【悼む】入来智さんが日本シリーズ決戦前に見せた驚きの行動 20年以上たっても記者の脳裏に

01年10月、近鉄との日本シリーズで若松監督(右)と握手をするヤクルト入来智さん

「入来兄」が急逝した。ヤクルトは11日、球団OBの入来智氏が10日夜に宮崎・都城市内で交通事故に遭い、死去したと発表した。55歳だった。

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01年のヤクルト-近鉄の日本シリーズ。私は入社1年目の新人記者として、ヤクルト側の取材班の一員に晩秋から加わっていた。

10月23日の昼。他社の先輩記者も含め、宿泊先ホテルに詰めていた。エレベーターの前に待ち、第3戦の決戦に向かう選手たちから短い一言をもらう。テレコが普及していない時代。メモ帳に書き写していた。何度も輪が出来ては、解けていた。

その男は、不意に現れた。エレベーターの階数の表示を一瞬、見やる。ランプは点滅していない。高層ホテルの階段から降りてきたのは、先発投手を務める入来智さんだった。「気合が入りすぎて」。自社の担当に報告すると、とても面白がってくれた。

20年以上も記者生活を続けると、いろんなことを忘れていく。似たようなエピソードが記憶に更新され、古い話は色あせていく。だが、この入来さんの行動は忘れられない。その後も、宿泊先ホテルの出待ちの取材は何度もあったが、日本シリーズの戦いを前に、長い階段を降りてきた先発投手を、入来さん以外に私は知らない。

「緊張しすぎてツバも出ない。気がついたら胃が痛かった」と極限の心理状態で5回2安打1失点。勝利投手となり、五分だった星を先攻させ、日本一へのバトンを渡した。

「勝ったら野球人生の集大成。この日のためにやってきた。日本シリーズ初勝利? 生まれて初めてだよ」。一世一代の投球後の、純な言葉だった。【広重竜太郎】