元ソフトバンク監督・工藤公康「我慢」人材育成“新旧”指導法が心身にしみついている/寺尾で候

心身統一合気道会・藤平信一会長(右)と対談する工藤公康氏(撮影・寺尾博和)

<寺尾で候>

日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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“勝負の達人”どうしの指導論は興味は深い。元ソフトバンク監督・工藤公康が参加した、心身統一合氣道会会長・藤平信一とのトークセションのことだ。

イベントを前にした工藤には「WBC監督候補だった? いやいや。最初からなにも話しはなかったです。なにもないんだから」と笑顔でかわされた。

西武監督だった広岡達朗が、創始者の藤平光一に師事したことで教えを乞うてきた。王を育てた荒川博、安打製造機の榎本喜八も光一の指導を受けた。信一も“氣”のスペシャリストで知られる。

現役生活29年間で14度のリーグ優勝、11度の日本一。ソフトバンク監督として、7シーズンで5度の日本一。工藤の強みは“新旧”というべき時代の指導法が心身にしみついていることだと思った。

西武のウオーミングアップは2時間だった。「100メートル、100本」は地獄で、本数が減ったかと思えば、距離が「200メートル」に延びた。投内連係も2時間で、目をつむっても一塁ベースを踏めるようにするのが広岡野球だった。

今ならスパルタと指摘されるが「広岡さんは妥協しない方。言葉少なでも、大事な言葉を残した。そのうちベースが踏めるようになったから不思議でした」と意味があったことを否定しなかった。

監督だったとき「2月1日のキャンプインに、とんでもないフォームになってくるピッチャーがいるんです」と実例を持ち出す。最近は渡米して人気の指導を選択し、本来の姿を見失う傾向も見受けられる。

「でもこちらから『直せ』とは言わない。せっかく自主トレでやってきたことを否定するからです。投手コーチとは、どうする? すぐ言う? やめようか? そんな話しをします。うまくいかないのはわかってる。でも今の選手は人に変えられるのをいやがります。だから自分から変えたいというのを待つんです。オールスター前までかかりました」

もっぱら聞き役だった藤平も「心が体を動かすのです」と語った。藤平は工藤、九重親方(元大関・千代大海)との共著『活の入れ方』(幻冬舎)で「人が育つ厳しさ」と「パワハラ的な厳しさ」を区別する。

工藤も経験を積むごとに指導スタイルを変えた。当初は喜怒哀楽が表情に表れた印象が強い。だがそのうち“優勝請負人”といわれるまでになった。

「1年目はこちらの一方通行でしたが、3年後にはコーチにも聞くようになった。そうするとコーチも相談を持ちかけてくる。教えすぎは良くない。夢だけ追っていてもいけない。どうなりたいんだ? と選手がなりたい自分を理解してあげるんです」

最後に広岡から工藤本人に直接、生声のメッセージが届いた。「監督としても優秀だった。もっと貫禄をつけなさい」。このときばかりは直立不動だったから笑えた。

“工藤流”の人材育成には「我慢」の2文字がにじむ。「やり方が変わったんじゃない。その時代に合った方法になったんだと思います」。そう言われてふに落ちた有意義な時間だった。(敬称略)