ロッテに苦戦ソフトバンク 球場が左右?/里崎智也

ZOZOマリンスタジアムで昨年苦戦した背景を守備の要の甲斐キヤノンに直接取材する里崎特命記者(撮影・井上真)

<潜入>

里崎が仮説を立て、真相に迫る! 日刊スポーツ評論家・里崎智也氏(43)が特命記者となり、春季キャンプ地に潜入する特別企画。第1弾は昨季、日本一ソフトバンクがロッテ戦に苦戦した謎に迫る。題して「ソフトバンクはロッテよりも“ZOZOマリン”を意識していた!」【取材・構成=井上真】

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特命記者里崎は、2月1日のキャンプ初日を毎年恒例となった古巣ロッテのキャンプ地石垣島で迎えた。

特命記者里崎(以下特命記者) やっぱり気になるのは3年連続日本一になったソフトバンクです。昨年の戦いを分析すれば、今年の見どころのヒントもつかめます。データではロッテ戦の相性の悪さ(8勝17敗)が目につきます。そこでロッテから取材スタートです。幸いにもロッテは古巣。思う存分取材します。OBには、あながち的外れは言わないでしょう。

特命記者はスーツにネクタイ。ややポッチャリめの体をゆすり室内練習場へ。「YouTube見てます」。ファンの声に「見てるだけじゃなくて、登録もお願いしま~す!」。抜け目ない。

施設を縦横無尽に動く。キャンプ初日だ。いきなりの速射砲の質問攻めに、選手はたまらず“真実”を明かす。昼前、自信満々の顔で帰ってきた。

特命記者 最初に言っておきますが、いくらOBとはいえ、そこは貴重な球団の機密事項です。情報の扱いには細心の注意を払います。両チームにとって不利にならないようにします。

元プロ野球選手、フェアな対戦に水を差さない。ごもっともです。

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キャンプイン前日の1月31日。特命記者は1つの仮説を立てていた。「ホームランラグーン新設による影響で、ソフトバンク打線に狂いが生じたのではないか」(ラグーン効果)。

ロッテは昨年、ZOZOマリンスタジアム(以下マリン)の外野フェンスを最大で4メートル前にせり出し、ホームランラグーンを新設した。狭くなったマリンで、無意識に長打狙いとなった痕跡はあるのか。

昨季のソフトバンク戦で打率4割の井上のコメントには、合理的な要因が見えた。

井上 投手陣がソフトバンク打線を抑えていたから、いい雰囲気で打てました。僕の場合は(相手バッテリーが)長打警戒からか、際どいコースから入ることが多く、そこをしっかり見極めることができたので、結果的にカウント負けしないことが多かった感じです。だから、結果につながったんだと思います。

実際、マリンではロッテはソフトバンクをチーム防御率2・27と封じ込めた。

特命記者 ロースコアになっていたことがうかがえます。そうなると、ソフトバンクからすれば、1発がある井上は怖い存在。慎重に低くという意識から、際どいコースがボールになり、打者有利になった可能性はありますね。

「ラグーン効果」という仮説は、井上の「ロッテ投手陣が健闘した」との証言により、部分的に補完された。

取材を進めると、興味深い証言にぶつかった。

特命記者 どうやら打者の中から、マリンの球場全体が見づらいとの声も出ているようです。

これは風が影響していると予想できる。マリンでは、中堅方向からホームへ強風が吹く。名物とも呼べる特有の自然現象だ。

ここでロッテ一筋16年、特命記者のうんちくがさく裂する。

特命記者 僕たちにとっては本拠地です。だから、風は関係ない、やるしかない! これです。普通なら平凡な遊飛が、一邪飛になったことがあります。三飛が捕飛もざらです。「すぐに声を出すな」が鉄則です。内野フライと思っても、「流れてキャッチャーフライになるかも」と、いつも備えていました。

さらに種市は「ソフトバンク戦は低めへの投球が有効的に使えました」とコメントした。

特命記者 通常の意識よりも風によってさらにフォークは落ちますから。それだけ変化球の見極めに苦労していた、ということかもしれません。つまり「ラグーン効果」もありますが、風を含めての球場、という切り口かもしれませんね。

そこにハッとするデータが飛び込んでくる。マリンでのソフトバンク戦はロッテの10勝2敗。圧倒的な数字だ。一昨年の4勝9敗の大敗から一転、ロッテが大きく貯金を稼いだ。

特命記者 ロッテがいかに緻密にソフトバンク打線を研究し、そして大胆に攻めたかが見えてきます。この対戦成績を見れば、昨年のロッテは地の利を生かしたってことですね。

特命記者は、ロッテがマリンでの優位性を存分に白星につなげた試合運びに、今季躍進への可能性を見いだした。美馬、福田秀の補強もある。ホームでソフトバンクを圧倒した結果は、自信というアドバンテージになる。同じ優位性を他カードでも出せれば、Aクラス、優勝争いに食い込むポテンシャルは十分だ。

南国石垣島での取材を終え、ちょっぴり日焼けした特命記者は、有力情報にますます笑顔がさえる。情報を携え石垣島空港から、勇躍して宮崎へ飛んだ。

  

雨の宮崎・生目の杜運動公園。ソフトバンクのキャンプ地は、広大な敷地内に多数の施設が点在する。

ロッテに肉薄してつかんだ情報を胸に、特命記者は王球団会長にあいさつし、まず、スタッフの感触を確かめた。

特命記者 やっぱり、苦手意識はあるようですね。でも、そう簡単には本音にはたどり着けませんよ。

ここでも特命記者にはファンから声がかかる。「サイン下さい」。「大事な色紙にサインしたら、ソフトバンクの選手がサインするスペースなくなるよ」。何げない返しでも、どっと沸く。キャラクターで得をしている。

本丸へ潜入する。付き添いの中年担当記者がまごついてる間に、ブルペンから室内練習場につながる扉のすぐ横に交通の要衝を発見。スーツ姿の特命記者はデンと構えた。

特命記者 ここがどの選手も必ず通過するポイント。ここで取材です。

ヘロヘロで追いついた中年担当記者を尻目に、数分後には工藤監督にあいさつし、内川、高谷、甲斐と立て続けに直撃した。

内川 あっ、こんにちは。YouTube見てますよ。

若干、王者の貫禄が特命記者を圧倒するが、練習の邪魔にならないようマナーを守りつつ核心を突く。ロッテ戦への苦手意識は?

特命記者 内川はマリンは特に変化球の曲がりが違うと。でも、ロッテのピッチャーはそれを計算した上で変化球をコントロールしていると言ってましたね。

やはり、風が念頭にあるのか。続いて甲斐キャノンと和やかに談笑しつつ、内角をえぐってみる。

特命記者 ピッチャーがマリンを意識している感じですね。変化球が曲がりすぎるって。小さく曲げる変化球は投げやすいようですが、大きく曲がる変化球はコントロールに苦労していたようですね。

ロッテ井上が指摘していたカウント負けしない点と、甲斐が吐露した「マリンを意識している」のコメントが合致した。ロッテのマリンでの防御率2・27に対し、ソフトバンクのマリンでの防御率は4・17。2点近くも開きがある。

最後に武田を直撃。談笑後、特命記者は当然という顔つきで言った。

特命記者 (強風の時は風向きによって)ホームベース上が向かい風になり、ストライクゾーンの低めに狙ったボールが風の影響を受けて高くなることはあります、とは言ってましたが、それくらいでしたね。でも、そりゃ核心に迫ることは言わないですよね。選手にとっても、チームにとってもマル秘中のマル秘の情報です。簡単に外部に言うはずがないですよね。

仮説に基づき、両球団を丹念に回った。

特命記者 私の取材に基づく答えはこうです。『ソフトバンクはロッテよりも“ZOZOマリン”を意識していた!』

その背景にあるのは、ソフトバンクの打者は球場(マリン)全体が見づらいと感じているという証言であり、投手陣もマリンをかなり意識していたことが見えてきた。ソフトバンクは投打にわたって、マリンの強風にことさらに気を配っていたのではないか。そんな心理も透けてくる。

特命記者は最後、端的なコメントで締めた。

特命記者 あなたたちの対戦相手は誰ですか? ロッテと戦うんですか、マリンスタジアムと戦うんですか?

王者ソフトバンクの戦力の充実は揺るがない。そこに対して、いかに苦手意識を植えつけ、そこから生じるスキに付け入るか。その一例が昨年のマリンでのロッテ戦だった。今年もどこかで、ひそかに勝負のあやが生まれ、そこから優勝を左右する“特異な相性”が生まれるはずだ。