里崎智也氏提唱 捕手クオリティー・ゲームどうですか? 女房役にも評価軸

今季の捕手のQG割合

<深掘り。>

里崎智也氏(45=日刊スポーツ評論家)が長年のテーマに取りかかる。「捕手の評価基準作り」に、提案型評論家として熱く挑む。新たな指標として捕手クオリティー・ゲーム(QG)を掲げた。データ分析→検証→仮説により、提案を導くのが里崎氏のやり方。たとえ試合に負けても捕手が正当な評価を受ける時代へ、1歩前進する。【データ=伊藤友一、多田周平】

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里崎氏 これは現役のころからずっと感じていたことです。捕手は投手次第、相手の打線、試合の結果次第で評価されることがすごく大きいんです。仮に投手を2失点完投に導いても、負ければ捕手は責められる。投手はよく投げたと評価される。でも、捕手はそうはいかない。2点を失ったリードを追及される。だから、捕手にもクオリティー・スタート(QS)のような評価基準が必要だと考えてきました。

投手には6回3自責点というQSが一般的に広まっている。

里崎氏 捕手についてはQSではなくQGという言葉を提案したいと思います。そして9回まで(延長戦は試合終了まで)マスクをかぶることを重要視したい。バッテリーにとって一番しんどいのは終盤の3イニング。味方は継投に入り、相手は代打の切り札を投入してきます。1球の怖さがより鮮明になる最終局面こそ、捕手に決断力が求められます。具体的には9回を自責点3~失点4の攻防を考えています。失点2は厳しすぎ、失点5は取られ過ぎですね。

ただし、フルイニング出場では該当データが少ない。そこで出場イニング6回、7回と段階を踏みデータを精査した。

里崎氏 捕手の物差しをつくるなら、直観的にはやっぱりフルイニングと感じました。ただ、12球団の状況を見ると、該当するデータが限られます。サンプルが少ないと、分析する上で説得力が薄くなります。それなら、出場イニングを加味するのもいいのかなと感じました。

その上でイニングと失点について里崎氏は次のような見解を示した。

里崎氏 私は新QS(7回を3自責点)を提案しました。同じバッテリーというくくりで考えるなら、捕手QGも7回を軸に、失点3か失点4の検討が現実的。そして難易度では、難しい方から3失点→自責点3→4失点となります。投手の新QSとのバランスを考えた時、捕手QGは新QSよりもやや難しい7回3失点で測ることにしました。

【捕手QG=先発した試合のうち7回以上で3失点以内の試合数の割合】

里崎氏 特筆すべきは伏見ですね。オリックスは伏見と若月の併用で優勝しました。印象的にはシーズン終盤に主に山本とバッテリーを組んだ若月に目が行きがちですが、伏見の数値は高い。エース山本とは12試合(84回1/3)組んでいますが、それ以外に2年目の宮城や、田嶋、山崎颯、山崎福など成長著しい若手と組みこの捕手QG66・2%は見事です。若月は山本と11試合(87回)組み、捕手QG58・1%。この2人の併用が機能しました。

捕手QGの表すものが見えはじめ、再び里崎氏はあることに気づく。

里崎氏 こうしてみると、やはりフルイニング出場のデータも気になります。そこでフルイニングなら4失点以内としてデータを追うと、上位から(1)中日木下拓67・3%(2)ソフトバンク甲斐60・6%(3)西武森60・2%(4)ヤクルト中村60・0%(5)阪神梅野59・2%(6)オリックス伏見58・1%。ここで気付いたのですが、上位6選手のうち5選手は、捕手QGの上位5選手と同じです。特に最下位西武、Bクラスのソフトバンク、中日の正捕手はフル出場すれば6割以上の確率で9回を4失点以内に抑えています。これは大切なポイントですよ!

何かひらめいたのか、がぜんトークが激しくなる。提案型評論家・里崎氏の熱い訴えだ。

里崎氏 ということはですよ、西武森、中日木下拓、ソフトバンク甲斐は、6割以上の確率で試合を作ってきたということですね。それでもチームの順位が悪かったのは、打線の援護がなかったとはっきり言えるということです。そして、捕手が先発と組み試合をつくりながら、勝ちきれなかった継投を含めた采配面にも大きな責任があるということです。これは、すごく大事なことです。なぜなら、捕手はチームが勝たないと認めてもらえないんです。勝てばいいけど、負けたらボロクソ。特に先発が試合を作って負けた時は、捕手が責められることはしょっちゅうでした。僕はずっと納得がいかなかったんですが、それを証明できなかった。でも、このデータは勝率5割に届かなかった球団も、捕手は相応の役目を果たしていたことを示しています。だから勝って評価されるのが普通ですが、捕手は負けても評価されるケースがあってしかるべきだということが、このデータ分析からは言えるんです。

里崎氏 最後に、現役捕手に強く言いたいんです。捕手の評価基準を上げたいなら、もっと試合に出ろ、もっとフルイニングで出場しろと。そのデータが捕手の評価基準をつくってくれる。まずは7回を3失点以内の割合=捕手QGでスタートしましたが、それはフルイニング出場が少ないからの苦肉の策です。説得力あるデータを得るには、最後まで出続けること、ここに行き着くんです。それが、強いては自分たちの評価を高め、自分たちを助けるんです。そのためには、ディフェンス面に加え、打たないとだめです。今季多くフル出場した捕手は、みんな捕手としては打ってます。打てる捕手だからこそ、最後まで試合に出続ける。チームの勝敗で、負ければ何となく矢面に立たされていた捕手が、きちんとした評価基準の中で認められるようになることを望んでいます。それが当然のことですから。チームは負けても、状況に応じて「よくやったな」と言われる捕手がいてもいいんです。そのためにも、捕手は試合に出続けろ! そして打て! 最後までマスクをかぶれ! この言葉に尽きます。

新QSの提案にはじまり、盗塁抑止力を可視化する里崎指数最新版の分析、そして捕手QGの提唱。バッテリーを「深掘り。」する里崎の今オフ考察はこれで一区切りを迎えた。