「衝突系」はミスが多くなる/宮本慎也氏の守備論2

宮本慎也氏(2017年4月17日撮影)

<深掘り。>

#野球には夢がある 日刊スポーツ評論家、宮本慎也氏(49)の「守備論」第2回は、選手名を挙げながら、具体的な技術をタイプ別に深掘り。二塁手と遊撃手の違いも、自身の経験を交えながら、ベテラン遊軍・小島信行記者に解説してくれました。

小島記者 前回(6月28日付紙面)に続き、宮本さんの「守備論」パート2です。守備の“極意”は「投手が打ち取ったと思った打球を確実にアウトにする」でいいですか?

宮本 これを“極意”としていいかを別にすれば、それでいいです。ただ、あれを読んでくれた人が楽しんでくれたか、心配しています。

小島 勉強になった人はいても、楽しんだ人はいないかもしれませんね(笑い)。でも、守備のうまい、下手というのは、どこで見分けているんですか?

宮本 僕は派手な守備をするより、堅実な守備をする方が「うまい」と思っています。この部分はすごく誤解されている。スカウトやコーチと選手の技術評をするじゃないですか? するとスピーディーに動ける内野手が評価されることが多い。確かにスピードは守備範囲の広さにつながる。大事な部分ではありますが、そういう動きをすると“間”がなくなってミスが多くなる。そういうタイプを「衝突系」と呼んでいるんですが、技術があるように見えちゃうんでしょうね。

小島 やみくもに前に突っ込んで捕りにくる内野手ですか?

宮本 そうそう。そういうタイプはパンパーンって決まった時はうまく見えちゃうんですよ。そこにだまされず、しっかりとした基本ができているかを見るのが、見分け方の大前提だと思います。

小島 プロでうまいと思うのは誰ですか?

宮本 今だと西武の源田かなぁ。

小島 宮本さんはトヨタ自動車時代の源田を教えた経験がありましたよね? 教え子じゃないですか。

宮本 教えたといっても3~4日ぐらい。内野のグループの中で教えただけで、個別でみっちりと教えたわけじゃない。元々教える前からうまかった。ちょっとスローイングが後ろに入りすぎるのと、シングルハンドキャッチが多かったのが気になったけど、西武の本拠地は人工芝だから問題ない。社会人時代に見た時、僕と同じタイプだと思いました。足は僕より速かったし、プロに入っても守備は通用すると思ってた。バッティングが心配だったけど、予想以上に打ってますね。非力系で、そこも僕と一緒。

小島 他にうまい内野手はいますか?

宮本 中日の京田はうまくなりましたね。最初は担いで投げるから、高めにすっぽ抜けた送球が多かった。誰かにアドバイスをもらったか、自分で直したかは分かりませんが、直ってきている。ソフトバンクの今宮は足も肩もある「身体能力系」のうまいショート。でもちょっとスローイングの安定感に欠けますね。

小島 今宮のように高校ぐらいまで投手をやっていた内野手は、肩は強いが送球に苦しむタイプが多いですよね。少し前では松井稼頭央(現西武2軍監督)、最近では中日の根尾もそういうタイプでしょうか。

宮本 僕は中学までしかピッチャーはやっていないので偉そうなことは言えませんが、投手と内野手を兼任するのはよくないんだと思う。ピッチャーは助走をつけないで投げるけど、内野手は細かく足を使って、運ぶような感じで投げますよね。それに内野手は素早く投げることを要求されるケースがある。それに比べ、投手はゆったりと“間”を作って投げます。どちらかが狂うと、修正しにくいんだと思う。

小島 外野手だといいですが、内野手はイップスになる選手が多いですよね。

宮本 スローイングって繊細で大事なんですよ。スローイングが悪い内野手って、本当にうまくなるのが難しい。スローイングに不安があると、そこが気になって捕るのにも影響が出ちゃう。だからキャッチボールが大事なんです。さっき根尾の名前が出ましたが、彼は本格的にショート1本でやってないでしょう。高校の時はすごい素質を感じたし、個人的にはじっくりとショート専門でやらせたら、よくなると思うんだけどなぁ。

小島 根尾と同学年の広島の小園はいかがですか。

宮本 彼は「衝突系」の選手。どうかなぁと思っていたけど、入ったチームがよかった。練習をしっかりとやるチームで、どんどん体が大きくなっている。同じショートの先輩、田中(広)は堅実なタイプ。打球を捕る時なんか、必ずグラブの近くに右手があって、ミスした時の“保険”をかけて守る。本拠地が土のグラウンドでなかったら、もっとエラーは減っているでしょうね。一生懸命にやるし、僕は好きなタイプ。小園は自分と違うタイプのお手本があるから、よくなっているんじゃないかな。

小島 小園は高校時代(報徳学園)でも「プロでもそんなに深く守らないよ」という位置で守っていましたよね。

宮本 多分、肩と足をアピールしたかったんでしょうね。アピールするのはプロでも必要な部分。ピッチャーがヒットかなって思うような当たりをアウトにするのもいい。でもやっぱり、守備は打ち取った打球を確実にアウトにすることが大事。それができて守備範囲が広いなら文句なし。でも後ろに守りすぎると、前の打球に対して、ある程度ガーッて出てこないといけないでしょ。スピードがあって間に合っても、それだと打球と衝突するからミスが増える。

小島 ポジショニングは大事ですよね。

宮本 個人の能力によって違うけど、セオリーとか定位置っていうのは、ある程度考えなきゃいけない。ポジショニングで大事なのは、試合展開からの状況判断。極端な守備位置につく時は、打者のデータやベンチの指示がなければしない方がいい。極端な守備位置にいて、打ち取った打球がヒットになると、すごく嫌な流れになることが多い。確かに成功した時は盛り上がるけど、そういう盛り上がりって長続きしないんですよねぇ。

小島 ひと昔前、巨人のセカンドだった仁志(敏久)がよく二塁ベースに寄ってセンター前に抜けそうな当たりをアウトにしていました。でも当時、ガルベスは「定位置に戻れ」って怒っていました(笑い)。

宮本 やってましたね(笑い)。きっとガルベスは一、二塁間で打ち取ったと思った打球が、ヒットになったことがあるんでしょうね(笑い)。セカンドの選手って、逆シングルで捕ると踏ん張って投げるでしょ。強い球を投げる必要があったから、そこをカバーしたい狙いもあったんでしょうね。セカンドって技術的な部分においては、ショートより難しい。ゲッツーで二塁ベースに入る時は、一塁に投げる流れと逆の動きになるから、ショートが二塁ベースに入るタイミングよりも早く入らないといけない。動きはショートよりも複雑なんです。僕もセカンドをやった時、城石(現日本ハム2軍内野守備コーチ)に教えてもらったんですけど、セカンドって難しいんですよ。古田(敦也)さんからは「お前はショートをやるとうまいと思うけど、セカンドだと普通だなぁ」って笑われました。

小島 身体能力が重視されるショートと、技術力が必要なセカンドという感じですね。

宮本 二遊間を守れる選手が2人いたら、適性を考えて肩が強いとかスローイングがいい方をショートにして、小刻みな動きがうまい方がセカンドでいいんじゃないですか。

小島 適性を見て決めたんだから、ガルベスも怒っちゃダメですね。

宮本 いや、ガルベスはいつも怒っていたから関係ない(笑い)。(つづく)

◆宮本慎也(みやもと・しんや)1970年(昭45)11月5日、大阪府吹田市生まれ。PL学園では2年夏に甲子園優勝。同大-プリンスホテルを経て、94年ドラフト2位でヤクルト入団。ベストナイン1度、ゴールデングラブ賞10度。通算2162試合、2133安打、62本塁打、578打点、打率2割8分2厘。引退後は18、19年にヤクルト1軍ヘッドコーチ。04年アテネ・オリンピック(五輪)、06年WBC、08年北京五輪代表。現役時代は176センチ、82キロ。右投げ右打ち。