楽天石井監督「絵に描いた餅は…」新春インタビュー

2021年丑(うし)年で年男の楽天石井一久GM兼任監督は、牛にまたがり今季の大暴れを誓った(撮影・滝沢徹郎)

「全権監督」胸の内は-。楽天石井一久ゼネラルマネジャー(GM)兼任監督(47)が、年男で迎える2021年の新春インタビューに応えた。監督就任を決断した理由、理想の監督像、休日の過ごし方…緩急自在に自らを語った。【取材・構成=桑原幹久】

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97年。プロ6年目で年男だった石井一久は、横浜スタジアムでノーヒットノーランを達成した。「あ、本当ですか。ノーヒットノーランされないように頑張ります(笑い)」。24年後の2021年。4度目の年男をGM兼任監督として迎える。

「監督として初めてのシーズンなので、楽しみかなと思います。監督、指導者を未経験で、どうのこうのと結構、言われたりするんですけど。そういう概念を覆していくことも、野球界に必要かなと。波風たたない無難な話をされるので、よく皆さんは。ただそれが正解だと決めつけた議論や仮説は、これからの野球界にとって良くない。概念を覆せるような指導者として、僕はそこにしっかりといたいなと思っています」

監督に興味はなかった。ただ、やりたくない、とは違う。

「別に監督をしたいとも思っていなかった。メジャーに行くことが、最大の自分の中の欲だった。それ以降は自分の欲より、人を喜ばせてあげたい気持ちの方が強かったですね」

就任会見では覚悟の裏に「僕でいいのかなと…」と葛藤もかいま見えた。

「僕でいいのかなというよりは『両方を担う仕組みでいいのかな』と思っていました。別に真反対の場所にいるわけじゃない。チームプランとしてぶれない方がいいと思った。新しく外から来ていただくよりは、スムーズにチームの方針を移行できるかなというところはありました」

11月7日にシーズンが終わり、3日後の10日に要請を受けた。11日の受諾まで、周囲への相談は家族だけ。妻でフリーアナウンサーの木佐彩子からは「結局、自分で決めるんでしょ」と反応された。

「もちろん、僕が決めたことに家族は全力でサポートしてくれるので助かりますね。ただ、決断はあんまり人のせいにもしたくないので、全て自分で決めていこうと。(現役時代も)ずっとヤクルトにいれば過保護にされて、それなりに不自由なくやれたと思う。でも、メジャーに行くことで苦労も背負えて、それが今の経験になっている。2本の道があったら今まで間違えた方に進んだことはないですし、間違えた道だったのかもしれないけど、それが正解の道に変わってきた」

18年9月から務めるGMとの“二刀流”。表に出やすい人事関連だけでなく、外国人選手の生活環境づくりなど、仕事内容は多岐にわたる。

「日本のGMへのイメージは『編成部長』ですよね。楽天では何から何まで任せていただいているので、皆さんが思っているより、すごく忙しいです。グラウンドに出ない、とかも言われたりしますけど、出ないんじゃなくて出られないんだよ、と(苦笑い)。8月くらいから急に忙しくなる。4月からというのはそんなに忙しくないというか、兼務にそんなに不安はないです」

日本ではヤクルト、西武、米国ではドジャース、メッツでプレー。選手時代に接した監督たちの特徴を、3タイプに分けた。

「野村さんみたく、野球を本当に端から端までいろんなことを気にして細かくやる監督もいれば、渡辺監督は大まかに任せたぞ、という中に自分の芯をしっかりしてなきゃ、というものを芽生えさせてくれた。若松さんは『この人のために勝ってあげなきゃ、優勝したい』という気持ちにさせてくれる、人間的にもすごく優れた方でした」

固定概念への執着を嫌う。理想像は愚問か。

「ないですね。絵に描いた餅は食べられない。瞬発力の方が大事。『守り勝つ野球』『打ち勝つ野球』とテレビや新聞的なことは話すかもしれないですけど、自分の中でそれはない。投手戦と描いていた時に、乱打戦になることもある。それなら早めに投手交代をしながら乱打戦を制していくとか、投手戦になりそうだったら、早めに投手継投を堅くいくとか。試合の流れは大幅に変わってきたりする。今日はエースだから投手戦、エースじゃないから乱打戦、と定義しながら進めたくない」

標的は明確だ。打倒ソフトバンク。昨季は9勝15敗で6年連続の負け越し。避けて通れない天敵をねじ伏せる算段は。

「得点の質。2桁得点や大味な試合はあるが、この1点というところに関して、もう少し緻密な取り方がある。逆に次の1点を取らせない野球がソフトバンクさんはできている。戦力の違いは、チームごとの状況なので関係ない。正しい野球ができているか、できていないかが一番大事」

骨太なチームを目指す。人間なら牛乳が骨に効く。

「ただ単に『牛乳』を飲むだけではいけない。正しい栄養の取り方をしているか。前から言っていますが、自分なりの野球の教科書を作ってほしい。自分で行動できるような野球選手になってほしい。こっちが与えた普通の教科書には普通のことしか書いてない。みんなが持てれば年々強くなっていきますし、新人の人にも『こうなんだよ』とちゃんと言える。今で言えばそういう人があんまりいない。それが集まっていくことで、骨太なチームになる。チームの伝統というものを作らないといけない」

東北楽天ゴールデンイーグルスに携わるすべての人、ファンにとって宝物である13年の日本一。就任会見で覚悟の上、口にした。

「きれいごとで言ったつもりはなくて、この職についた理由というものを、ぶれたくなかった。別にGMがやれるから楽天に来たわけでもない。補強して楽天の良さがなくなったんじゃないか、という話もありますが、チームの強さと良さは両立できると思う。ゆっくりとではありますけど、固めていきたい。あの景色、熱狂、興奮を、もう1度みなさんに味わっていただきたいと思います」