例年通り変わらない姿がそこに…/キャンプ放浪記者

歓迎セレモニーを受ける西武2軍ナイン(撮影・滝沢徹郎)

<日刊スポーツ井上記者のキャンプ放浪記>

ベテラン井上真記者のキャンプ放浪記。野球記者復帰3年目の今キャンプは、元ロッテの里崎智也氏(44=日刊スポーツ評論家)とともに宮崎で行われている各球団のキャンプを取材中です。

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話に夢中になっていた。運転するレンタカーは既に大淀川を渡って宮崎市内の中心部に向かっていた。熱を帯びる自分の言葉に集中しており、何の疑問も持たずにカーナビの指示通りに右折ラインに入った。

助手席の里崎さんがちょっとうれしそうな声で言った。

里崎 どこ行こうとしてます?

放浪記者 ん?いや、カーナビが…

里崎 そっち行ったら市役所ですよ。

放浪記者 え?そうなの?

里崎 見ればわかるでしょ

放浪記者 でも、カーナビが…

里崎 わかりました。急ぎませんし、行ってみましょうか。用事ないですけど市役所に

里崎さんの言葉にはあきれたような、カーナビを信じ切って自分で判断しない放浪記者を楽しむような、ちょうど手ごろな突っ込みどころを見つけた優秀なMCの雰囲気が漂う。

そうだ!と、はっとして思い出した。去年、はじめて里崎さんの担当として沖縄キャンプを回った時の場面が脳裏にありありと浮かんできた。同じように、話に夢中になっていた私は右手に宜野湾キャンプ地の大きな門を目視しながら、カーナビ君の指示を忠実に守り、そのまま直進して通り過ぎようとしていた。

里崎 ここ右折ですよ。

放浪記者 え?でも、カーナビは直進だよ。まっすぐ行ってこの先でUターンみたいだ

里崎 いやいや、右折でしょ。だって、そこに見えてるじゃないですか、入り口が。自分の目で判断しましょうよ。直進してUターンしなくても、ここ右折オッケーなんだから、そのまま曲がれば到着です。

放浪記者 ああ、そうか!

里崎 なんでもかんでもカーナビの言う通りじゃなくて、自分の目で見て判断しないと。

放浪記者 …

今回も里崎さんの宿舎の住所を打ち込むのが面倒で、大ざっぱに宮崎市内と入力したため、カーナビ君は市役所へと誘導してくれちゃったわけだ。ボーッとしている放浪君は、市役所目がけてまっしぐら、という愚かな構図を繰り返してしまった。

なんの成長もない。いや、むしろ、里崎さんの指摘が心地よくさえ聞こえてくる。「ああ、今年もキャンプ地回りが始まったな」。そんな能天気なコメントが頭に浮かんだ。

デスクをしていた数年前、現場の若手や中堅記者には常に「自分で考えろ。集団で動いてその場に流されるな」。なんてことを言ってきたのに、気付けば自分で考えるどころか、すっかりカーナビ君の言うがまま。2年連続で里崎さんに同じ指摘を受ける始末。どういうこと?と自分の無能さにあきれつつ、デスク時代の記者への言葉は、自分自身への戒めだったと気づいて、自分に対して失笑。

今年のキャンプ地巡りにおいて、最大にして唯一の関門は受付での陰性証明書の提示がスムーズに行くかどうかだった。球団によって陰性証明の有効期限が異なる。まだ表だって評論家はキャンプ地を巡っていない。まず、里崎さんに取材パスが無事に下りるかどうかが懸念材料だった。こんな放浪記者でも多少の緊張感を持ち、集められるだけの情報を持ち、緊張して西武、オリックス、ソフトバンクと、何とかクリアしてきた。

しかし、チェッククリアを意味するシールを貼ってもらい、NPBパスを首からぶらさげて、階段を上ってスタンドに出ると、そこには例年通り、何も変わらないキャンプ地の姿があった。

無観客で、スタンドにいるのは報道陣だけ。宮崎は自主的緊急事態宣言によって、営業している飲食店もまばら。市内の人通りも少なく感じる。何となく、特別で異様な空気感で、恐る恐る訪れた南郷の西武、清武のオリックス、生目の杜のソフトバンクだったが、トスバッティングの打球音、選手の掛け声、ミットから響く捕球音、スタンドに流れるやや懐かしめの邦楽は、何も変わらなかった。

プロ野球は動いている。いつ想定外の事態が起きるか油断はならないが、こうして動いていることが大切なのかもしれない。そして、放浪記者も動く。里崎さんに突っ込まれながら「ああ、今日も安全運転で」と、身の丈にあった目標を胸に、アクセルを踏む。【井上真】