阪神今岡真訪打撃コーチの言葉に意表を突かれたのは初夏、甲子園で取材中のことだった。すでに虎の「四球奪取力」が注目され始めていた時期。どのような指導でボール球を見極めさせているのか、素朴な疑問をぶつけた際の話だ。
「自分は選手に『ボール球を振るな』と伝えたことは一度もない。打ちにいきながらボール球を見逃せる技術と、ヒットを打つ技術。この2つは間違いなく同レベルの技術だと思っているので」
てっきりボール球を振らない方法がテーマになると想像していただけに、意外な答えに少し動揺した記憶がある。
今岡コーチは49歳にして指導者歴8年を誇る。ロッテで選手兼2軍打撃守備コーチを任された現役最終年を皮切りに、阪神で2軍打撃兼野手総合コーチ、ロッテでも2軍監督、1軍ヘッドコーチを経験している。その間、どれだけ立場が変わろうと、人知れず信念を貫いてきたのだという。
「たとえば浮いたボールを狙ってほしい時、その高さを狙えと伝えるのか、低めを振るなと伝えるのか。僕は『絶対にこの高さに来るから、そこにタイミングを合わせる』というタイプだった。だから『誘い球が多いから振るな』とはあまり言いたくないんです」
現役時代は2度の阪神優勝に大きく貢献した。03年は1番打者として打率3割4分で首位打者に輝き、5番打者を任された05年は日本プロ野球史上歴代3位の147打点でタイトルを獲得した。華やかな経歴の裏で、当時は大先輩の「鉄人」がボール球を難なく見極める姿に「自分には無理」と驚いたそうだ。
「自分にも金本さんみたいな選球眼があったら、今『ボール球を振るな』と言っているかもしれませんけどね。打者は『ここを振ると術中にはまるぞ』と言われると、その言葉が邪魔になって、打てる球までファウルになったり振れなくなるものなので」
いまさら説明するまでもないが、今季の虎は奪四球の重要性をチーム全体で共有している。シーズン開幕直前の全体ミーティングで、岡田監督が「四球の査定ポイントをアップした」と明言。今岡コーチ自身も事実、「フルカウントの時だけは打ち方を変えてでも頑張ってくれ」と選手に伝えている。一方で、四球の奪い方が決して逃げ腰に映らないのも23年阪神打線の特徴の1つだろう。
シーズンを通して四球絡みの得点を量産し、「アレ」を間近に控えるタイガース。昨季143試合でリーグ3位の358個だったチーム四球数は、今季125試合終了時点で両リーグ断トツの450個を数える。
平然とボール球を見逃されるだけでなく、甘く入ったらガツンと行かれるから、簡単にストライクを取りづらい-。打者1人1人に「打ちにくる怖さ」があって初めて「奪四球王国」は築けるのかもしれない。【野球デスク 佐井陽介】