面はある。

上 でも投手はある程度、投げ込まなきゃいけないと思う。佐々木君はあまり投げ込んでいないだろうから、プロに入ってから苦労するんじゃないかなぁ。投げ込める、投げ込めないには個人差がある。投げたらケガをする選手に、丈夫な選手が合わせるのもどうかとは思います。

宮 張本さんって、言いにくいことをズバッと言うから批判されやすい。でも正しい側面もある。言葉にすると悪いけど、世の中の“必要悪”みたいな感じで問題提起になっている。大切なのは考えること。ああいう人も、世の中には必要なんですよ。僕が言うのもなんですが…。

-宮本さんも上原さんも2代目、3代目の“喝”にはピッタリですね

上 俺もよくたたかれるしなぁ。

宮 確かに思ったことを黙っているのは苦手(笑い)。

-野球界の問題点は、これからもどんどん発言してください(つづく)

※G・G・佐藤の落球 08年8月22日、北京五輪準決勝の韓国戦で、2点を勝ち越された直後の8回に左飛を落球(写真)。日本は致命的な5点目を失った。翌日の米国との3位決定戦でも、3点リードの3回に先頭の左飛を落球し、3ランで同点に。その後も追加点を許しメダルなしに終わった。

◆宮本慎也(みやもと・しんや)1970年(昭45)11月5日、大阪府吹田市生まれ。PL学園では2年夏に甲子園優勝。同大、プリンスホテルを経て94年ドラフト2位でヤクルト入団。ベストナイン1度、ゴールデングラブ賞10度受賞(遊撃手6度、三塁手4度)。プロ19年間で2162試合、7557打数2133安打、62本塁打、578打点、打率2割8分2厘。引退後は18、19年にヤクルト1軍ヘッドコーチ。国際大会では04年アテネ五輪、06年WBC、08年北京五輪で代表入り。03年アジア選手権MVP。04、08年は主将を務め、アテネで銅メダルを獲得。現役時代は176センチ、82キロ。右投げ右打ち。

◆上原浩治(うえはら・こうじ)1975年(昭50)4月3日、大阪府寝屋川市生まれ。東海大仰星から1浪して大体大進学。98年ドラフト1位で巨人入団。2度の沢村賞などエースとして活躍した。08年オフにFAでオリオールズ移籍。レッドソックス時代の13年、抑えでワールドシリーズ制覇。大リーグでは4球団でプレーし、18年に巨人復帰。19年5月に引退。04年アテネ五輪、06年WBC、08年北京五輪代表。国際大会通算成績は大体大時代を含め25試合で12勝0敗2セーブ、防御率1・92。06年WBCでは準決勝の韓国戦で勝利投手になるなど優勝に貢献。現役時代は187センチ、87キロ。右投げ右打ち。