野球と競馬…共通点が多い/三浦番長&矢作師対談1

握手を交わすDeNA三浦監督(左)とJRA矢作調教師(撮影・横山健太)

野球界と競馬界の2021年をけん引する2人の注目の対談が、実現した。セ・リーグ唯一の新監督で「ハマの番長」ことDeNA三浦大輔監督(47)と、昨年の3冠馬コントレイルを管理するJRA矢作芳人調教師(59)。矢作調教師は川崎球場時代からのチームのファンであり、競馬ファンとして知られる三浦新監督は矢作厩舎に所有馬を預ける馬主でもある。

プライベートでも親交の深い2人が野球のこと、競馬のことを語り尽くした。全2回でお届けする。【取材・構成=鈴木良一】

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矢作 監督就任、おめでとうございます。

三浦 ありがとうございます。矢作先生も3冠にリーディングと、フル回転の1年でしたね。

矢作 ひと言で言うと「疲れた1年」でしたけど、悪い意味ではないです。人にはない充実感を経験できた。ただ、今年はプレッシャーかかるなと…。

三浦 僕もプレッシャーはあるといえばある。でも、監督としてのプレッシャーは日本に12人にしかないわけで、しっかりと自分らしく戦っていきたいです。

矢作 番長、プレッシャーといってもチャレンジャーの気持ちでしょう。

三浦 思い切って、チャレンジャーとして選手を引っ張っていけたらいい。シーズンに入れば毎日、結果がついて回るので、そこは覚悟しながら。もちろん日々の振り返りもしないといけないけど、次の試合も迫ってくる。時間がなんぼあっても足りない1年になるのかな。

矢作 勝ったら喜んで、負けたら悔しがるけど、もうその時には次の準備。そういう点で監督と調教師は似ているかな。でも、野球は1対1の対戦で勝つか負けるか。僕、よく言ってたんです。「ベイスターズが暗黒時代の時でも勝率3割5分は勝つ」って。

三浦 そうですね。

矢作 暗黒でも10回やって3・5回は勝つ。競馬は10回に1回しか勝たない。

三浦 1割ですからね。

矢作 悪気があるわけではないのですが、競馬をよく知らない方は2着とか3着でも「よく頑張ったね」とか言う。でも、僕らの世界は1着だけ。10回に9回は負ける。監督になって負けた時は、落ち込まずにそれを思ってください。競馬は2割勝ったらトップ。でも、8割は負けている。

三浦 野球も優勝チームでも4割は負ける。その中で負けをどう生かしていくかは大事。負け方じゃないですけど、どう次につなげるか。ペナントは長い。

矢作 切り替えしていかないと、持たないですよ。

三浦 負けたら忘れるというわけではなく、次に生かす。その積み重ね。監督として、そこはぶれずに1年戦えるか。どっしりと構えていたいなと思います。

矢作 1回競馬が終わると、同じ負けでも「同じ条件、同じジョッキーでいこう」という場合と「大胆に何か条件を変えていこう」という場合がある。そういう点を考えるところも似ているかな。スパッと切り替える。最後の決断は調教師だし、監督だと思います。

三浦 厩舎はチームで動いていますよね。調教師だけ動くのではなく、スタッフが役割分担をして連携し成り立っている。先生は彼らを信頼し、任せている。

矢作 一方通行ではなくスタッフの意見を取り入れて、いろんな方向性を探って、馬がどうすれば勝てるのか、一番いい状態にするにはどうしたらいいのか。みんなが共有しているのが強さかなと思います。

三浦 絆ができているから任せられるんですね。

矢作 モズアスコット、マルシュロレーヌ、ハナズレジェンドは初ダートで勝った。調教に乗るスタッフの「ダートは合うと思う」という話を頭の片隅に入れながらチャンスを待って、「ここ!」という感じ。そういうのをどんどん取り入れていったのが、いい方向に行っているのかな。

三浦 意見を取り入れて決断する。技術的なことも含めて選手を一番よく見ているのはコーチ。コーチからの意見が大きなところを占めるのかな。最終的に監督が決断し、試合で采配を振る。そういうところはすごく似ていますよね。

矢作 メジャーで野球経験がない人がGMをやってチームを立て直したという映画の話がありましたね。僕の夢ですね。僕は牧場で馬を探し、編成作業。ローテを決めて、1軍と2軍の入れ替えをして…。野球と競馬は本当に似ている。調教師としてちょっとうまくいっているとできるんじゃないかと勘違いする。

三浦 似ているところがいっぱいある。主力でも調子が悪ければファームで10日間、休養させる。馬は牧場でリフレッシュさせる。

矢作 似ているなあ。憧れです。チームを買わなきゃいかんかな。オーナー兼GMとかね(笑い)。

三浦 業種は違うけど、共通点や勉強になる点は多いです。野球界は野球界で勉強になるけど、異業種からの学びっていうのはいっぱいある。楽しいですね。

矢作 調教師になった時も、ある程度成功されている調教師の模倣で入ったんですけど、それだけでは超えられない。会社の経営とかを勉強したり、本を乱読してたり、いろんな資料を探したり。野球なら野球だけ、競馬なら競馬だけというと世界は狭くなる。

三浦 現役時代からオフにいろんなテレビに出させてもらって、知り合ったゴルファーの方やプロレスラーの方の話ってすごく面白い。どういうふうにしてこのステージに立っているのか人それぞれ。ヒントって転がっているんだな。

矢作 番長は投手コーチと2軍監督を経験されましたよね。違いましたか。

三浦 違いましたね。2軍は育成がメイン。いかに1軍で活躍できる選手を出せるか。その中で勝ちを意識した試合も取り入れました。ただ、育成だからもう1イニング、1打席…。そのバランスが難しかった。

矢作 投手コーチの難しさは。

三浦 選手と監督の間にいる立場なんで、その辺をもっとうまくやれたらよかった。選手が少しでもいい状態で準備してマウンドに上がれるように、もっと他にできたんじゃないかな。監督への僕のプレゼンがもっとうまくできたら良かったなと思いますね。

矢作 それ監督の器じゃないんですか。

三浦 いやいや。実際は2軍監督になったときに思ったんです。自分が監督として、三浦投手コーチが去年のやり方できた時に「ちょっとやっぱり難しな」「もっとこうしてほしいな」というところがあっただろうと。なって初めて気がついたこと。いろんな立場、方向で見ることができた。

矢作 仁志2軍監督は歓迎なのかと思いますが。

三浦 一緒にプレーもしていますし、対戦もした。一緒にゴルフもする。いろんなことを吸収できるし、すごく連携は取りやすい。

矢作 気安く話できそうで、そこは絶対に大きい。

三浦 年も2つしか離れていないので、何でも話せる。監督同士しっかりコミュニケーションを取れるかと。

矢作 2軍監督は競馬なら牧場の場長。チーム力を高めるためにはコミュニケーション、風通しが大事。超一流の牧場を使っても、連携が取れていなかったら何にもならない。そこをうまくやれないと、個々の能力の高さだけではなんともしがたいものがある。チームと厩舎は似ている。

三浦 先生は忙しくても時間を見つけて牧場に行きますよね。僕も時間があれば2軍に行って、連携してシーズンを戦っていきたい。日頃のコミュニケーション、普段からの何げない会話も大事だと思う。そういうところをしっかりやっていきたいです。(つづく)

※この対談は緊急事態宣言発令前に、感染対策をして実施しました。

◆三浦大輔(みうら・だいすけ)1973年(昭48)12月25日、奈良県生まれ。高田商から91年ドラフト6位で大洋(現DeNA)入団。97年にリーグ最高勝率。05年最優秀防御率、最多奪三振。15年にプロ野球記録の23年連続勝利。16年引退。通算535試合、172勝184敗0セーブ、防御率3・60。19年にDeNA1軍投手コーチ、20年に同2軍監督、今季から1軍監督に就任。11年にJRAの馬主免許を取得し、リーゼントブルース(JRA3勝)、リーゼントロック(同6勝)などを所有。

◆矢作芳人(やはぎ・よしと)1961年(昭36)3月20日、東京都生まれ。父は大井競馬の調教師だった矢作和人氏。開成高卒業後にオーストラリアで競馬を学び、84年7月にJRA競馬学校厩務員課程に入学。04年に14回目の受験で調教師試験に合格し、05年3月に厩舎を開業。JRA通算100勝、同200勝を史上最速で達成。19年の年度代表馬リスグラシューなど多くの活躍馬を育て、14、16、20年には全国リーディングを獲得。JRA通算7058戦681勝、うち重賞46勝(11日現在)。