振れ!飛ばせ!/和田一浩氏の考える強打者の育成

ハンドファースト(左)、ハンドレート

<深掘り。>

#野球には夢がある- 日刊スポーツ評論家、和田一浩氏(47)の「強打者論」最終回は「強打者」を育てるために必要な考え方に焦点を当てます。子供たちへの指導方法から、強打者の応用技術まで、ベテラン遊軍・小島信行記者に解説しました。今回は特に、小中学生の指導者の方、必見の内容です。

小島記者 前回(5月20日付紙面)は「強打者」になるために必要な技術として<1>バットを内側から出す<2>「割り」を作る、を挙げてもらいました。なぜバットを内側から? や、野球の技術解説で頻繁に出てくる「割り」について、とても分かりやすかったです。

和田 技術の解説をする時、この部分を説明するのって難しいんですよ。理解している人に対して話すのはいいんですが、技術に興味のないファンにとっては、まどろっこしくなって嫌になっちゃう(苦笑い)。じっくりやれて、僕もスッキリしました。

小島 野球を指導する皆さんが、読んでくれていたらいいですね。野球経験のないファンの方や女性も、この辺りの技術論を理解しておくと、選手の将来性を予想したり、ひと味違った楽しみ方が増えますね。

和田 でも、プロだって分かっていない選手はたくさんいますよ。バッティングフォームを変えた選手に「どうして変えたの?」って聞く時があるでしょ。そうすると、案外分かってなかったり、間違った解釈をしている選手が結構いるんですよ(苦笑い)。

小島 バッティング理論は、個々でいろいろありますからね。でも土台となる基本が違うと、なかなか成長できません。

和田 例えば、右投げ右打ちと右投げ左打ちって、利き手の右手が前後で逆だから理解の仕方も違ってくる。だからいろいろなアプローチが必要なんです。でも過程は違っても、根本的な部分はそれほど変わらない。そこが分かっている選手は、違った意見でもいいところだけを取り入れる。逆に根本的な部分が間違っていたり理解していないと、その時できていても、しばらくたつと忘れちゃう。僕が「遅咲きの選手」と呼ばれるのも、若い時は何も考えずにやってたから。クビになりそうで、必死に考え、教えてもらって打てるようになった。ガムシャラにやるのも必要だけど、頭で理解しないと、自分のものにはならない。

小島 説得力ありますね(笑い)。プロでも理解してない選手がいるんですから、アマチュアの選手はもっと難しい。指導者が大事ですね。

和田 特に大事なのは小中学生の指導。あまり難しいことを教えても理解できない場合が多い。だから「思い切り振れ!」「遠くに飛ばせ!」「強い打球を打て!」でいい。

小島 先日の宮本(慎也)さんを交えてのクロストーク(4月17日付紙面)でも「ゴロを打て」の指導は、バットのヘッドが外側から出やすくなって、正しいスイングが身につかないという話でしたね。

和田 そうそう。今回はそこの技術的な解説はしませんが、小さい子供の指導者は「バント」や「待て」のサインを頻繁に出してほしくない。とにかく思い切って振らせてほしい。とんでもないボール球を思い切り振ったら、なかなか当たりません。でも、そんなボールを振っていくうちに「こんな球は振っても当たらない」って体で覚える。そうやって打ちにいく中で、ボールを見極められないと。ボール球をマン振りして空振りすると、怒る指導者がいる。性格にもよるけど、怒られると大概の子は「打つ」より先に「見る」から入るようになって、なかなかバットが振れなくなっちゃう。

小島 初球から打ちにいけなくなるってことですね。

和田 コップを逆さまにして、その中にノミを入れておくとコップの高さしか跳べなくなるっていいます。それと同じ。最初にこぢんまりとした打撃を教えると、そこで終わってしまう。思い切って振っていれば体に力もついてくる。振る力がないと本当のバッティングはできないですから。

小島 非力な子供は、打球を押し込む力がないから、ヘッドを返して当てようとしますよね。

和田 そうなんです。指導者も「前で打て」って子供に言いすぎると、ヘッドが返りやすくなってしまう。ヘッドを返して打つ癖がつくと、後ろの腕で打球を押し込めないから強い打球が打てないし、変化球にだって我慢がきかなくなる。バットを内側から出すっていうのは「ハンドファースト」にしてインパクトすること。「ハンドレート」だとヘッドが返ってしまう。

小島 「ハンドファースト」はグリップより後ろでインパクトすることで、「ハンドレート」はグリップの位置より、投手側でインパクトすることですね。

和田 その通り。ゴルフをやる人は分かるんじゃないかな。ただ、上半身の動きの話ばかりしましたが、下半身の方が大事。しっかりと軸足に体重を残し、軸回転で打つ。どんなに上半身の使い方がうまくなっても、土台となる下半身がフラフラしていたら、意味がないですから。

小島 「強打者」に必要な技術は、他にもありますか?

和田 いろいろありますけど、基本的なこと以外は人によって違うからなぁ。

小島 松井(秀喜)や西武の中村、巨人の中島は、追い込まれていない時に狙い球が違った場合は、わざと空振りすると言っていたんです。例えば真っすぐを待ってフォークが来た時。体勢が崩れて当てにいくとアウトで終わってしまいますが、そのまま真っすぐの軌道でバットを振ればワンストライクで済むと。

和田 その技術は難しくて、僕にはできなかった。頭で考えたことはあるんですが。それをやろうとすると、思い切って振れなくなる。できていたら、もっとホームランは増えていたでしょうけど。

小島 確かに和田さんは「初球からそんなに難しい変化球を打たなくてもいいのに」って思う時がありました。バッティングカウントでタイミングを外されても、球に食らいついていくタイプでしたね(笑い)。

和田 だから、それができたら「ホームランが増えた」って思うんです。「強打者」にもタイプがある。失投を逃さず確実にホームランにするタイプと、僕みたいに難しい球を長打するタイプ。やっぱり難しい球って、二塁打にはできてもホームランにするのは難しい。僕は難しい球を打てても、失投を打ち損じることも多かった(笑い)。

小島 使い分けられれば、最強打者になれました?

和田 狙い球の絞り方の精度がもっと高かったり、「目付け」なんかを覚えれば、もっといい打者になれたかもしれません。その辺は、宮本さんに教わったらいいと思います。僕は不器用だったんで、考えすぎると打てなくなる。練習では考えてやりますが、試合はシンプルに。言い方を変えると「試合であれこれ考えなくていいように、練習で必死に考えてた」って感じです。バッティングを極めようと思ったら、3回くらい人生をやり直さないとダメでしょうね。

小島 バッティング技術は、追究してもしきれませんね。早くユニホームを着て“和田2世”を育ててください。楽しみにしています。