球数制限に金属バット、宮本氏&上原氏が球界に提言

対談で野球界に提言する宮本慎也氏(左)と上原浩治氏

<深掘り。>

#開幕を待つファンへ。待ち遠しいシーズン開幕を前に、日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏(49)と上原浩治氏(44)が、野球界のルールを追究しました。メジャーで新たに導入されるワンポイント禁止、高校野球の球数制限、そして金属バットの反発係数…。ベテラン遊軍の小島信行記者が加わってのぶっちゃけトーク第2弾は脱線なし!? の忖度(そんたく)なしです。

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小島記者 前回の対談(3月20日付紙面)は最後、とんでもない方向に進んでしまいました。その反省を踏まえ、今回はテーマを絞りたいと思います。

宮本 その方がしゃべりやすいし、脱線もしないでしょう。

上原 テーマは何なんですか? しゃべりたいテーマはいろいろあるけど。

小島 野球界のルールについて、追究していきましょう。

上原 それだったら、ピッチャーを代表して言いたいことがあります。今季からメジャーで導入された“ワンポイント禁止”【注1】について。決まったものは仕方ないけど、また投手に不利なルールができた。

宮本 これはダメだよなぁ。メジャーが新しいルールを作ると日本もまねをするけど、これはやらない方がいいな。

上原 変則のリリーバーにとっては、死活問題になる。メジャーでやるなら、WBCでもやるでしょう。日本は、投手力できめ細かな継投でしのぐ野球でないと勝てない。侍ジャパンのメンバーの選び方だって変わってくるでしょうね。先発の代え時も難しくなる。代わった投手が打者3人に投げないといけないんだから。それに最初の打者に1球もストライクが入らずにフォアボールを出しても代えられない。3人で抑えた時は時間は短くて済むけど、明らかに調子が悪い投手でも投げさせないといけないなら、トータル的に時間の短縮にもならないんじゃないかな。

宮本 打順の並びも変わってくるかも。右打ちや左打ちを3人以上、続けないオーダーを組んだ方がいい。投手を代える時って、あらかじめ「この打者に回ってきたら」とか「何球まで」とか、後に投げるピッチャーが準備しやすいように目安をつけておくことが多い。偏った並びなら、相手ベンチは継投をやりやすくなる。

上原 メジャーは日本ほど細かく考えて継投しない。機械的に順番通りに投げさせることの方が多いけど、日本は影響が大きいでしょうね。大体、投球間隔の時間を制限したり、けん制球ルールだって厳しくなっている。歴史的にピッチャーに不利なルールばかり増えているでしょ。

宮本 昔はヘルメットなしで打席に立ってたもんな。エルボーガードやレガーズとか装着OKになったのも、打者には有利。ヘルメットなしで打席になんて立てないもん。それがエルボーガードを着けておいて、わざとぶつかっていく打者もいる。当たりにいったら、さすがに死球にはならなくなったけど、その辺は投手に同情するよ。

小島 時間短縮のためにやるのなら、ストライクゾーンを少し広げればいいと思うんですが?

上原 それいいね。絶対に早くなる。

宮本 それはなぁ…。外角とか広くなってバットが届かなければ打てないよ。

小島 広くするのは高めだけ。高めならバットは届きますよね。それに元々野球規則にあるストライクゾーン通りにやれば、高めは広くなりますよ。

上原 同感! 投手有利にルールを変えるんじゃなくて、元々あるルール通りにしろってことだもん。高めを広くすれば、バッターも高めを意識して振ってくる。三振も増えるだろうけど、ホームランはそんなに減らないんじゃないですか?

宮本 いやいや、高めを打つのって技術が必要。そんなに簡単じゃないよ。

上原 それじゃ、ボールを飛ばなくするのは? メジャーでも、ここ何年かボールが飛ぶようになってる。松井(秀喜)さんなんて、今が現役だったら絶対に40本以上、打ってますよ。

小島 ひと昔前にボールが飛ばなくなった時は「面白くない」ってなったから…。

宮本 外野を狭くしてホームランが出やすい球場が増えている。やっぱり、得点が入らないと面白くないと思うファンが多いんだろうな。でも、こすった当たりや泳いで打った打球がホームランになっちゃうのは、やりすぎのような気がする。どんな形でも芯に当てればホームランになるっていうんじゃ、打者のレベルが上がらない。投手に比べ、メジャーで活躍できる野手が少ないのも、打者有利の環境が影響しているんだろう。

小島 高校野球で話題になっている球数制限【注2】は、どう思いますか?

上原 なんか違うような気がするんですよねぇ。投手を守るっていう理由なんでしょうが、もし(自分が)アマ時代に球数制限があったら、プロに入れなかったと思う。

宮本 それこそ球数制限をする前に、やることがあると思う。今の金属バットは飛びすぎ。反発係数とかを制限して、飛ばなくすればいい。

小島 ピッチャー返しで死亡事故があり、900グラム以上というバットの重量制限をして飛ばないようにしたんですが、それだとほとんどの選手が振れない。だからメーカー側がバットの重心を手元にもってきて、扱いやすく改良したんですよね。【注3】

宮本 体重が100キロあるバレンティンが880グラムのバットを使っているのに、50~60キロぐらいの高校球児が振れるわけない。だから手元重心にしたんだろうけど、木製はどんなバランスにしても、金属よりトップバランスになる。だから木製バットへの対応に時間がかかる。

上原 アメリカは州によって違うけど、金属は反発係数を制限しているし、木製を使っているところもある。韓国も木製だって聞いている。高校の侍ジャパンは、(国際大会では)木製でやらなきゃいけない。だから勝てないんだと思う。

宮本 ひと昔前は、大学・社会人の即戦力は、すぐにプロでも活躍したイメージがある。でも、今は昔より少なくないですか?

小島 データを取ったわけじゃないですが、確かにそう思う。でも今、大学・社会人が使うのは木製ですよね?

宮本 大学や社会人だと、木製になって、みんな(球が)飛ばないから根本的な打ち方が変わらない。プロの世界にいきなり入る高卒選手は「みんな飛ぶのに俺だけ飛ばない」って焦る。だから根本的な部分からバッティングを見直す。ここ最近、レギュラーとして大物感ある選手は、ほとんどが高卒じゃない? 大学、社会人出にいないわけじゃないけど。

上原 そう言われてみればそうですよね。僕なんかも大学時代に金属バットのキューバと対戦したんですけど、とにかく低めに投げないと、って必死だった。そうやって投げればレベルも上がりますよね。

小島 あの時のキューバはすごかった。リナレス、キンデラン、パチェコ…。

宮本 でもウエ(上原の愛称)の評価はそれで上がったもんな! やっぱり全体的なレベルの向上を考えていかないと(国際レベルで)取り残されてしまう。金属だった社会人時代、守っていても「こんな打球は捕れない」って打球があった。

上原 キューバ戦でリナレスにバックスクリーンにホームランを打たれたんだけど(97年インターコンチネンタル杯決勝)、ちょっと手を伸ばせば捕れそうな高さの打球だった。あんな打球見たことないし、もし頭に飛んできたら死んでいたと思う。

小島 金属バットの反発係数を抑えれば、球数も減るし、打者のレベルも上がるってことで締めればいいですね。

宮本 その分、重量を軽くして扱いやすくするから、球数がどれぐらい減るかは分からない部分がある。でも球数制限する前にやることをやって、それでもダメならまた考えればいい。

上原 今日は真面目な話ができてよかったです。

【注1】ワンポイント禁止 MLBが今季から新たに導入するルールで、先発か救援かにかかわらず投手は1度の登板で少なくとも打者3人に投げるか、回の途中からの登板の場合は3アウト目を取って回を終わらさなければならない。投手交代の回数を減らし、試合時間短縮につなげることが目的だが、これにより、左のスペシャリストとして重宝されてきた投手は特に、起用される機会がなくなるとみられている。また多くの監督はこのルールに反対しており、敬遠四球の大幅増など試合運びの変化が予想されている。今季は開幕が延期になり短縮シーズンになるが、開幕すれば新ルールが適用される見通し。

【注2】球数制限 昨年10月に高野連が今春からのすべての公式戦で採用すると発表。1週間で1人の投手が投球できる総数を500球以内とし、ノーゲームになった試合もカウントされる。また申告敬遠も採用され、申告すれば投球せずに故意四球にできる。

【注3】金属バットの歴史 71年に来日したハワイ州選抜チームが紹介。バットの原材料不足を理由に、74年センバツ大会後から採用。その後は飛距離を追求する方向で改良が進んだが、90年代に入り、練習で打撃投手を務めた生徒が打球を頭部に受けて死亡する事故が発生。01年2月、無制限だった重量を900グラム以上、70ミリ以下だった直径を67ミリ未満に変更。同年秋から新基準のバットを使用している。社会人は79年から金属を使用するようになったが、打者優位で試合の面白みがなくなることもあり、02年春から木製に戻した。