ヤクルト奥川、苦しみながらプロ1勝「バッターのみなさんに感謝しかない」

ヤクルト対広島 5回表を抑え、ガッツポーズする奥川(撮影・河田真司)

<ヤクルト11-7広島>◇8日◇神宮

ヤクルト奥川恭伸投手(19)が、苦しみながらもプロ初勝利を飾った。5回を10安打5失点。1回に2死走者なしから5連打を浴び、いきなり4失点。打線が追いついた後の3回も、広島鈴木誠に1発を浴びて勝ち越しを許した。それでも打線が奮起し、5回までに10点の援護に助けられた。降雨による54分の中断もあったが、全力で腕を振り、同期のロッテ佐々木朗希投手(19)より早く、プロ1勝をつかんだ。

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試合中に変わった。奥川は、1回に5安打を浴び4失点。2回表無死からの54分間の中断が、冷静に見つめ直す時間になった。「立ち上がりは丁寧にいこうという気持ちが強すぎて、腕が振れなかった」。気持ちと一緒に、フォームも変えた。投球のテンポを変え、より腕を振るため。顔付近の高さでグラブを構えていたが、中断後からはベルト付近に下げた。

3回までに5失点も、4回からは体が開かなくなり、躍動感あるフォームが戻った。130キロ台後半から140キロ台前半に落ちていた球速が復活。5回には鈴木誠を147キロの直球で空振り三振に仕留めた。高卒2年目の19歳が試合中に大胆な決断。なんとか粘った。「5回みたいな投球をこれから出していけるように頑張りたい」と苦しんでつかんだ初勝利の収穫を口にした。

星稜(石川)で夏の甲子園準優勝してから2年。林和成監督は、教え子に対し「無口なままですよ」と話す。高校時代は「はい」「大丈夫です」と口数は少なめ。ヤクルトに入り、社会人になり、大人と接することが増えた。今年から硬く変わった神宮のマウンドについて、投手陣とフィードバックし合うなど、積極的な主張が増えた。恩師は「自分の主張、自分の言葉で話せるようになったかな。彼なりに大人になったんでしょうね。プロの選手になっていったんだなと思う感じはありますね」と成長を感じている。

16日が20歳の誕生日。課題を出しながらも、周りに助けられ、節目の1勝をつかんだ。「バッターのみなさんに感謝しかない。今日は勝たせてもらったので、今度は自分の力でチームを勝たせたい」と笑顔を見せた。入団会見では沢村賞獲得を目標に掲げた“甲子園のスター”。球界のスターへとなるために。1歩1歩着実に前へと突き進んでいく。【湯本勝大】

▼ヤクルト高津監督(奥川について)「間違いなくエースに育てないといけない。間違いなくエースになってもらわないと困るのが奥川。そのために1歩踏み出した。また次の1歩を楽しみに期待しています」

▼ ヤクルト山崎(4安打2打点。4回の1号ソロに)「先頭打者だったので、塁に出ることを心がけて打席に入りました。いい角度で上がっていい結果になりました」

▼ヤクルト西浦(3安打3打点)「今日は奥川さんが投げるということで、何とか勝たせてあげようという思いがみんなあった」

▼ヤクルト松本友(3回2死一、三塁で左前適時打を放ちプロ初打点)「チャンスを頂いているので結果を出したかった。ホッとしています」

▼星稜・林和成監督(奥川の初勝利に)「感動しました。3回には鈴木誠也選手に真っ向勝負で本塁打を打たれたり、5回は三振で締めたり。彼にとって勉強になることが凝縮された試合。一生忘れられない試合になったでしょう」

◆奥川は、真面目で素朴な好青年だ。星稜で、2学年上の亜大・清水力斗投手(4年)は、今でも連絡をよく取り合う仲。コロナ禍が収束したら、どこに行こうか。清水は「(奥川が)魚を釣ってすぐに食べられるのが好きみたいで、2人で電話をしながら調べて」と話す。テレビや動画など、たわいのない会話ばかり。グラウンドの外では、上京してきた普通の19歳だ。

ルーキーイヤーは、右肘痛の影響で2度のノースローを経験。満足に投げられず、もどかしい期間が続いた。清水は「『どこかに出かけたら』と聞いても、治療に行くくらいと。高校の時から遊びに行くとか、そういう子ではなかった」と振り返る。地道に体作りに励み、体重は1年で6キロ増。オープン戦では3試合で防御率6・00。耐えて、少しずつ成長し、今季2試合目でプロ初勝利をつかんだ。清水は「やっぱり奥川は野球をやっている時が一番楽しそう。どんな時でも楽しんでもらえたら」。先輩からのエールを受け、ひたむきに前へと進み続ける

◆今季の高卒2年目投手 支配下登録13人、育成6人の合計19人おり、堀田(巨人)西純(阪神)奥川(ヤクルト)佐々木朗(ロッテ)宮城(オリックス)がドラフト1位で入団した。1軍デビューは3人で、宮城は昨年10月4日楽天戦、奥川は昨年11月10日広島戦、井上(西武)が今年の4月3日ソフトバンク戦で初登板。宮城はすでに3勝し、白星を挙げたのは奥川が2人目。