稼頭央、坂本のショート別格/宮本慎也氏の守備論3

宮本の併殺プレー

<深掘り。>

#野球には夢がある 日刊スポーツ評論家、宮本慎也氏(49)の「守備論」最終回は、自身もゴールデングラブ賞を4度獲得している三塁手の特性から、遊撃手として一目置いた選手まで、ベテラン遊軍・小島信行記者に明かしました。果たして名手がNO・1ショートに挙げた選手とは?

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小島記者 締めくくりの「守備論」パート3です。ここまで基本的な技術を教えてもらい、選手名を挙げながら、さらに具体的な技術を解説していただきました。

宮本 言い足りない部分は、まだまだありますよ。打球の種類って数え切れないぐらいあるし、同じ打球でも状況によって異なる。ポジションによっても違いますからね。

小島 前回(6月29日付紙面)のセカンドとショートの違いはとても勉強になりました。

宮本 プロになってセカンドはほとんどやってませんがサードは結構やりました。サードも難しいですよ。

小島 サードは内野の中で一番動きが少なく、守備機会も少ないイメージです。ショートができなくなった選手や、打撃が優先する印象があります(苦笑い)。

宮本 僕もおっさんになってからサードになった(笑い)。でも、どこのポジションにも言えますが、基本的な動きを理解していないと、うまくなりません。

小島 例えば?

宮本 サードは打者との距離が近い。ファーストも同じだけど、右のプルヒッターの打球は左打者のそれより強烈。他の内野からサードに移ると“怖さ”が出ます。サードが「ホットコーナー」と呼ばれるゆえんですね。

小島 でも打球が速い分、守備範囲は狭くなりますよね?

宮本 狭いというより、そんなに広げられない。ショートだと、360度に動けるようにフットワークを使ってバッターのスイングに合わせて動きます。でもサードだと、打球を見られる距離が短いし、当たりも強い。早く動くとカウンターパンチのようになって打球に差し込まれるんです。だから、インパクトの瞬間に合わせてグッと低く沈んで構える。そして、どんな打球かを見極めてから動くぐらいじゃないと打球に合わせにくくなる。素早い反応を意識するのは、セーフティーバントとボテボテのゴロ。ダッシュの瞬発力が必要ですね。

小島 ある程度、予測して動けるショートと、見極めてから動くサードの違いですね。

宮本 スローイングの難易度も上がるんです。ショートは足を使って投げられるけど、サードは止まった状態で捕る機会が多い。だから正確で強い球を投げるのが難しくなる。それに定位置から一塁まで、投げる距離が遠いので地肩も必要です。

小島 ここまでの話を聞くと、ポジションによって特性がだいぶ違います。ユーティリティープレーヤーってすごいですね。

宮本 これは個人的な見解ですが、ユーティリティーは細かいことまで考えていたら守れないと思う。いいかげんでいい、とは言いませんが、「エラーしても仕方ない」と割り切らないと思い切ったプレーはできないと思います。でも最初からユーティリティープレーヤーを目指す人っていないでしょ? 少しでも試合に多く出たいからやるんです。そういう気持ちも大事だしチームにも必要です。

小島 でも、守備の花形は、やっぱりショートですよねぇ。

宮本 まぁ、僕はショートの選手だから、そう思いますけど(苦笑い)。

小島 お世辞ではなく、宮本さんの守備はすごかった。球場の記者室で「ヒットだな」と思って打球から目を切ってスコアブックに書いたらアウトになっていて、何度も書き直しました。自分よりうまい選手はいないと思っていたんじゃないですか?

宮本 そんなことないですよ。実際のプレーを見た選手の中だと、小坂(誠)はすごかった。足が速くて打球への反応は抜群。カットプレーや走者へのフェイクも横着せずにやっていたから、(カットプレーなども含めた)守備機会の数が多かった。対抗心を燃やしていたんですが、どうしても守備機会の数は勝てなかった。それに足の速い内野手ってガムシャラに前に出てくる「衝突系」が多いけど、小坂は違った。ちゃんと打球を探るように、丁寧に処理した。

小島 確かにうまかったですが、小坂はちょっとスローイングのミスがありましたよね。でも宮本さんも小坂も、変なプレーがみじんもなかった。

宮本 変なプレー?

小島 これは個人的に思う部分なんですが、能力のある選手はエラーの数を減らせるんじゃないか、と思う時があります。追いつくかもしれないっていう打球を捕らなかったり、難しい打球を難しく捕るように見せて、エラーがつかないようにしたり…。

宮本 ずいぶん、玄人的なところを指摘しますね。その辺は本人以外は断定できないからノーコメントですが、僕自身は誓ってそういうプレーをしたことがないと断言できますよ。

小島 そういう中でシーズン2ケタ失策が2回だけ。驚異的な数字ですね。

宮本 僕はシーズン中にケガとかで1度くらい抜ける期間があった。出場イニングが少なめだったからですよ(苦笑い)。

小島 でも今は、昔に比べてグラウンドコンディションもいいのに、ショートで1ケタ失策っていないですよね。小さい頃から打撃優先の風潮がありますし、細かく教えられるコーチが少なくなりましたよね。

宮本 教えられる指導者が少なくなったとは思いませんが、打撃重視で守備練習は昔より少なくなったかもしれないですね。プロもアマも、キャッチボールの重要性が薄らいでいる気はします。

小島 宮本さんは誰に教わったんですか?

宮本 同志社大学時代の監督に、ゴロを転がして捕る練習を散々やらされましたね。高校(PL学園)の時は、暗くなってボールが見えなくなってから、1人で“シャドー守備練習”もやってた。

小島 何ですか、その練習は?

宮本 グラウンドで打球をイメージしてさばくんです。想像だから難しい打球も来るし、イレギュラーもするんですが、どんな球でも対応できる(笑い)。自分の中に、いいイメージを植え付けられるんです。

小島 それを暗いグラウンドで1人でやってたら気味が悪い(笑い)。

宮本 周りからは「宮本が頭おかしくなった」って言われましたよ。恥ずかしかったけど少しでもうまくなることしか考えなかった。プロに入ってからも、うまいと思った選手にはよく話を聞きにいきました。

小島 誰ですか?

宮本 さっき名前を出した小坂とか、同じヤクルトの池山(隆寛)さんとか。例えば(ZOZO)マリンスタジアムって風が強いでしょ。高い内野フライって強風で難しくなるから、小坂にどうやってるか聞いたんです。そうしたら「フライが上がりきって打球が止まる瞬間に、ボールがどう動くかを集中して見て判断した」って。球場には特性があるから、すごく参考になった。僕は若い時、高いフライが苦手だったんですよ。池山さんにどうやっているのか聞いたら「フライが上がって上を見たとき、帽子のつばの真ん中当たりに打球が来るように追っている」って教えてくれました。これはすぐに効果があって。それ以来、苦手じゃなくなって、得意になりました。

小島 さすがNO・1ショートは貪欲ですね。

宮本 うまくなるためには、プライドなんて関係ないですよ。それに僕はNO・1ショートじゃない。トータル的に見てショートのNO・1は(松井)稼頭央でしょう。野球選手に必要な資質を、トップレベルで全て兼ね備えていた。巨人の坂本だって、ショートで40発打っている。実際に見た選手しか分からないけど、この2人は別格だと思いますよ。

小島 確かに。でも今回は「守備」に限定しているので、宮本さんがNO・1ということで締めましょう! ありがとうございました。

◆宮本慎也(みやもと・しんや)1970年(昭45)11月5日、大阪府吹田市生まれ。PL学園では2年夏に甲子園優勝。同大-プリンスホテルを経て、94年ドラフト2位でヤクルト入団。ベストナイン1度、ゴールデングラブ賞10度。通算2162試合、2133安打、62本塁打、578打点、打率2割8分2厘。引退後は18、19年にヤクルト1軍ヘッドコーチ。04年アテネオリンピック(五輪)、06年WBC、08年北京五輪代表。現役時代は176センチ、82キロ。右投げ右打ち。