宮本慎也氏と和田一浩氏の打撃スイング論/前編

和田氏と宮本氏の打撃感覚

<深掘り。>

#開幕を待つファンへ。日刊スポーツ評論家によるぶっちゃけトーク第5弾のテーマは、宮本慎也氏(49)と和田一浩氏(47)の“打撃の感覚”です。打撃スイングを表現する言葉はいろいろですが、その中でのポイントを深掘りしました。ベテラン遊軍・小島信行記者が加わっての今回のクロストークは、前後編の2回に分けてお届け。マニアック? な内容かもしれませんが、特に指導者の方は必見です!

小島記者 前回(4月14日付紙面)は「フライボール革命」についてお話を伺いました。打撃理論は難しいですね。今回はおふたりの「打撃」について伺おうと思います。難しくなりすぎて、分からなくならないようにお願いします!

宮本 確かにバッティングっていうのはピッチャーの投げた球を打つ技術で、受け身な部分が多い。それだけに、いろいろな理論がある。難しいですよね。

和田 どの世代、どのレベルの打撃を教えるかによっても違う。でも、まずは振る力をつけること。それがないと、いいスイングはできません。

宮本 最初は打てなくてもいいから、重いバットや長いバットを振って力をつければいいのか? といえばそうでもない。ある程度、身の丈に合ったバットを振っていかないと、変な癖がついてしまう。理想はしっかり振れるようになった中で、目いっぱい、重いのや長いのを振って力をつければいい。だから素振り、フリー打撃、実戦ではバットを変えてやるのがいいと思う。素振りなら、フォームだけを気にして振れるから重い、長いでもある程度は大丈夫。フリー打撃になると「当てる」という意識が出てくる。実戦になれば、さらに「変化球への対応」や「ストライクゾーンの見極め」などの比重が高くなる。力をつけるといっても、重いのや長いのでは結果も出ないし、フォームもバラバラになっちゃう。

和田 打撃練習でも、高校生ぐらいになると木製バットでやるのがいいって言いますよね。でも、振る力や技術がないと、手が痛くて極端に前で打とうとしたり、詰まるのが嫌で変にバットをこねたりする。個々の能力によっても違うし、高校まで一生懸命やりたい選手と、木製でやる大学までやりたいという志を持った選手では、練習方法も違う。逆のアプローチだけど、プロに入って打撃に悩んだ時、金属バットを使って練習した時もあった。簡単に打てるし、飛ぶから、いろいろと考えすぎてダメだった部分がなくなったりする。プロだけでなく、木製を使う大学生や社会人の選手にはお勧めします。

小島 でも野球をやっている子供は、大抵プロになりたいと思ってやっていますよね。実現するかは別として、聞きたいのはプロになるために必要な、打撃技術の練習法や考え方です。

宮本 そうですよね。さっき話した“身の丈に合ったバット”でも、ある程度の“見る目”がないと分からない。そういう意味で当たり前だけど、指導者は大事ですよね。

小島 「指導者が大事」というフレーズが出てきました。打撃では「ゴロを打て」とか「たたきつけろ」とか、そういう指導が多くないですか?

和田 難しいのは、そういう指導も一概には「間違っている」と言えないんですが、でも何でもかんでも「ゴロを打て」と教える指導者が本当に多い。「上から打て」と「ゴロを打て」って違う。現役時代、練習なんかではゴロよりフライだった。それでも「上から打つ」という意識は持っていました。

宮本 そこなんだよね。バットを持つ位置って、必ずといっていいけど、実際にインパクトする位置より上にあるでしょ。だから上から打つってのは間違っていない。どんなスイングをするにせよ、ダウン→レベル→アッパーの順番。その真ん中にあるレベル部分が難しい。ボールが来る軌道っていうのは、投げた位置から落ちるように下がってくる。ミートゾーンを長くするなら、ボールの軌道に合わせて、少しだけアッパーの軌道になる。まぁ、今は偉そうに言っているけど、俺なんかプロに入ってしばらくの間は「上からたたきつける」みたいに思っていたし、実際にそうやって打っていたけどね(苦笑い)。

和田 そこの表現は、本当に難しい。さっき僕は「上から打つ意識」って言ったけど、実際だと、トップを作ってから打ちにいくと、バットのヘッドの重みがあるから、その分だけヘッドだけが後ろに残るって感覚ができる。そこからヘッドを走らせるためには、少し上から押し込むような感覚で振らないといけない。だから、僕の使っていたバットは、普通の人が使うバットより、ヘッドが利いているというか、先の重いバランスでした。

小島 簡単に言うと、ヘッドが落ちるから、そのまま下からインパクトするんじゃなく、上からかぶせるようなイメージで打ちにいくってことですか? 

和田 そこの表現も難しい。「落ちる」って言葉も「残る」とは違うし、「かぶせる」って言葉も「上から押し込む」って言葉とは違うんですよねぇ。

宮本 ここの表現は、みんな個々で違うんだよ。オリックスの吉田(正尚)に「インパクトする時、どういうイメージを持っているの?」って聞いた。そうしたら「上から出すイメージです」って。もう1つ、「バットのヘッドを返さないイメージはある?」って聞いたら「いや、とにかくバットのヘッドを返すことを心掛けています」って答えだった。個人的に彼のスイングが好きなんだけど、好きなイメージの部分が逆の答えだった(笑い)。「えっ、そういう風に見えますか?」って逆に聞かれたから「下からかち上げにいっているし、ヘッドを返さないように打って見える」って答えたら、キョトンとした顔をしていた(笑い)。

小島 彼のスイングは上からたたきつけたり、こねるようなスイングはしてないですよね。取材をしていると、実際のスイングと、それを表現する言葉が、大きく違うことが多い。特に大砲系の打者が違います。代表的なのが王(貞治)さんじゃないですか? 素振りではダウンスイングの元祖みたいに上から振っていきますが、試合で打っている映像では下から振っています。

宮本 イチローは逆で、素振りではゴルフスイングみたいに振ってますよね。ホームランの世界記録保持者と、メジャー記録を持っている人の打撃を語るのはおこがましいけど、独自の理論があるんだと思います。単純にいうと、アッパーになりすぎるから素振りでは極端なダウンでやるとか、その逆とか。自分の持っている悪癖とか、修正したい部分を理解しているから、極端な動作で矯正しているんだと思う。選手を指導する時、何かを直したい場合は、極端な動きをさせる時がある。それが一般的な打ち方と違っても。

和田 そうですよね。僕も人に教える時、最初に全体的なバランスを見る。それでバットを上から出し過ぎる選手には、下から打てって言うし、下から出過ぎる時は上から打てって言う。バッティングには、いろいろな打ち方があるけど、これだけは絶対にやっちゃダメっていうのがある。まずはそこを直さないと。

小島 絶対にダメとは、どんな部分ですか?

和田 いろいろありますよ。代表的なものでいえば、インパクトでバットのヘッドが外側から入るスイング。これだと絶対に強い打球は打てない。

宮本 それは絶対ダメなスイングに分類されるよな。特に上から打つタイプには、ヘッドが外側から入ってしまうタイプが多い。無理やりゴロを打とうとすると、外側から入りやすくなっちゃう。日本の指導者は、ゴロを打たせようとする人が多いから、この手のタイプが多くなる。外から入ると、向かって来るボールに対し、切るようなインパクトになって、こするような打球になりやすい。そうやって打つと、ゴロを打つために上からたたくつもりでも、ダメなフライになりやすい。

和田 逆にアッパーで打とうとすると、ドアスイングになりやすい。ヘッドが出るのが遅れるから、グリップが体の前に入って来ない。だから体の中でインパクトできない。

小島 では、行数に限りがあるので、今回はこの辺で終わりましょう。

宮本 えっー、突然すぎないですか?

小島 仕方ないです。マニアック過ぎて、ニーズがあるか心配ですが、次回に続きをやりましょう! 

(後編につづく)