野球ひと筋の硬派 埼玉・滑川バッティングセンター

広いロビーにゲーム機はなく、中央にはぶら下がり健康器が置かれている

<週中ベースボール>

<バッセン巡り>

首都圏のバッティングセンターを訪ねる第4弾は埼玉県比企郡滑川町の「滑川バッティングセンター」です。「野球」以外はそぎ落とした硬派な施設です。打席に立つのは今回も、落合博満氏の技術書を愛読する、52歳の現役学童野球コーチです。

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滑川バッティングセンターのホームページ(HP)の言葉に引き寄せられた。

「練習は本番のように 本番は練習のように」

とりわけ野球人は「練習はうそをつかない」「継続は力なり」「アーリーワーク」「ランチ特打」「居残り特守」など、練習に関わる言葉に敏感だが、シンプルでいて奥深いのがいい。

滑川? どこ!? の疑問もHPで解決。東武東上線つきのわ駅で下車した。巨大ホームセンターを横目に、コンビニが1つもない住宅地と田畑が混在する道を進むと、四方を囲んだネットを発見。おそらく間違いないが、看板がない。店名は駐車場の表示板に、小さく書いてあるだけだ。引き戸を開ける。ロビーが広い。卓球台が3台ぐらい置けそうだが、ストーブが2台鎮座する。何よりバッセンには必ずある、ゲーム機がない。灰皿もない。懐かしい、ぶら下がり健康器はある。両替機は? あるけど受付に管理人はいない。電話の横に一筆あった。「御用の方は受話器を取って内線1番を押して下さい」。ええ~っ、無人バッセン!!

実は同店に管理人が勤務するのは平日は午後4時から。到着は同3時だったから、無人だったわけだ。内線で問い合わせを受ければ、隣接する経営会社「総武」のスタッフが対応するシステムだ。責任者の松本行功さん(52)に無人について聞くと「その時間はお客さんもそんなにいないし、田舎なもんでね」と苦笑い。ゲーム機がないのは「たまり場になってほしくないのもあるけど、野球だけやりに来て欲しいんですよ」と、核心に迫り始めた。

14年前にオープンした同店は、学生時代に野球部員だった総武の中澤哲也社長(49)の「練習は本番のように」のこだわりが込められた。マシンと打席の距離は、施設の都合で短くする店がある中、正規のバッテリー間18・44メートルに。ネットはマシンのアームとボールが見やすい黒色にした。7レーンすべてが両打席なのは珍しい。夜間用のLEDライトは、バッテリー間を照らすよう高さと角度を調節した。そして、ロビー隅に喫煙所を設け分煙にして、野球に無関係なものを排除した。順番待ちのための漫画に「ドカベン」が並ぶ徹底ぶりだ。最近は、希望者に無料でスイングスピードを計測するサービスも実施中だ。

さあ、打ってみよう。短距離で投げてくるバッセンは、バットが押される圧迫感が残りがちだが、それがなく、芯でとらえれば気持ちいい。球速も70~140キロまでそろう。速度が変わる実戦マシンもある。

オレ流の落合打法をマスターしようと52歳にしてあれこれ試しているが、気持ちよく打つうちに、ひたすらバットを振っていた。スイッチヒッターの松井稼頭央(現西武2軍監督)は、プロ入り後に作り上げた精密機械のような左打席と違い「右打席はバカになれ」と感性に任せて振り抜いたという。そうだ、稼頭央だ、バカになれ~と思い描くこと自体が、無心ではないが。充実の7ゲーム、1400円分、161球を打ち込んだ。

汗をぬぐいロビーに戻り、ぶら下がり健康器にぶら下がった。ひねり続けた腰が伸びて気持ちいい。これも野球に必要な、大切な器具だった。

午後4時になり、シルバー世代の管理人さんが登場。広いロビーで、ついバットを振ってしまうお客さんに注意する様子などを聞いた。バッティングは楽しい。でも、使い方次第でバットは危ない。野球に触れる機会が減った子どもたちは、案外知らなかったりする。管理人さんの注意は野球少年への金言だ。

特に週末や雨の日など、近隣地域から打ち込み不足の野球少年が集まる。松本さんは「利益より、地域貢献のつもりでやってます」という。総武はコンクリート資材の保管や荷役事業を手掛ける。本業もバッセンも本物の硬派だった。【久我悟】

◆滑川(なめがわ)バッティングセンター 1ゲーム23球200円。7レーンのうち2レーンでソフトボールが打てる。奥行き35メートル。ホームラン賞には景品あり。所在地は埼玉県比企郡滑川町月輪1614。東武東上線つきのわ駅から徒歩13分。車は関越道東松山ICから約5分。【電話】0493・62・1170(電話受け付けは午後4~9時)。営業時間は午前9時~午後9時。年末年始休み。