【里崎智也】12球団「走力」チェック 意外に精度高い森友哉、緻密な村上宗隆、物足りない巨人

【注】失策絡みで進んだ場合は回数に含まない

<深掘り。>

日刊スポーツ評論家・里崎智也氏(46)のプロ野球を多角的に分析する深掘り。今回は「貢献度の高い走塁編」。長打は除き、単打によって一塁→三塁、二塁→本塁へ進塁した走者にスポットを当てる。単打の方向を左前、中前、右前と絞り込むことで、俊足に頼らない走塁の背景が見えてきた。【データ担当=多田周平】

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プロ野球は短いオフシーズンに入りました。ファンの皆さんは早くも好きな球団の来季を見据えていることと思います。FA移籍、新外国人選手が決まった球団もありますが、トレードを含めた戦力補強はこれからです。投打にわたって、まだまだ動く可能性があり、戦力は見えません。

そんな時こそ、走塁をより深く考えてみてはどうでしょうか。機動力も新戦力で変動する可能性はあります。ただし、今季の「1つ先の塁を狙う姿勢」を分析すれば、各球団の強みと強化ポイントを浮き彫りにすることができます。それぞれの走塁の背景はメモを参照してもらうとして、データからはいくつかのチームの特色を考えます。

まず、意外だったのは左前打で一塁→三塁の西武森です。決して俊足ではありません。それでいて、5回走って全部成功させています。

なぜ森がそこまで精度を高めることができたのか。次打者山川との関連性が見えてきます。右の強打者を迎え、相手左翼は定位置よりも下がる可能性があります。ここを見逃さない森の観察力のたまものと言えるでしょう。もちろん、試合展開によります。1点差勝負で左翼が定位置であれば、森も簡単に三進はできません。

守備位置を常に確認しているからこそ、三進の回数が多いと分析できます。考えた走塁が伝統として根付く西武の抜け目のなさが感じられます。

また獅子奮迅の活躍を見せたヤクルト村上も、中前打で三塁に進んでいます。このケースも後ろにオスナ、サンタナが控えることが多く、センターの守備位置を見ながらの走塁と言えるでしょう。狭い神宮球場で、こうした走塁を主砲が実践するところに、長打頼みではないヤクルト打線の緻密さを感じます。

また、中日ビシエドの意識の高さも秀逸と言えるでしょう。一塁→三塁、さらに二塁→本塁へと多くの状況で先の塁を狙っています。中日は攻撃力に弱点があります。得点力アップは来季も課題です。打つことと、走塁を連動させることで得点を増やしたいチームにとり、ビシエドの姿勢は大きなヒントになるでしょう。

反対に、巨人にこうした意図ある走塁をする選手が吉川だけというのが何とも寂しく感じます。阪神では中野、佐藤輝、大山、近本、糸原と何人も名前が出てくるのに対し、物足りなさを感じます。1発攻勢に頼りがちなチーム体質は、こうしたところから改善する必要を感じます。

また、意外な感じがしますがソフトバンクの走塁で光ったのが三森だけというのも巨人と同様に見えます。本来ならば牧原大、周東など俊足がいるだけに、意識づけを進めていけば、おのずと攻撃力の強化は図れると言えます。

先述したように、阪神は意識が高く常に複数の選手が先の塁を狙おうとしています。新外国人選手次第という側面はありますが、クリーンアップの主軸がしっかりすれば、他球団からすれば脅威となる機動力になっていくと感じます。

走塁をデータを元に分析してみると、俊足だから先に進めていると一概に言いきれない背景が見えてきます。こうした傾向は来季も継続される可能性が高く、応援する球団を考える時やライバル球団と対戦する時などに、こうした捉え方を参考にすれば、より試合を楽しむことができるのではないでしょうか。(日刊スポーツ評論家)

◆一塁→三塁

一塁走者が単打で三塁まで到達するには、いくつかの要素がある。まず、ベンチからのヒットエンドラン、ランエンドヒットなどのサインがある。サインは試合を動かすためには効果的で、試合終盤の同点機、逆転機などの状況に応じベンチが選択する。

守備位置も深く関係する。俊足の走者と、そうではない走者で差は出るが、一般的に三塁まで進むのは、右前打の確率が、中前打、左前打よりも高くなる傾向にある。右翼→三塁が、それ以外より長くなるからだ。右翼手の肩の強さ、送球の正確さも大切になる。

打者が右か左かも要因になる。カウントによって、左打者が引っ張りやすければ右前に飛ぶ確率は高まり、走者もスタートが切りやすくなる。右打者ならば、意識的に右前へ打てる技術があるかどうかも、走塁に影響する。

◆二塁→本塁

2つ先の塁を奪う点では一塁→三塁と状況は同じだが、二塁→本塁の方が頻度が多くなる。二塁走者は、一塁走者よりも広くリードを取れる利点がある。投球後に捕手から一塁にけん制するのと、二塁にけん制するのでは、投げる距離に差がある。それだけ二塁走者はリードが取りやすく、スタートも切りやすくなる。

ベンチからのサインが走塁に影響するのは、一塁→三塁のケースと同じだが、二塁に走者がいる時は外野の守備位置が前になるケースが増える。点差、イニングによるが、二塁走者は、単打でホームを狙う頻度が増えるため、外野手の警戒度はより強くなる。