吉田正尚がオリックスの軸に 打線組みやすく/宮本&和田氏が前半戦総括

オリックスの打の柱、吉田正尚

<パ・リーグ編>

日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏(50)と和田一浩氏(49)がパ・リーグの前半戦を総括しました。首位を走るオリックスの現状を解説。後半戦でライバルに浮上してくる球団も予想しました。【取材・構成=小島信行】

小島 こういっては失礼ですが、パはオリックスが「まさか」の首位ターンですよ。

宮本 ビックリといえばビックリだけど、活躍している選手の名前を見ると、全然不思議じゃないんだよなぁ。

和田 頑張っているのは野手で杉本と福田。杉本なんか、ある程度のホームランは打っても、3割打つなんて思わなかった。ピッチャーではなんといっても宮城。吉田正や山本なんかは、やって当たり前の域にいる選手。でも毎年、順位予想でオリックスは頭を悩ませるチームなんですよねぇ。

宮本 そうそう。ピッチャーの顔触れなんかを見ると、Aクラスに入らないのが不思議だった。多少、打線が弱いイメージがあるけど、軸になる吉田正がいる。率も残せるし長打もある。それでいて三振も少ない。なかなかいない貴重なバッターだよ。

和田 3番でも4番でもいいタイプですよね。長打力があっても選球眼が悪いと、後ろにいいバッターを置かないといけなくなる。その心配がないし、吉田正の前を打つ選手は勝負してくれるからメリットがある。強打者として総合的なバランスが取れていて、チームにとってありがたい。こういう選手がいると、打線が組みやすくなる。

宮本 でもこのまま優勝するかと言われると「う~ん」となるんだよなぁ。今はやる気になって一生懸命やっているけど、もともとは「緩い野球」。キャッチャーとショートで守備力の高い選手がいないのも気になる。打撃面で悪くなったときに補うのが走塁面。投手が調子を落としたときに補うのが守備面。だから安定した強さを出せるかと言われると疑問が沸く。

小島 でも中嶋監督は若手をうまく競争させてますよね。

和田 それが緩かったチームが、一生懸命にやっている要因でしょう。まだ細かいところにスキはあるけど、経験を積んで細かいミスを減らしていけば優勝を狙えるんじゃないですか。

宮本 でも今の若い選手は細かいことを言うと萎縮するんだよなぁ。幸いなのは、実績があるベテランで怠慢プレーを連発したり、首脳陣とぶつかってふてくされてるような選手がいなさそうなところ。アダム・ジョーンズは外国人だし、成績がダメ過ぎて影響が少なそうだし(笑い)。

和田 ハハ、そうですね。だいたい低迷が続いているチームにはそういうベテランがいますよね。それを見た若手も一生懸命にやらなくなる。悪循環で弱くなるんですよねぇ。

宮本 ベテランの悪いところを見ている若手は、自分がベテランになると同じことをやるんだよなぁ。長い期間、弱いチームの共通点。

小島 優勝候補筆頭のソフトバンクが苦しんでいます。

和田 前半戦はキューバの選手がほとんどそろわなかったのが痛い。特にグラシアル。中村晃の調子もいまひとつで、今の打線だと柳田にマークが集中しますから。

小島 でもソフトバンクって日本シリーズで4連覇して断トツに強いイメージがありますけど、パのペナントでは2回しか優勝してないんですよね。

宮本 確かに今季は特に集中してないイメージがありますよね。普通は長いシーズンの方が選手層の厚さや総合的な強さがモノを言う。でもソフトバンクの場合、CSや日本シリーズみたいな短期決戦だと強い戦いをするけど、シーズンだと何かしらけたような感じがある。中継ぎ投手に3連投させないとか、大事に使うのはいいけど、それがしらけたように見えちゃうのかなぁ。ムチを入れたときにどうなるか。手遅れにならなきゃいいけど。

和田 最終的にはソフトバンクが優勝するような気もするけど…。これからキューバ勢も帰ってくるし、プラス要因ばかり。チームの雰囲気は心配だけど。

宮本 本当に予測できないけど、オリックスはここで優勝しとかないといけないでしょう。あとは楽天が怖い。セの時に話したけど、炭谷の加入は大きいと思うよ。名前のある先発陣が生き返るかもしれない。

和田 でも打線が弱いんだよなぁ。辰己とか田中がもっとやらないといけない。スイングそのものはパワーがあるけど、生かし切れていない。軸になっているのが、それほど調子がいいわけではない浅村しかいない感じですよね。

小島 結局、今年は混戦で面白いけど、強いはずのチームがいまひとつ。両リーグともセはヤクルト、パはオリックスが頑張っているってことですね。

宮本 玄人の人は少し物足りなく感じるかもしれませんね。力がなくても必死にやるとなんとかなる。一生懸命にやるのは当たり前で、プロは高度な野球を見せないといけない。例えば走塁面なんか、どのチームもレベルが落ちてますよね。積極的な走塁って言っても、何でもかんでも走ってOKってのはアマチュアの野球。得点差を考えて、積極的にいっていい場面とそうじゃない場面を区別してやらないと。

和田 走塁ミスって一番、試合の流れを変えます。野球のプレーで首脳陣が怒って注意するのも、走塁面が多い。

宮本 プロ入りしたとき、アマチュアと一番違うのは走塁面だった。変な走塁をすると、めちゃくちゃ怒られた。今はプロもアマも厳しく怒らないからなぁ。怒らないというより、怒れないって感じ。選手ファーストが強すぎるんじゃないかな。

小島 細かい野球を教えられないってのもあるんじゃないですか。投手出身の監督が多いのもあるんじゃないですか?

和田 それぞれのチーム事情があるだろうけど、監督がピッチャーならヘッドコーチがやればいいんですよ。言うことを聞いてくれないんじゃ話は別ですけど。

宮本 根気よく継続して教えていかないといけないから大変だよな。

和田 そういえば今年、キャンプで若手に「続けてやらないと野球はうまくならないぞ」って言った後に「継続は、に続く言葉は何だ?」って聞いたら「カネになる」って答えた選手がいました(笑い)。※正しくは「継続は力なり」。

宮本 意味は合っているじゃないか(笑い)。俺は「勝ってかぶとの緒を締めろ」ってのを「勝ってかぶとの角が生える」って答えた選手がいたと聞いて大笑いしたよ。

小島 英語の「ワンダフル」の意味を「犬がいっぱい」って訳した選手もいました。

宮本 「フル」を「いっぱい」っていうのは何となく分かるけど、「ワン」を「犬」って訳したんですか。想像力豊かで好感持てます。でも、分からないことも何とか答えようとするあたりに、スポーツマンらしさを感じますね(笑い)。