日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。
◇ ◇ ◇
最近のテレビは日本のプロ野球を飛び越え、メジャーリーグのキャンプ情報を真っ先に映し出す。ほとんどのエース級が流出をはかった状況下では仕方がないか。そう自分をなだめながら、ドジャース大谷翔平のパフォーマンスに見入っている。
そのアリゾナ州グレンデールから伝わってきたのは、久しぶりに聞いた懐かしい名前だった。監督デーブ・ロバーツが、初めて山本由伸のブルペンをチェックした後で「全ての球に意図があった。リンスカムに似ている」と、かつてのエース右腕を引き合いに出したという。
拙者がティム・リンスカムというピッチャーに遭遇したのは、09年WBC日本代表に同行したアリゾナ州スコッツデールでのことだ。原辰徳が監督の侍ジャパンが現地で組んだサンフランシスコ・ジャイアンツとの練習試合で先発したのがリンスカムだった。
若い24歳のピッチャーは、色白な顔、か細い体で、シャギーなロン毛を振り乱した。最初は「マイナーで投げている投手か?」と日本もなめられたと思ったが、これがメジャーNO・1投手と知るのに時間はかからなかった。
侍ジャパンが対戦したのはメジャー3年目を迎えた春先で、前年は18勝(5敗)でサイ・ヤング賞をとっていた。大きなステップ幅で、真っ向から投げ下ろすストレートは球速155キロを計測し、3回途中まで投げて中島の左前へのヒット1本に片付けた。
身長180センチ、体重77キロ。メジャーでは大きくなかった。しかし、イチローのバットをへし折ったし、スプリット、チェンジアップの変化球も効果的で、すっかり手玉にとられた。実際、その年も15勝(7敗)で2年連続サイ・ヤング賞の栄誉に輝いたのだ。
監督のロバーツも当時ジャイアンツに在籍していたから、チームメートだったリンスカムが強く印象に残っていたに違いない。しかもその後のリンスカムは、山本と同じ2度のノーヒットノーランを演じた。2人の姿がダブったとしてもおかしくなかった。
身長178センチ、体重80キロの山本もメジャーでは大柄ではない。侍ジャパンの世界一を取材した後も、メジャーでリンスカムのマウンドを見てきた。ロバーツが名前を挙げたクレバーなタイプで、“小さな大投手”の活躍は心強いサクセスストーリーだ。
リンスカムは3度のワールドチャンピオンに貢献し、オールスターに4度出場のスターだった。日本のエースだった山本もあやかりたい。大谷を筆頭に、日本人の話題で事欠かない年になるのだろう。メジャーへの旅に心かき立てられる日々が続きそうだ。(敬称略)