右から入り上がり際で捕る/宮本慎也氏の守備論1

守備を実演する宮本氏

<深掘り。>

#野球には夢がある 日刊スポーツ評論家、宮本慎也氏(49)の「守備論」を3回にわたって送ります。ゴールデングラブ賞を遊撃手で6度、三塁手で4度獲得した名手。第1回は、守備の“極意”を明かし、捕球までの基本的な動作とスローイングのポイントを、ベテラン遊軍・小島信行記者に解説しました。

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小島記者 宮本さんといえば守備。プロ野球の延期期間中には、上原さんに「ピッチング論」(5月8~10日付日刊スポーツ掲載)、和田さんに「強打者論」(同19、20、22日付日刊スポーツ掲載)をうかがいました。シーズンも開幕し、さすが! と思わせる「守備論」をお願いします!

宮本 でも守備って地味でしょ。大丈夫ですか?

小島 地味とおっしゃいますが“極意”はありますよね?

宮本 守備の基本は、ピッチャーが「アウトだ」って思った打球を確実にアウトにすること。それが“極意”です(苦笑い)。

小島 では、確実にアウトにするポイントとは?

宮本 スローイング。エラーで多いのは、送球ミスなんです。正確なスローイングがしやすい体勢をつくるため、足を使って整えるんです。ここに尽きます。

小島 具体的にどんな動きをすればいいんですか?

宮本 いろいろあるから言葉で説明すると長くなるなぁ。いろんな打球があるし、状況によっても違うし…。実際の試合中の打球について「この打球はこうやって捕るのがいい」という説明なら簡単ですけど。基本の部分だけでも言葉にすると難しい。どこから話せばいいですか?

小島 では、簡単なゴロを捕って投げる、という設定でお願いします。

宮本 了解です。まず転がってきた打球に対して、自分から見て右側から入ります。なぜかというと内野手は、二塁手と右利きの一塁手のセカンド送球以外は、ほぼ左方向(球を握る手と逆側)に送球しますよね。右側から入ることによって足を使って投げられるので、強く正確な球がいく確率が上がります。正面から入ると、打球との距離感が難しくなるんです。少し斜めから見た方が距離感ってつかみやすいでしょ? 最初から正面に入って打球に合わせると、捕る時に右半身になりやすい。それだと正面から入って横で捕るみたいになっちゃう。最初から右から入れば、捕球体勢もよくなります。ゲッツーのときは直線的に入っていいですけど。

小島 どれぐらい右側から入ればいいんですか?

宮本 だいたい自分の体の幅ぐらいかな。次はバウンドに合わせながら体勢をだんだんと低くしていく。捕ると決めたポイントに合わせて右足のかかとから踏み込みます。かかとから着くと、次につま先が着いて、その後に膝が前に出る感じになりますよね。そうなると、勝手に腰が落ちます。捕球体勢でのグラブの位置は、開いた足の幅の長さと同じぐらい前に出せばいい。ちょうど正三角形の頂点ぐらいになる位置。打球を見る時は顔を動かして見ないようにしてください。そうなると頭が下がりやすくなるので、なるべく目だけを動かして打球を追うようにしてください。

小島 バウンドの合わせ方はありますか?

宮本 ゴロを捕るタイミングを、打球の「上がり際」「上がりきったところ」「落ち際」の3つに分けて、どこが一番いいかと聞くと「落ち際」と答える選手が多くいます。正解は「上がり際」で、そこに合わせていけばショートバウンドなので、自然とグラブが立ちやすくなるし、グラブも下から上に動きます。「上がり切ったところ」だと、グラブの出し方が難しくなる。グラブの先を下にするか、上にするかの判断をしないといけないから、イレギュラーした時の対応が遅れる場合が出てきます。「落ち際」で捕ろうとすると、足が止まりやすくなって、グラブも寝やすくなる。上半身が上下し、ブレも大きくなります。ただ打球の「上がり際」に合わそうとして合わなかった時は、大体足が止まるんですけど、その時は自分の体が動いていないため「落ち際」の方がいい時もあります。

小島 細かくて難しいですね。

宮本 「上がり際」で合わすには、とにかく足を使って探りながら前に出るのが大事。グラブも立ち、足を使って投げられる。メリットがたくさんあります。

小島 グラブが寝ると怒られますもんね。

宮本 でも立て過ぎてもダメなんですよ。肘が伸びて腕がロックしたような状態になり、柔らかく使えなくなる。力を抜いてグラブの重みを感じるようにすると、だらーんとして嫌な気がする人もいるでしょうが、そのぐらいの感じでいいんです。それが「グラブが立つ」という形。グラブは無理に立てるのではなく、打球に「ここに入るんですよ」という気持ちで、面(スポット)を見せてあげるようにするといい。あとは捕るタイミングでグラブを下に落とし、右手はグラブの空いているスペースに添えてあげる。ここまでが捕球までの基本的な動作ですね。

小島 ここから、ミスが多くなりがちなスローイング動作に移るわけですね。

宮本 そうです。捕った後はグラブを体の中心に添って上げていけば、足を使って動いている分、勝手に右肩の辺りに上がってきます。この時に「捕ったらすぐに割って(右手と左手を離す動作)投げろ」という人がいますが、グラブとボールはくっつけたまま上げた方がいい。その方がボールを握り損ねても、上げていく間に握り替えができる。そうやって上げていけば、左肩に壁ができて、スローイングしやすい形になる。内野手でグラブの内側が体の外に向くのは、逆シングルで捕球する時だけ。割って投げようとするとグラブの面が外側に向いてしまうので、内野手の基本の投げ方ではないと思っています。投げる方向へ、柔道の背負い投げのような動きでスローイングできればいいでしょう。

小島 ここまでの話を活字で伝えると、読むのが嫌になりそうですね(苦笑い)。

宮本 だから地味だと言ったでしょ(苦笑い)。簡単なゴロを転がしてもらい、しっかり捕ってしっかり投げる。この練習を何度も繰り返して、どんなに疲れていても自然に体がそうやって動くようになるまでやるんです。

小島 どれぐらいやればいいんですか?

宮本 人によりますが、最初は1時間ぐらい毎日やった方がいいでしょうね。大学時代、僕もやってました。できるようになってからも、ちょこちょことはやった方がいいですね。

小島 何年か前の自主トレで、巨人の坂本にもずっとやらせていましたね。

宮本 懐かしいなぁ。坂本はスローイングが横振りだった。横振りだと、送球が左右にぶれるミスが出て悪送球になりやすい。縦振りなら、上にすっぽ抜けることだけを気を付ければ大ケガはしない。そこを直さないと本当に「うまいショート」にはなれないと思っていた。あと逆シングルも手首を内側に曲げる癖があった。グラブは内側に包み込むような角度があるんだから、手首を内側に曲げる必要はないんです。それだとグラブの土手に当たって捕れない。坂本は若い時、そういうミスが多かったでしょ。

小島 でもスローイングを直したり、逆シングルの練習をするのなら、さっきのゴロを捕る練習は必要ないのでは?

宮本 何を言ってんですか! 縦振りのスローイングができるように打球の右側から入ったり、足を使って送球ミスが少なくなるような体勢を作るんです。よく捕るだけの守備練習をする指導者がいるけど、捕球とスローイングは一体なんです。逆シングルも、基本を体に染み込ませた上で、捕れないと判断した時にやるもの。応用なんです。

小島 分かりました。坂本は「宮本さんに教わって本当によかった。縦振りの大事さが分かっていなかったら、今の自分はないです」って感謝してましたよ。

宮本 そう言ってくれるのは、本当にうれしいですね。日本を代表するショートですから。(つづく)

◆宮本慎也(みやもと・しんや)1970年(昭45)11月5日、大阪府吹田市生まれ。PL学園では2年夏に甲子園優勝。同大-プリンスホテルを経て、94年ドラフト2位でヤクルト入団。ベストナイン1度、ゴールデングラブ賞10度。通算2162試合、2133安打、62本塁打、578打点、打率2割8分2厘。引退後は18、19年にヤクルト1軍ヘッドコーチ。04年アテネ・オリンピック(五輪)、06年WBC、08年北京五輪代表。現役時代は176センチ、82キロ。右投げ右打ち。