仕事上手は遊び上手が適任/宮本慎也氏のリーダー論

07年11月、北京五輪予選の日本代表練習中、星野監督(左)と話をする宮本

<深掘り。>

#STAYHOMEの野球ファンへ-。日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏(49)が今回、掘り下げるのは「リーダー論」。アテネ、北京オリンピック(五輪)での代表キャプテン時の成功体験と反省、リーダーに求められる資質は? ここまで語ってこなかった考えを、ベテラン遊軍・小島信行記者に明かしました。

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小島 すっかり恒例になった“深掘りインタビュー”ですが、今回もよろしくお願いします。

宮本 また俺だけ?

小島 今回のテーマは宮本さんの“リーダー論”についてお願いします。

宮本 現役時代や引退した後にも“リーダー論”について、出版やインタビューのお話を頂いたんですが、あんまり気が進まないんですよねぇ(苦笑い)。

小島 でも侍ジャパンのキャプテンでしたし、ヤクルトでもチームリーダーでした。いろんな秘訣(ひけつ)があるでしょう?

宮本 ちょっと恥ずかしいじゃないですか。そんな立派な人間じゃないですよ、僕は。みんな誤解しているんです(笑い)。

小島 そういうのは言い出すときりがないので、始めましょう(笑い)。五輪やWBCでは、どんなことに気を使っていましたか?

宮本 まず、みんなそこから誤解しているんですよ。アテネと北京の五輪ではキャプテンでしたが、優勝したWBC(06年、第1回)ではやってないんです。「侍ジャパン」っていうのは、第2回大会から原監督が命名したんですよ。厳密にいえば、侍のキャプテンじゃないんです。

小島 すみません(苦笑い)。では、五輪ではどうだったんですか?

宮本 そうですねぇ。アテネ五輪は日本のトッププロが初めて集まったチーム。ファンだけでなく、選手も勝って当たり前みたいな雰囲気があったんですよ。でも、勝負事ってそんなに甘くない。最初はキャプテンとして何をやったらいいか分からなかったんですが、まずはその雰囲気を変えなきゃいけないなぁ、って考えていました。そうこうしていたら、壮行試合の最終戦で負けちゃって。次の日の練習から、少し緊張感が出てきたと思ったので、本番前に選手だけのミーティングをやったんです。簡単に言うと「絶対に負けられない試合なんだ」ってプレッシャーかけたんです。後から聞いた話ですが、みんな「そこからチームの雰囲気がガラッと変わった」って。それが僕のキャプテンとしての成功体験ですね。結果的には銅メダルで終わったんですが、あのチームは強かったと今でも思っています。

小島 アテネは予選後に長嶋監督が倒れてしまい、中畑さんが本番から監督を代行。試合展開も、運に見放されたという感じだっただけに残念でした。でも立派に戦った姿はみんな見ていたし、銅メダルでも納得した五輪でしたね。

宮本 みんなのおかげですけど。でも北京は難しかった。アテネはたまたまなんでしょうけど、僕がキャプテンをやりやすいメンバーが集まっていた。チームの雰囲気もよかった。でも北京は、僕より年上の選手がいたし、すごい年下の選手もいた。それでも予選は勝ったんで「これでいいや」って、僕自身が油断してしまった。キャプテンとして大反省です。年上とか年下とか関係なく、キャプテンを任されたんだから、もっとコミュニケーションをとるべきでした。一発勝負の短期決戦は怖い。どうにかしなきゃって思った時にはどうにもならなかった。「チームは生き物」なんですよね。

小島 キャプテンの大事さを自覚したってことですね。どういう人間を選ぶべきですか?

宮本 うーん、それはチームによって違ってくるんじゃないですか? 今、外出自粛中で、野村(克也)さんに教えていただいたノートを自分なりにまとめているんですが「仕事上手は遊び上手」というのがあるんです。簡単に言うと、成長や進歩する人間は、時間の使い方がうまい。そういう人間は伸びるし、そこがダメだと伸びない。キャプテンをやるようなリーダーって、そういう人間がやるのがいい。真面目ばかりでは息苦しくなるし、長い時間、そういう人に付いていくのは疲れるでしょ。かといって不真面目すぎるのは論外。そういう観点からいうと最低限、練習をしっかりやれない選手はダメでしょう。自分がやらないのに、他の選手にやれって言えない。言っても不平不満の元になる。でも、どんなチームでもサボり癖のある選手をキャプテンにはしないでしょう。

小島 分かりませんよ。よく「地位は人をつくる」って、キャプテンを決めるケースがあるじゃないですか?

宮本 それは失敗する典型的なパターン。キャプテンにしたからよくなったって成功例はあまり聞いたことない。それに個人を成長させるために、チームを犠牲にしたらいかんでしょう。「元々しっかりしているけど、ちょっとおとなしい」といった選手にキャプテンをやらせて、モノを言えるようになったとかはある。実際、ジャパンのような即席チームでは、キャプテンって肩書があった方がやりやすかった。でも、根本的な部分でしっかりしていない選手がキャプテンをやっても、ちゃんとやるのは最初だけ。続かない。

小島 そういうものですよね。人はそう簡単には変わらない。

宮本 「変わりたい」と本人が心の底から思っていれば、変われると思う。でも、自分でそう思っていないなら、キャプテンに任命しても同じ。難しいですよね。野球の実力があって、1本立ちしてもらいたいと思う選手がいるなら、キャプテンにする前にちゃんと教育すべき。単純にキャプテンにしたからちゃんとなるだろうっていうのは、指導者の手抜きだと思う。

小島 だからヤクルトのヘッドコーチの時は若手に厳しかったんですね。

宮本 世代が違うと、なかなか伝わらないですよねぇ。辞めたばっかりだから、ヤクルトの話は、あんまりしたくないからやめましょうよ(苦笑い)。

小島 でも本当に強いチームを作ろうと思うなら、いいチームリーダーの育成は必要でしょう?

宮本 プロのチームで難しいのは、そこの部分。アマチュアなら、野球が下手でも一生懸命に練習するとか、チームに対しての貢献度があるとかでも決められる。でも、プロは絶対的に野球がうまくないと難しい。実力に加え、チームへの愛情とか人格的な部分も備わっていないと、人は付いてこないでしょ。そんな選手はなかなかいないし、育てようとしても、なかなか育てられるもんじゃない。だから難しいんですよ。

小島 弱肉強食の世界。たとえチームが負けても、自分が打てばいいって選手もいる。優勝しても自分がクビになったら、というのもありますよね。

宮本 難しくても、リーダーを育成する努力は必要だと思う。だけど特殊なプロの世界では、基本的にキャプテンを無理に作らなくてもいいと思う。もちろん、いいリーダーがいるチームは強い。巨人は強くなきゃいけない、っていう遺伝子が伝統的に受け継がれているし、ソフトバンクも小久保(裕紀)を筆頭に歴代、いいリーダーがいる。ヤクルトも古田(敦也)さんがいた時は強かった。そういうリーダーが各チームに現れて、球界を盛り上げてくれればいいですね。

◆今季の12球団主将

【巨人】坂本勇人

【DENA】佐野恵太

【阪神】糸原健斗

【広島】なし

【中日】高橋周平

【ヤクルト】青木宣親

【西武】源田壮亮

【ソフトバンク】なし

【楽天】茂木栄五郎

【ロッテ】なし

【日本ハム】西川遥輝

【オリックス】なし