ポップスあり賛歌あり響け球団歌&応援歌!徹底解説

スージー鈴木さん

プロ野球開幕! 12球団の球団歌、応援歌を野球音楽評論家のスージー鈴木さんが徹底解説、全力評論。

歌おう! プロ野球。響かせろ! 俺たちの最強アンセム。球場で声をからす日まで、まずはテレビやデジタル機器の前で。【取材=秋山惣一郎】

-巨人と阪神。プロ野球草創期からの伝統の一戦。球団歌にも伝統を感じます

スージーさん 阪神の「六甲おろし」ですね。1936年(昭11)の球団創設時に作られました。文学的な情感あふれる歌詞。メロディーは、この時代にしては、とてもモダンな7音音階(ドレミファソラシド)。当時の日本の音楽は、演歌や民謡で多用される5音音階(7音のうちファとシの2音を使わない)が主流だったので、とても斬新に響いたことでしょう。サビは「オゥ オゥ オゥ」の音韻を「ソドドミ」の音列で盛り上げて、最後は「ミレレド」と3音でシンプルに締めてます。

-作曲は、NHK連続テレビ小説「エール」の主人公、古関裕而です

スージーさん 古関裕而の応援歌作りは、彼の最初期の傑作、大学野球、早大の「紺碧(こんぺき)の空」に源流があると考えます。「覇者 覇者 早稲田」で終わる「締まった感」「決まった感」が応援歌には大切だと気づいたのではないか。巨人の「闘魂こめて」も古関作品で「それゆけ 巨人軍」で終わるメロディーにも「締まった感」があります。エンディングの美学を感じますね。古関裕而は、中日の「ドラゴンズの歌」も手がけてます。

-古い球団歌が今も愛唱されるのはいいことです

スージーさん 「阪神タイガースの歌」「巨人軍の歌」と正式タイトルがあるのに「六甲おろし」「闘魂こめて」と俗称で語られるのは、ファンに愛されている証拠です。ともに球団のシンボル的な、動かしがたい存在と言えるでしょう。

-広島の「それ行けカープ」もファンに愛されていますね

スージーさん 作詞は有馬三恵子。南沙織の「17才」の人です。この曲は音楽的にどうこうより、曲の持つ物語性が重要です。75年、被爆地・広島の市民球団が、戦後30年目に初優勝した年の曲です。歌が、球団の最も輝いた年を想起させる。美しい思い出とともに語られる曲があるのは、それだけでとても幸せなことですよね。

-ヤクルトの「東京音頭」もファンに歌い継がれています

スージーさん これも78年の初優勝が、名物応援団長だった岡田正泰さんの姿とともに思い出されます。グローバル都市・東京の中のローカリズム。巨人とヤクルトの関係みたいですね。ただ、典型的で昭和的な短調5音音階なので、今の子供たちがなじめるか。今後がちょっと心配でもあります。

-74年の優勝の年に生まれた中日の「燃えよドラゴンズ!」はプロ野球ソングの大ヒット曲です

スージーさん 阪神の「六甲おろし」と並んで、個人的には殿堂入りの名曲です。「遠い夜空に」から同じような音列を4回繰り返して、サビへ向かって盛り上がっていく。シンプルかつドラマチック。1つの音列を何度も繰り返すのは、ビリー・ジョエルの「アレンタウン」にも似ていて、洋楽的と言えます。巨人のV10を阻止した74年バージョンのイントロは、「ハレルヤコーラス」に似たバロックの響きです。東の小林亜星、西のキダ・タローと並ぶ企画物作家、山本正之の作曲。板東英二の歌唱も素晴らしい。

-横浜は「熱き星たちよ」(正題・横浜ベイスターズ球団歌)のサビが耳になじんでいます

スージーさん これも98年、38年ぶりの優勝を思い出します。毎年、バージョンを変えて監督や選手が歌うのがいい。個人的には、応援歌「勝利の輝き」というバラードが好きです。

-西武の「吠えろライオンズ」は90年代から歌われています

スージーさん 作詞作曲は、80年代にアイドル的人気を博したシンガー・ソングライターの石川優子。サビから入る歌い出しの「吠えろ~」は、「ソッソミー」と音が跳躍する感じが気持ちいい。今季は広瀬香美が歌うそうです。西武球場でのコンサートで知られる渡辺美里を加え、清潔感のある歌声の女子3人。何か共通項がありそうです。

-西武には「地平を駈ける獅子を見た」も

スージーさん 79年の誕生当時、新生球団を強く印象づけた名曲です。阿久悠作詞、小林亜星作曲、歌は松崎しげる。軍歌、行進曲調が球団歌の主流だった時代にポップス路線へ転じたのが画期的でした。

-日本ハムは「ファイターズ讃歌」

スージーさん 74年、球団結成時の曲です。作曲の中村泰士は、72年にちあきなおみ「喝采」でレコード大賞受賞、歌唱は「宇宙戦艦ヤマト」(74年)のささきいさお。ノリに乗ってる2人を起用しました。北海道移転後は「Go! Go! ファイターズ」やJソウル路線の「La La La FIGHTERS」もありましたが、斬新、難曲すぎました。結局、残ったのは、古風な感じの曲を濃厚にシャウトするバージョンの「-讃歌」でしたね。

-ソフトバンクは「いざゆけ若鷹軍団」

スージーさん 球団歌、応援歌では今や少数派となった短調の曲です。近年はリズムをヒップホップっぽくして「時代遅れ感」を薄めていますね。ダイエー時代、阿久悠作詞、宇崎竜童作曲の球団歌「ダイヤモンドの鷹」がありましたが、唱和しやすさで「いざゆけ-」が残りました。

-ソフトバンクへの身売りで歌詞も変わりました

スージーさん 初めて聴いた時、「ソフト(バンク)」を3連符に無理やり詰め込む感じが、佐野元春みたいで笑っちゃいました。プロ野球では、親会社が代わることもあるのだから、素直に「福岡ホークス」でよかった。DeNAも「横浜」のままでいい。球団歌はチームやフランチャイズ都市への敬意や誇りを喚起するものであって、親会社へのそれではない。球団歌に親会社の名前は必ずしも入れなくてもいいのではと思います。

-ロッテの「WE LOVE MARINES」は千葉移転の92年の曲です

スージーさん 作詞は「翼をください」の山上路夫。作曲は「気絶するほど悩ましい」の梅垣達志とポップスの作家陣。でも「マリンに集う我ら」の方が音楽的に高度で、唱和して楽しい名曲だと思います。

-楽天はクラシックな「羽ばたけ楽天イーグルス」

スージーさん 05年の創設時、モーニング娘。が歌う応援歌「THEマンパワー!!!」で従来の常識を破ろうとしたが、無理がありました。定着したのは、メジャーキーだがリズムやアレンジが極めて昭和な「羽ばたけ-」。「杜(もり)の都」「竜飛崎」「磐梯山」など東北の地名を入れて、ファンの地元意識をくすぐったことが奏功したのかもしれません。

-最後は、オリックスの「SKY」。他球団ファンの人気も高い曲です

スージーさん 名曲中の名曲。プロ野球公式ソングの最高峰です。カラオケボックスの登場で、平成の音楽が「聴く」から「歌う」へ変わったように、球界でも球場がカラオケボックス化し、応援歌を歌って楽しむファンも増えた。レベルの高い多彩なメロディーが目まぐるしく変わる。Bメロの「アー オリックス・バファローズ」がサビで曲が終わったように思わせて、Cメロ「(スカイ)笑顔をつなぐ空の」が続く。Eメロまである米米CLUBの「浪漫飛行」に似た「歌う快感」を味わえる。メロディーの展開や音の数が多いMr.Childrenを歌えば満足感がある、みたいな平成の音楽界のトレンドがある。「SKY」はこの流れに沿った、唯一の球団歌です。

-ただ、本拠・大阪のイメージが薄いような

スージーさん 近鉄には、ソウルシンガーの大西ユカリを起用した「レッドdeハッスル」という、大阪ローカリズムを前面に打ち出した傑作がありました。03年、オリックスとの合併で、近鉄が消えゆく1年前に、この名曲があったことは印象深い。「六甲おろし」「玄界灘」「杜の都」など地域性を打ち出した歌詞が球界の流れ。オリックスはもっと大阪の土着性を打ち出した方がいい。でも難しいのかな。球界再編問題の闇を見るようです。

◆スージー鈴木(すーじー・すずき)1966年(昭41)大阪府生まれ。昭和歌謡から洋邦の最新ポップスの音楽評論を手がけるほか、週刊ベースボール誌で野球音楽コラムを隔週連載中。BS12「ザ・カセットテープ・ミュージック」に出演。著書に「いとしのベースボール・ミュージック野球×音楽の素晴らしき世界」「チェッカーズの音楽とその時代1983~1992」など。これからの球団歌、応援歌については「球場で歌いたいというファンの需要は変わらないでしょう。音楽的な完成度ではなく、唱和したくなるかどうか、がポイントになってくると思います」と話す。