宮本慎也氏&上原浩治氏/新春対談(下)

侍ジャパンへのメッセージを手にする宮本氏(左)と上原氏(撮影・山崎安昭)

日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏(49)と上原浩治氏(44)の新春対談。最終回は選手気質について。

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上原氏(以下、上) でも、日の丸の試合が多すぎませんか?

宮本氏(以下、宮) 最近よくやっている3月の試合はいらないね。あれはお金もうけでしょ。

-プレミア12も、ほとんどの試合がガラガラでした

上 侍の試合が多すぎると、みんなが仲良くなりすぎる。そうなりすぎると、試合の緊迫感がなくなってくる。これはアテネでジャパンのキャプテンをやった人が、みんなをまとめすぎて仲良くなりすぎたと思ってるんですけど(笑い)。

宮 また俺のことか! でもチームワークは大切だろ。お前のような言うことを聞かなそうな選手がいるから、キャプテンを引き受けるときはビビッてた。それにお前は同じ釜の飯を食ったチームメートにも、試合で平気で狙ってくる。仲良しにそんなことするかぁ(笑い)。

上 ありましたねぇ…。

-宮本さんがセーフティースクイズをやろうとしたら、上原さんが頭部付近に投げてきた試合ですよね

宮 そうそう。バントの構えをしたとたん、視線がこっちを向いたんで、もしかしたら狙ったのかもって。しかも胸元というか、頭付近の球だった。さすがに「同じ釜の飯を食った選手の頭付近を狙って投げるかなぁ」って思って、記者の人に聞いてもらったんだよ。そしたら「そうしないとバントを決められるから」って言ってたと聞いた。「それなら頭付近はやめろって伝えてくれ」と言ったら「それじゃ、バントを決める。宮本さんならよけられる」って返事。らしいと言えばらしいけど、ひどいヤツだよな(笑い)。

上 それだけ実力を認めてるってことですよ。でも、それを聞いた宮本さんは「ちょっとバントの構えが速かったんだな。もうワンテンポ遅くしないと」と反省してたって聞きました。さすがだなって(笑い)。

-最近の日本球界は、乱闘がほとんどなくなりましたね

宮 野村監督がやっていたヤクルトと、長嶋監督がやっていた巨人戦は、本当にピリピリしてたもんな。次にインコースいったら乱闘になるだろうなぁ、って。実際によくもめてたし、乱闘にもなった。頭に当てて「すいません。でもフォークだから大丈夫です」という人がもう、いないもんな。松坂とか清水に当てられたら「頭じゃないから大丈夫でしょ」って。

上 勇人(巨人坂本)にインコースぶつける人、いないでしょ。柳田にインコース当てる人いる? 仲良くなりすぎてる。悪いことじゃないけど…。

-ひと昔前は、キャッチャーが打者に寄って、そこ構えたら当たるだろという場所に構えてましたよね

宮 矢野さんがいつもそうだった。あれじゃ投げるところが打者に隠れて見えない、みたいな(笑い)。

上 今、そういうのがないでしょ。

宮 昔は声も聞こえてたもんね。古田さんとか打席に立つと「当てろ~」ってナゴヤ球場で。よけながら打ってたからね。外のボールに飛び付き打ち。あの打撃は芸術の域に達していた。キャッチャーじゃなければ、もっと打っていたよ。

上 古田さんは乱闘も多かったですよね。

宮 ボクが言うのもなんだけど、古田さんは年上の選手からすると、生意気に感じるんでしょうねぇ。相手が誰であろうと、敵には向かっていくタイプ。打席に入って送りバントの構えなんかすると「プロなのにバントかよ」とか平気で言ってたらしい。とにかく勝負事に関しての厳しさは半端じゃない。それにID野球の申し子みたいに思われているけど、絶対に最後は根性って言うからね。骨折しても休まない。俺も右手を骨折してプレーを続けたけど、前に古田さんが出ていたから。相川が骨折したときも「右指を骨折しても休まないのは、ヤクルトの伝統にしよう」って。一緒にプレーした選手の中では、古田さんのプレースタイル、考え方は一番勉強になったし影響を受けた。

-巨人-ヤクルト戦は「今日は危ない試合」って見てても分かった

宮 90年代ですね。球界の盟主と、強くなってきたヤクルト(笑い)。コリジョンとかゲッツー阻止で、優しくなった。今の内野がゲッツー取れないって恥ずかしいからね。昔は「ベースこっちですけど」って方に滑り込んで来たからね。でかい選手が。

-メジャーもその辺はすごいでしょ?

上 メジャー1年目のときはビビりました。トレーナー室で治療していたら、選手が入ってきて「次いくから着替えろ」。そしたらウチの投手がバンバンインコースに投げて。結果的には当たらなかったけど。それでセカンドフライに打ち取ったのに、打者に向かって叫び声を上げて挑発。本当に乱闘になった。慌ててグラウンドに飛び出したんだけど、マウンドで乱闘しているバッターもピッチャーも、190センチ以上で120キロぐらいある選手。マジで怖かった。周りをウロウロしてたのを覚えてます。

-上原さんがわざとぶつけたのはあるんですか

上 わざとは1度もないな。でも巨人の1年目に、キャッチャーの指示で「インコースでのけ反らしてくれ」って言われた。それで当てるつもりはなかったけど、広島の西山さんにぶつけちゃった。ホーム付近でキャッチャーともめちゃって。でも俺には被害がなかった。ルーキーだったし、みんな分かっているから守ってくれたんでしょうね。

宮 なくなったとは言わないけど、確実に少なくなった。野手やコーチの立場で言うと、そうやってぶつけにいってくれる投手は、なんとか勝たせたいと思ってしまう。相手のピッチャーがバンバン内角攻めしてきたら「いいかげんにせいよ」ってね。今でも1カードに3つぐらいぶつけられると「とりあえず(死球を)いっとくしかないな」ってなるけど。ぶつける気がなくても、やり返さないとなめられて、やられ放題になる。でも、昔はひどかった。若い選手とか、ちょっと打ち出すと「とりあえず、そろそろいっとくか」ってぶつけにいった。星野さんとか、試合前に相手チームの選手と仲良く話していたら、ベンチ裏でぶん殴ってたらしい。アマ時代の先輩にあいさつするとか、仕方ないのもあるけど。でも、球場にお客さんが入っていたら、そういうのも考えてあいさつに行かないと。

上 宮本さんが坂本に教えたり、自主トレも他球団の選手が一緒にやったりする。俺もライアン(ヤクルト小川)とか、巨人以外の選手とはやってたけど。

宮 うーん、それも考えたけど、野球の技術レベルを上げるのも、プロ野球界を盛り上げることにつながると割り切っていた。

-実際、坂本は「宮本さんに教わってよかった」っていまでも感謝してます

宮 そう言ってくれるとうれしいね。でも坂本クラスの選手と一緒にやれば、こちらにも刺激になる。一緒にいた若い選手なんか、何か感じ取ってくれればいいとも思っていた。でも、さっきの話じゃないけど、普段は仲良くしても、グラウンドに出たら関係ないってのが理想だな。

上 僕は宮本さんにぶつけようとしてじゃなく、バントをさせないように投げただけですよ(笑い)。

-確かにそういうきな臭い試合はなくなりましたね。「乱闘は野球の華」とも言いますし、2020年はそうやって野球を盛り上げましょう!

宮、上 そんなこと言っても、マスコミが暴力はダメとか言ってたたくじゃないですか!(おわり)

◆宮本慎也(みやもと・しんや)1970年(昭45)11月5日、大阪府吹田市生まれ。PL学園では2年夏に甲子園優勝。同大、プリンスホテルを経て94年ドラフト2位でヤクルト入団。ベストナイン1度、ゴールデングラブ賞10度受賞(遊撃手6度、三塁手4度)。プロ19年間で2162試合、7557打数2133安打、62本塁打、578打点、打率2割8分2厘。引退後は18、19年にヤクルト1軍ヘッドコーチ。国際大会では04年アテネオリンピック(五輪)、06年WBC、08年北京五輪で代表入り。03年アジア選手権MVP。04、08年は主将を務め、アテネで銅メダルを獲得。現役時代は176センチ、82キロ。右投げ右打ち。

◆上原浩治(うえはら・こうじ)1975年(昭50)4月3日、大阪府寝屋川市生まれ。東海大仰星から1浪して大体大進学。98年ドラフト1位で巨人入団。2度の沢村賞などエースとして活躍した。08年オフにFAでオリオールズ移籍。レッドソックス時代の13年、抑えでワールドシリーズ制覇。大リーグでは4球団でプレーし、18年に巨人復帰。19年5月に引退。04年アテネ五輪、06年WBC、08年北京五輪代表。国際大会通算成績は大体大時代を含め25試合で12勝0敗2セーブ、防御率1・92。06年WBCでは準決勝の韓国戦で勝利投手になるなど優勝に貢献。現役時代は187センチ、87キロ。右投げ右打ち。