阪神の常勝期に中継ぎ右腕投手として活躍した桟原将司氏(38)は大阪・北新地で「とり焼き さじ」を営んでいる。03年ドラフト4巡目で入団。1年目の04年は44試合に投げ、05年はリーグ優勝に貢献した。矢野燿大監督(52)が現役時の正捕手で、バッテリーを組んだ日々が糧になった。飲食業に挑んで7年目。かつての剛腕の生き方に迫った。【取材・構成=酒井俊作】
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コリッコリッと心地よい音が口に響く。鉄板で自ら焼いた上ももをかむたび、脂のうま味が広がり、肉身や塩昆布と絡み合う。焼酎と絶妙な相性だな。至福に酔いしれているとカウンター越しに声を掛けられる。
「上もも、親鳥を使っているんです。かみ応えがあるでしょう。みんな結構コレ、何回も注文します」
桟原は阪神で8年間プレーし、12年に西武で引退。その後、現役時にほれた味にひかれて、飲食業の世界に挑んだ。みんな、とはタイガースで戦った仲間だ。
スリークオーターで150キロを超える速球が武器だった。「阪神にいた8年間は財産。優勝メンバーにいられたのはすごく幸せです」。自宅には05年優勝のチャンピオンリングを飾る。通算123試合登板。矢野とのバッテリーで勝負した日々もまた宝物になった。
「『信頼』しかないキャッチャーでした。褒められたり、怒られたり…。言っていただいたこと、いまもすごく覚えてます」
14歳年上のベテランからは力を尽くす大切さを学んだ。2年目の05年は橋本健、江草と組んだ継投パターン「SHE」の一角で活躍したが、シーズン初登板は散々だった。4月19日の巨人戦は8回途中に救援も3安打を浴び、2四死球で4失点し、1死しか奪えず降板。東京ドームのベンチで、矢野に叱り飛ばされた。
「お前の取りえは何や」
「腕、振ることです」
マスク越しに、不安な気持ちを見透かされていた。「じゃあ、今日、腕振ってたんか?」。不調でストライクを取りにいっていた。うつむいて「振れていないと思います…」と答えることしかできなかった。
「そんなピッチングするな! 腕振って、ど真ん中でも抑えるのが、お前のピッチングスタイルやろ!」
ジュッと音がする。鉄板で、しいたけを焼いていると「ひっくり返さなくて大丈夫。うまみがたまってきたら食べられます」と、おいしい焼き加減を教えてくれる。「お客さんが求めていることをすれば喜んでもらえます。矢野さんはあのとき『相手の気持ちを考えなさい』と言っていたのかもしれません」と話す。
1年目の04年に何試合か登板を重ねたときだ。矢野に「首を振るんやったら振ってええから。お前の投げたい球を投げろ」と言われた。経験豊富な正捕手がリードするサインだ、新人は我を通せない…。だが、そんな胸中を察し、長所を引き出す、矢野一流の操縦術だった。「気持ちが入っている球の方が抑えられる可能性が高いということですね」と深くうなずいた。
右肘手術、左膝手術、育成契約、戦力外。志半ばだった。「肘を手術する前までは考えているようで野球を考えてなかった。怠ったところもありました」。夢破れて気づくことは多い。それもまた、人生だろう。
プロ9年間の思い出を迷わずに挙げる。「岩村さんをミノサン取った球」。04年8月22日、神宮でのヤクルト戦は3イニングのリリーフ。最終回、岩村への見逃し三振で勝った。「インロー。矢野さんの構えたところにビシッと行きました。ただいったのではなく腕もちゃんと振れた」。会心の1球には、もう1つ、理由がある。ハイタッチ後、矢野に言われたひと言だ。
「いままでで一番、いいボールやった」
カタッと音が鳴る。目の前につくね、上皮、鴨ロースの皿を並べていく。新型コロナウイルスがはびこる20年冬、桟原は時短営業で踏ん張る。店内にはユニホームやサイン色紙を飾らない。「第2の人生。野球を売りにしたくない。鶏をおいしいと思うお客さんに来ていただきたい」。思い定めた、この道で、堂々と腕を振っている。(敬称略)
◆桟原将司(さじきはら・まさし)1982年(昭57)8月21日、大阪市生まれ。大阪桐蔭-新日鉄広畑をへて、03年ドラフト4巡目で阪神入団。05年に球団史上2人目の3者連続3球三振。09年にプロ初登板から116試合無敗の日本新記録(当時)を樹立した。12年に西武へ移籍し、同年に現役引退。救援一筋で123試合登板の5勝2敗2セーブ、防御率3・56。184センチ、93キロ。右投げ右打ち。「とり焼き さじ」は大阪市北区堂島1の3の17スリーエイトビル3階。電話06・6343・7332。
◆05年「SHE」の活躍 桟原に加え、右腕の橋本健太郎、左の江草仁貴の3投手で中継ぎ陣を形成した。6月11日の日本ハム戦で初の3投手そろい踏みとなり11-6で快勝。桟原は26試合で防御率3・66。新人の橋本と3年目の江草はともに51試合登板し、橋本は防御率2・30、江草は2・67と安定感を示した。リードを許した場面での投入も多く、試合を壊さない役割を果たし続けた。ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之の「JFK」より早い回にマウンドに上がってフル回転を見せ、2年ぶりのリーグ優勝に一役買った。