これからの部活は…週休3日、朝練廃止、叱らない

松島中野球部の猿橋監督。穏やかな表情が印象的だ

<週末ベースボール:猿橋善宏教論に聞く>

2018年(平30)3月、スポーツ庁は「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を発表した。以来、全国の公立中学校で部活の週休2日制は着実に浸透している。単純計算では練習時間の減少する中、新しい取り組みで、充実した部活動を組み立てているのが、軟式野球のカリスマ監督で、宮城・松島町立松島中の猿橋善宏教諭(58)だ。18日、兵庫・神戸市教育会館大ホールで「これからの部活動のあり方を考える会」と銘打った講演会を開催する同教諭に「部活動とは」を聞いた。

野球経験はない。それでも、30年を超える教員生活で、監督として全国中学校軟式野球大会(全中)に幾度も出場し、2005年には準優勝に導いてる。

かつては猛練習で一日中グラウンドに立って指導していた。ただ、今は違う。ガイドラインの指針もあり、朝練を廃止した。オフシーズンは土日の一方はオフ。月、火は2連休。つまり週休3日の野球部だ。松島の日没は早い。12月の練習を取材した。練習の終わる午後5時には真っ暗になる。この日は教室のワックスがけがあり、練習開始は4時過ぎだった。猿橋(以下敬称略)は「実際に野球をやっているのは1週間で7時間ですよ」と、柔和に笑う。

昨年、野球未経験の1年生3人を合わせて、部員が9人だった。秋までに技術を上達させないと、試合にならない。フライを捕る練習から地道に積み重ね、翌年秋には県大会ベスト8に輝いた。

「野球未経験の子が入ってくれたおかげで気がつきました。運動体験を十分にしてこなかった子どもたちが、どうやったら野球を嫌いにならないで、うまくなるのか。おかげで、これまでの指導スタイルが全く変わりましたね。ビックリするほど簡単なことだったんですが、今までやったことがなかった」。コペルニクス的転換を実現した方法とは。猿橋は、真っすぐ見据えて答えた。

「プレーを叱らない」

初心者の立場になって考えた結果、新たな方法を発見した。9人をそろえるために、3人の上達が必要だった。まさに、必要は発明の母だった。

猿橋 普通の外野フライが捕れないんです。そこで「ヘタクソ、才能ないな」とやっちゃうことが多いじゃないですか。でも黙って打っていると、子どもたちも黙って悔しがって捕るんです。捕ったときだけ「ナイスキャッチ」とやるんです。3カ月もすると半径15メートルのグリッドで、どこでも捕れるようになるんです。

1つの成功体験が、子どもの持つ可能性を広げることにつながる。何も、プロアスリートになる必要はない。

教員の働き方改革が叫ばれる今、運動部は、ややもすると「あだ花」のように煙たがれる傾向がある。猿橋は18日の講演で、部活について何を語るのか?

猿橋 競技力を上げていくということが、部活動が学校で行われていくことの、一番大きな意味ではないのではないか。もちろんそれが全然必要ないというわけではないですよ。ど真ん中ではないと、僕は思いますね。それがど真ん中だとすると、例えばベンチを外れた子どもたち、プレーヤーとしてフィールドに散っていない子どもたち、彼らはど真ん中を外したことになりますよね? それではないですよね。彼らが豊かな人生を送れるために、必要な考えや、生きる姿勢とか、知恵、知識とか、技能というものを、野球という教育装置を使って学んでいくことが、僕はど真ん中だと思う。そこを大事にしていかないと、おかしいことになっていくのではないの? それを一番に言いたい。

根底にあるのは、教師という職業への愛着だ。

猿橋 先生って生徒を見て、生徒の持っている良さを見つけて、その子たちが、大人になったときに出来るだけ社会的に自立して、経済的にも自立して、簡単に言ってしまえば「幸せをつかむ、守れる」状態に持っていくことが先生の使命だと思う。そのために部活動という教育装置は、非常に良い効果を発揮できるのではないか。その観点から言うと、練習時間、活動時間が短くなったことで、全てがダメになることはないだろう。まずは一生懸命やられてこられた人たちもいるし、これからもやろうと思う人たちに「失望しないでちゃんとやろう、やれることはまだあるよ」という話は伝えたい。

◆猿橋善宏(さるはし・よしひろ)1961年(昭36)7月29日生まれ、宮城県出身。仙台二-東北学院大を経て中学英語教諭。学生時代に身体が弱く、できなかった野球へのあこがれから指導者を志す。98年に松島中の監督として全中ベスト8。05年、しらかし台中を全中準優勝に導く。12年に松島中に戻り、16年に全中出場。