阪神佐藤輝明は大谷翔平級の「懐の深さ」飛距離の秘密を専門家が分析

佐藤輝明と大谷の打撃フォーム

阪神ドラフト1位佐藤輝明内野手(22)はなぜあれだけ打球を飛ばせるのか。ここまで12球団の新人でDeNA牧と並んで最多の6本塁打。

今回、スポーツ選手の動作解析を研究する筑波大・川村卓准教授(50=硬式野球部監督)がその打撃フォームを分析。「上半身は直すところがない」とし、課題は下半身にあると指摘した。新人が4月までに放った最多本塁打は03年村田(横浜)の7本で、佐藤輝は残り4試合で届くのか。そのフォームとともに記録の行方が注目される。【取材・構成=中野椋】

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佐藤輝選手とは、18年の大学日本代表で一緒にオランダに行きました。当時日本代表のスタッフを務めていましたが、首脳陣の間では「素材はすごい」「この子をなんとかしてあげたい」と意見は一致していました。阪神に入団してオープン戦を見た時、当然ですけれど、当時に比べてすごく成長していると感じました。横浜スタジアムでの場外弾も見ましたが、やはり飛距離は規格外。打撃フォームは、上半身については直すところがありません。ポイントは2つあります。

<1>日本人離れした懐の深さ トップの位置に構えた時、左肘と体幹の間の懐部分が大きく空いています。メジャーリーガーや外国人選手には見られますが、日本人ではエンゼルス大谷翔平選手以外に、あれだけ懐が深い選手はなかなかいません。人よりも体が大きいので、それだけで有利ですが、高いところから構えてインパクトへ入っていくまでの距離を保てるので、加速が得やすくなっています。普通は力を入れると、トップの位置でバットのヘッドが投手側へ入ってしまいがちですが、大学時代に比べると改善されています。

<2>グリップ先行 懐が深ければ何がいいかというと、左肘が入る場所ができるんです。肘が中に入って、グリップ先行のバットの出し方ができています。グリップが先に出るので、最後の最後にバットのヘッドを走らせることができる。そこで加速できているので、そんなに力を入れているように見えなくてもボールが飛びます。

多くの選手は肘を入れるとバットのヘッドが下がってしまう。だから、おとなしいスイングになり、懐も小さくなっていくんです。佐藤輝選手は非常に合理的にバットを使えています。

課題は下半身です。簡単に言うと、体重移動。例えば、メジャーのいい選手は、頭の位置は動かないですが、体重移動はすごくしています。打撃においての体重移動は、軸足の股関節に乗っていたものを前の股関節へ移動させること。これがものすごい力を生むんですが、佐藤輝選手はそれが少ないと言えます。

簡単に言うと、お尻をプリプリ左右に振る動きが少ない。本当は体重が前へ移ってから回転するのが理想ですが、今は体重移動が少なく、その場で回転してしまっています。これでは、いくらバットが内側から出ているといっても、最後にバットのヘッドが出てしまう。ちょっとドアスイングになり、外側から入ってしまうので、内角球に対してバットが折れやすい。また、体重移動の幅がないので、低めの変化球などに崩されやすいです。この体重移動が、大谷選手との差になります。

とはいえ、これを1年目の選手に言っているわけですから。もろさもありますが、それ以上の魅力がある選手だと思います。(筑波大准教授・川村卓)

◆川村卓(かわむら・たかし)1970年(昭45)5月13日、北海道江別市生まれ。札幌開成では主将で88年夏の甲子園出場。筑波大でも主将。卒業後、浜頓別高の教員、野球部監督を経て、00年10月から筑波大硬式野球部監督。現在は体育系准教授も務める。専門は野球の投球動作、打撃動作の分析、スポーツ科学など。野球専門の研究者として屈指の存在。

◆ドアスイング 肘が伸び、腕が胴体から離れ、バットのグリップよりヘッドが先に出てくるスイング。外側から内側へバットのヘッドが遠回りする軌道になり、芯に当たる確率が上がりにくいとされる。反対に、グリップを先に出すイメージでバットを内から出し、ヘッドを走らせて捉える打ち方はインサイドアウトなどと表現される。