【阪神】坂本誠志郎はなぜ突如、感情あらわに?「『わざと』な面も…」日本一捕手の変貌を深掘り

オリックス対阪神 オリックスを破り38年ぶりの日本一を達成して歓喜する、左から坂本、岩崎、大山、佐藤輝(撮影・上田博志)

<虎を深掘り。>

なぜ頭脳派捕手は突如、感情をあらわにしたのかー。18年ぶりセ界制覇、38年ぶり日本一の立役者の1人、阪神坂本誠志郎捕手(29)の思考を深掘りした。CSファイナルステージから明らかに「鉄仮面」を脱ぎ捨てたチームリーダー格。かつて「虎メダル」を生み出した仕掛け人の脳内には緻密な計算、心には秘めたる闘志が存在した。【取材・構成=佐井陽介】

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坂本はポストシーズンに入ると突如、感情の起伏をむき出しにした。常に冷静沈着なスタイルを貫いてきた男が一体なぜ? 素朴な疑問をぶつけると、頭脳派捕手はニヤリと笑った。

「正直、『わざと』な面もありました。今のタイガースは若いチーム。年長者側の自分があまりかしこまりすぎてもね。8月の横浜スタジアムでも岡田監督が判定に猛抗議してからチームの空気が一気に変わったじゃないですか。分かりやすくスイッチを入れたいという気持ちもありました」

もともとは試合で“鉄仮面”をかぶり続けるタイプだ。「捕手は皆が笑っている時も暗くなっている時も1人、冷静でいないといけない」。そんなポリシーの持ち主が突然イメチェンを図った舞台裏とはー。

◆10月18日CSファイナルステージ初戦・広島戦 同点の5回1死で死球を受け、珍しくバットを投げて気合と怒りを表現。打線はこの回一挙3得点した。

「初戦でしたし、他の選手も厳しいところを攻められ続けたり、ぶつけられるのは嫌だったので」

とっさに計算を働かせたのだろう。広島バッテリーはその後、厳しいコースを攻めづらくなった。

◆10月19日CSファイナルステージ2戦目・広島戦 同点の9回裏2死一、二塁、申告敬遠の直後にストレートの四球を選ぶと、次打者の8番木浪を指さして「任せた!」とほえた。

「俺と勝負してくれよ…という気持ちもありながら(笑い)。(木浪)聖也と僕は今年、開幕戦から試合に出られない状態でスタートした。悔しい気持ちを持っていた2人でなんとか、という感情もありました」

直後、木浪がサヨナラ打。今年3月のWBC準決勝メキシコ戦で侍ジャパン吉田が次打者の村上を指さした名場面と酷似しており「パクッたことにしておきましょうか」と照れ笑いだ。

◆10月20日CSファイナルステージ3戦目・広島戦 1-1の4回2死一、三塁。三遊間を破る適時打を放ち、一塁ベンチの仲間を指さしながら一塁へ。

「クソッという感情は1年間持ち続けていました。それを表に出しすぎるのはプロとして人間として小さい。ただ『やっぱり梅野さんがおらなあかんのや』と言われるのだけは絶対に嫌でした。『坂本には無理』と思っていた人に『できるやん』と思わせたかった」

1年前の秋。岡田監督は就任早々、正捕手梅野を明言した。先輩が左尺骨骨折で離脱してからマスクをかぶり続ける後輩にはもちろん、期する思いがあった。

冷静と情熱の間で揺れ動いた1年間。中学時代に周囲から「東大も狙える」と期待された男は23年秋、持ち前の理性を上回る闘志でナインを引っ張った。

「さすがに普段から毎試合あんなに感情を出していたらしんどいですけどね。短期決戦の一発勝負って、アウト1個を取るのも本当にしんどかったので」

日本シリーズでも「哀」を除く「喜怒楽」でチーム全体を鼓舞。18年ぶりセ界制覇、38年ぶり日本一の“陰の”立役者との声には冗談交じりで感謝した。

「僕、いつも“陰”ばっかりっすよ(笑い)。全く日が当たらへん。お月さんしか見えません…」

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