鳥谷敬氏が迫るパリ五輪ブレイクダンスの金候補Shigekix「人間味のある競技だと知って」

「決めポーズ、こんな感じでいいですかね(笑い)」と片手で身体を支えてくれたブレイクダンスの半井。本紙評論家の鳥谷氏もダンスのポーズで決めてくれた(撮影・加藤哉)

<鳥谷敬×パリ五輪の星>

阪神、ロッテで活躍した鳥谷敬氏(40=日刊スポーツ評論家)が、24年のパリ五輪を目指すアスリートに迫る新企画「鳥谷敬×パリ五輪の星」(随時掲載)。第1回はパリから新たに五輪種目となるブレイクダンスの金メダル候補、Shigekix(シゲキックス)こと半井(なからい)重幸(20)を直撃です。球界のレジェンドが異業種対談で、通称ブレイキンの若き至宝の素顔と野望に迫りました。【取材・構成=佐井陽介】

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鳥谷氏(以下鳥) 初めまして。今日はよろしくお願いします。

Shigekix(以下S) よろしくお願いします! 

鳥 早速ですが、ブレイキンを始めたきっかけを教えてくれませんか? 

S 両親がヒップホップだったり音楽やダンスが好きで、その趣味を受け継いだ形です。最初は5、6歳からトランポリンをやっていて、先にダンスを始めた姉についていくうちに7歳から趣味で始めました。自由の中から正解を見つけていく、ゼロから作り上げることが自分の性格的に楽しくて、気づいたらメインになっていました。実は子供の頃から絵を描くのが好きなんです。SNSにはたまに挙げさせてもらっているんですけど、今は抽象画的なモノが多いかな。もともとゼロ、真っ白なところから色づけしていく、自分の感覚でモノを作りあげることがすごく好きなんだと思います。学校では図工の時間が好きでした。

鳥 子供の頃はどこで練習していたのですか?

S 地元が大阪で、JR難波駅の改札を出てすぐの広場で10年ぐらい練習させてもらっていました。もちろん管理人の方に許可をいただいた上で、です。約2年前に東京に出てからは設備が整った室内でやらせてもらっていますが、それまではほぼストリートでした。夜遅くに練習したりしていたので、酔っぱらった人に「俺も練習させて~や」と絡まれることもありました(笑い)。でも、普段から通行人が多い場所だったので、なんとなく「彼らはここでいつも練習しているんだな」と分かってくれていたとは思います。めちゃくちゃ変な光景ではあったでしょうけどね(笑い)

鳥 そんなブレイキンが20年12月、パリ五輪種目に正式決定しました。当時はどんな心境でしたか?

S 純粋にうれしかったです。周りには文化として発展したダンス、ブレイキンを五輪競技にするのはどうなのかという意見も正直ありました。でも僕個人としては、より多くの人に知ってもらえるチャンスになると、ポジティブな気持ちでいっぱいでした。

鳥 自分が小中学生の頃は「ダンス甲子園」がはやっていて、ダンスはおしゃれの入り口みたいなイメージでした。それに身ひとつで始められる点も魅力ですね。自分はボランティア活動で東南アジアに靴を持っていったりします。でも現地では野球を知らない子供ばかり。ボールやグラブもないから動画を見せるしかない。ブレイキンはどこでも披露できてうらやましい。

S ブレイキンは相当な可能性を秘めていると思っています。始めようと思えば誰でもすぐにチャレンジできる。もちろん靴があったり床がきれいだった方がやりやすいけど、靴がなくても床がボコボコでもできる。それこそ発展途上国でもソロダンスやブレイキンは発展しているんです。それに勝ち負け、うまい下手だけが全てではない。僕みたいにプロになって日本代表として戦うのも1つ。週末の趣味としてパーティーやストリートでたしなむライフスタイルも1つですから。五輪やメディアを通して少しでも僕たちに触れてもらえれば、五輪を目指す子供が出てくるかもしれない。先輩方が趣味にしてくれるかもしれない。そうなっていければうれしいです。

鳥 日本人って、日本人が世界で勝つことにすごく興味があると思うんです。たとえばハンマー投げにしても、室伏さんが勝つことでみんなが知るようになる。そう考えれば、パリ五輪では「ブレイキンをより広めるためにも金メダルを」という目標になりそうですね。

S そうですね。僕は金メダルだけが全てだとは思っていません。ブレイキンが好きだという気持ちや充実感がなければ、金メダルを取ってもあまりうれしくないと思う。逆につらいことも楽しみながらできれば、たとえ金メダルでなくても人生の糧になる。そういう考え方の中で、やりたいことを全身全霊でやって金メダルを取れたら、それはもう最高です。ブレイキンは楽しむことが1つの価値、勝ちにこだわることも1つの価値。そこをうまく皆さんに伝えて、すごく人間味のある競技だと知ってもらいたい。そして、人の支えになるモノの1つとして、音楽と同じようにダンスという選択肢も日本中、世界中に根付いていけばうれしいです。

鳥谷(以下鳥) ここからはブレイキンという競技を少し紹介させてもらってもいいですか?

Shigekix(以下S) はい! ブレイキンという競技には可能性しかなくて、正直、何をしてもいいんです。ふざけても全然怒られない。その人のスタイル、キャラクターとして肯定されます。頭で回っても、手で回ってもいい。ステップを踏んでもいい。本当に何でもあり。その可能性の中で、いかに自分のスタイルを出せるか、という競技になります。どんな動きをどんなスピードでどんな感じでやるのか。展開や構成も、序盤にこういうモノを見せて、中盤に何を持ってきて、最後は何で締めるのか。僕はそういうところが面白いと思っています。

鳥  そうなると採点の仕方が難しそうですね。

S 確かに採点は難しいです。昔からあるカルチャーの部分でいうと、赤なのか青なのか、右なのか左なのか、手を挙げて審査が決まるような大会もありました。そういう大会では「勝った」と思って負けることはありましたし、逆もありました。ただ、五輪に関わってくるような大会では審査基準があって、明らかにこっちが勝っているのに反対が勝つという結果になる可能性は低くなっています。もちろん、個性が尊重される世界だから起こり得る面白さもありますけどね。

鳥 音楽との調和も大事になってきますよね。

S ブレイキンにとって、音楽は絶対に手放せないものです。もちろん手をたたくクラップなどでリズムを取ればダンスできますけど、基本、踊る時には常に音楽があります。ブレイキンはどんな音楽が流れるか分からない中、DJが鳴らした曲を聞いて、その瞬間に即興も交えながら戦うスタイル。もともと曲が決まっているわけではないんです。そこで即興を交えながら自分の技を出していく競技なので、音楽にどう合わせるか、どう表現するかも重要になってきます。回転技でオーツと思わせてから、音楽が終わる瞬間にピタッとポーズを決めると印象に残るとか…。感覚を研ぎ澄まさないといけなくて、特に耳は大事な競技です。

鳥 練習中も音楽をかけながらやるのですか?

S DJの方がいろんな音楽をリミックスした長いモノを作ってくれて、練習ではそれをかけさせてもらっています。何度も聞いている曲は覚えたりもするんですけど、そもそも音楽の曲は膨大な量があるので、基本は即興で反応しながら練習する形になりますね。

鳥 Shigekixさん自身も音楽が好きなんですか?

S 自分の場合はもともと両親がヒップホップ系の音楽をかけるような家庭で育ちました。とはいっても、小さい頃からブレイキンでかかるような音楽を聞いていたわけではなくて。音楽自体が好きなので、日本のJポップも聞きますよ。踊っている時はいわゆるビートが強い曲を聞きますし、家でリラックスしている時はジャズも聞きます。試合前に聞く「勝負曲」もその時その時でハマっているものを聞いています。

鳥 それにしても、聞けば聞くほど面白そうなスポーツですね。

S 球技とかルールがしっかりある中でやっているプレーヤーの方から「面白そう」と言ってもらえることは確かに多いです。

鳥 野球界の話をすると、今、徐々に野球離れが進んでいるように感じています。以前は地上波のテレビでやっていた野球中継も、今はインターネットやCSで見たい人だけが見る時代。もともと野球に興味がない人が野球に触れる機会が減っています。そういう意味ではその競技に興味がない人に知ってもらうことは大切なことだなと最近特に思います。その上で一時的な盛り上がりで終わらないことも大事ですよね。

S ブレイキンはパリ五輪で一時的には注目度が上がって盛り上がると思います。ただ、じゃあ4年後の五輪でも競技として採用されるのか、もしされなかったらどうなるのか、考えるところは多々あります。だからこそ、まずは24年に向けて盛り上がってくる中で、周りの方々の力も借りながらもっと可能性を広げたい。1人でも多くの人に知ってもらいたい。もし仮に五輪競技でなくなってしまったとしても、たくさんの人がブレイキンを応援してくれるように頑張りたいと思っています。

鳥 すごい! 20歳とは思えないぐらいしっかりしていますね(笑い)

S いやいや、こんなぺーペーが偉そうに(笑い)

鳥 野球のロッカーなんかでは、南米出身の選手は音楽が流れ始めたらすぐに踊りだす。でも、日本人はただ聞いているだけなんです。大リーグの球場では音楽が流れたら、必ず踊りだす人がたくさんいる。日本の球場でも踊る人はいるのはいるけど、ほとんどの人にはそういう感覚がない。踊ることに違和感があるというか、恥ずかしいというか…。そういった違和感、恥ずかしさをなくしていけたらいいですね。

S ブレイキンは知らないけど僕のことは知っているとか、「あの人って最近よくテレビに出ているけど、なんかダンスを踊っているらしいよ」とかでも、1つの入り口だと思うんです。競技、大会で頑張るのはプレーヤーとして当たり前。僕は僕自身のためにやっている部分ももちろんありますけど、自分の活動で少しでも影響を与えれたらなと思っています。

◆鳥谷敬(とりたに・たかし)1981年(昭56)6月26日、東京都出身。聖望学園3年夏に甲子園出場。早大を経て03年ドラフト自由枠で阪神入団。1939試合連続出場はプロ野球2位、667試合連続フルイニング出場は遊撃手記録。17年に通算2000安打を達成した。19年オフに阪神を退団し、ロッテで2年間プレーして現役引退。13年WBC日本代表。11年最高出塁率、ベストナイン6度、ゴールデングラブ賞5度。180センチ、79キロ。右投げ左打ち。

◆半井重幸(なからい・しげゆき)2002年(平14)3月11日、大阪・大阪狭山市生まれ。7歳からブレイクダンスを始める。11歳で世界大会に出場。14歳でダンスチーム「THE G-SHOCK」加入。18年10月ブエノスアイレスユース五輪で銅メダル。19年には「Redbull BC One Allstars」に加入。20年全日本ブレイキン選手権で日本一、同年「Redbull BC One World Final」で最年少世界一に。国際大会優勝46回。166センチ、58キロ。姉はブレイクダンサーAYANEこと彩弥。

◆ブレイクダンスQ&A

▼ルーツ 1970年代の米ニューヨーク・サウスブロンクス地区が発祥の地。ギャングの抗争を平和的に解決する手段として発展。

▼呼び方 競技名はブレイキン。プレーヤーはBボーイ、Bガール。まとめてブレイカーと称することも。

▼ルール DJが即興で流した音楽に合わせて、30~40秒の時間内にダンスを披露し合う。18年ユース五輪では1対1のバトル形式で交互に披露し、1試合のバトルラウンド数は2~4。

▼要素 主に立ち踊りのトップロック、かがんで踊るフットワーク、頭や肩など全身で跳ねたり回転するパワームーブ、決めポーズのフリーズで構成。

▼採点 18年ユース五輪の評価基準は<1>技術(40点)<2>表現(30点)<3>構成・完成度(20点)<4>バトル(10点)。ステップやスピンの技の難度、音楽との調和性や創造性などが対象。

▼賞金 大会によって1000万円超になることも。

▼年齢層 10、20代のトッププレーヤーが増加。30歳中盤で大ベテランも「自分はBボーイだ、Bガールだと言えば、現役引退はない。50、60歳でも踊っていられます」(Shigekix)。

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