阪神ドラ1森木大智の小4秘話「1イニング5K伝説」捕手が剛球捕れず

高岡第二イーグルスでプレーした小学生6年時の阪神ドラフト1位森木大智(右から3人目、石元恭一氏提供)

<高知からセ界へ「森木がゆく」(1)>

阪神はドラフト1位で高校BIG3の1人、高知・森木大智投手(18)を指名しました。日刊スポーツでは森木投手がプロ野球選手になるまでの軌跡を「森木がゆく」と題し、全10回連載でお届けします。第1回は数々の伝説を残した小学生時代。所属した高岡第二イーグルスのグラウンドに潜入し、当時も今も監督の石元恭一さん(52)が、秘話を明かしました。【取材・構成=中野椋】

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頭1つ、いや2つほど抜けていた。高知・土佐市の蓮池小に通っていた森木は、1年時にソフトボールを始めた。「学校に野球チームがなかったんで…」。本当は野球がやりたかった。我慢の2年を経て3年時、森木の父の、中学時代の1学年先輩である石元監督率いる高岡第二イーグルスに所属した。

石元監督 当時から体が5年生と同じくらいありました。もちろん体の力もありましたし、足も速かったですね。

4年生までは主に捕手を務め、矢のような送球で盗塁を許さなかった。5年の春ごろ、投手に転向。ここで問題が起きた。森木の球を受けられる捕手が、いない。

石元監督 同級生だとなかなか…。やっぱり森木のは、捕れるような球ではなかったんです。

のちに軟式球で150キロ、硬式球では154キロをマークする怪物でも、当時はまだ未完成。身長は170センチに迫り、球威は抜群だった一方、ボールが暴れた。まだ本格的に投手を始める前、4年生の高知県大会では「最後、1イニングだけいこう」と守護神として起用された。そこで振り逃げ2つを含む、計5個の三振で試合を締めた。捕れないし、打てない。森木にしかできない、伝説の“1イニング5K”だった。

天性の体格、運動能力。そこに努力できる下地をつくったから、今がある。平日は水曜日と金曜日のチーム練習、さらに週末の練習や試合に加えて、放課後は自主練習に励んだ。

石元監督 小学生の手じゃなかった。高校生みたいにまめがはげた上にさらにタコができて。「自分らの、高校の時の手やな」と。まめの上にまめができて、だんだん厚くなって。

高知商でプレーした石元監督も驚く森木の手。「投手より打つ方が好きだったんじゃないかな」と回想する。凡退すれば悔しくて泣き、「10割打てるバッターはおらん」と諭された。小学校の校舎3階に本塁打をぶち当てたり、敬遠球に腕を伸ばし右中間にランニングホームランを打ったり。負けず嫌いで、努力家だから規格外の成長を見せた。

石元監督 小学校5年生くらいになってから、プロに行けるような子だなと。普通にケガなくやったら行けるんじゃないかなと思っていましたね。

森木 野球がやっぱり好きでしたから努力もできた。のびのびさせてもらったし、チームのみんなも負けたくないって思っていたので。全力で走る、全力で投げるとか基本的なこと、「野球」っていうものを教えてもらいました。

森木が6年時には高知県大会優勝。数え切れない伝説を残し、同年秋頃には選抜チーム「高知ボーイズ」にも選ばれた。ここで、森木の野球人生にとって運命の出会いが訪れる。(つづく)

森木の剛速球を止めろ!兄弟で女房役転向

<とっておきメモ>

森木の“捕れない”剛速球を受け止めるため、コンバートされた兄弟がいる。森木が本格的に投手転向した5年の夏。1学年上で主将を務めた岡本陸さん(19)は、ファーストから捕手に転向した。「ボールが重たかったですね…。暴投が来ても大変ですけど、ストライクが来たら来たで、手が腫れて親指を突いてキツかったです」と懐しむ。

陸さんが卒業後は森木の1学年下で、陸さんの弟大和さん(高知西2年)が外野手から転向。兄いわく「自分よりセンスがあった」という弟でも、苦戦を強いられた。「最初は全然捕れなかったですし、捕れても痛すぎて手が腫れてました。正直嫌になることも…」。それでも森木の優しさに救われたという。「捕れなくても『大丈夫』と言ってくださって。次の球は構えたところにズバッと来てました」。

この2人がいなかったら。森木は試合で投げられず、その後高知中へ進む道も違っていたかもしれない。体をボロボロにしながら剛球を受け続けた岡本兄弟は「一生の自慢ですね。宝物です」と口をそろえた。【阪神担当=中野椋】

後輩からエール「勝ち投手になって」

○…高岡第二イーグルスで現在主将を務める吉松賢多郎君(けんたろう=10)は「森木投手は野球がうまいし、優しいです! 勝ち投手になってもらいたい」と先輩にエールを送った。毎年1月3日の同チームの集まりなど、森木は節目でグラウンドに訪れ、恩義を忘れない。「未来の森木」を目指す後輩たちへ、甲子園で躍動する姿を届ける。

 

◆森木大智(もりき・だいち)2003年(平15)4月17日生まれ、高知県土佐市出身。蓮池小1年時にソフトボールを始め、3年時に「高岡第二イーグルス」で軟式野球を始める。高知中では3年時に春夏の全国大会を制覇。軟式で150キロを計測。高知では1年春からベンチ入りし、同年夏からエース番号1。甲子園出場はなし。最速154キロ。184センチ、90キロ。右投げ右打ち。