独立リーガーがNPBを席巻している。昨年の15人に続いて、今年のドラフト会議でも13人が指名を受けた。中でも四国IL徳島は5人を輩出して13年連続でのドラフト指名を継続している。その間35人をプロに送り出し、“プロ野球選手育成工場”と化している。DeNAの23年6位指名の井上絢登内野手(25)と昨年3位指名の加藤響内野手(23)が独立リーグの魅力と苦労を赤裸々に明かした。【取材・構成=小早川宗一郎】
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なぜ独立リーガーが増えているのか。四国IL徳島のど真ん中にいた2人は自身の見解を明かす。
井上 1年でも早くプロに行きたかったら独立リーグを選ぶ選手が増えてきている印象があります。
加藤 自分の場合だったら、独立行ってその1年でダメだったらやめる覚悟を持っていた。そういう思いでやってるから増えてきているのかなという気はします。
まさに雑草魂で駆け上がる。その魅力とは。
井上 徳島のいいところはプロに行くためのチームで、全員の目標がプロ野球に向かってることかなと。学生なら優勝とかですけど、徳島は社長、監督も、コーチも、スタッフ、そして選手全員もが「プロに行きたい」「行かせたい」という同じ目標なのがいいことではないかなと思います。
加藤 プロのスカウトがたくさん見てくださるのは大きいかなと。それも歴代の方たちが頑張ってくれたおかげで注目されているからかなと思います。
一方で厳しい現実もある。特に金銭面を中心とした環境はプロの世界とは大きく異なる。
井上 料理や家事は自分で全てやらないといけない。ご飯も1日1000円ちょっとで収めないといけない。オフシーズンはお金が入ってこないのでアルバイトしないといけないのも大変でした。
加藤 自分は遠征の移動が大変でした。愛媛の端の方まで行くと4時間半くらいかかりますし、ソフトバンクの3軍とやるときは筑後まで8時間のバス移動。あとは長時間移動してようやく夜中に帰宅しても、そこからユニホームを自分で洗って次の日またすぐ試合みたいな。かなりしんどかったです。
井上 洗濯もしんどかったですね。ユニホームは2セットしかないので。自分は手洗いで、ある程度汚れ落としたらコインランドリーに持っていってました。乾燥までやっている間に「すき家」とかでご飯食べて…みたいな。
自炊で限られた予算でも、体作りのために食事面は工夫を凝らす。
加藤 自分は同じ年に入団した(現阪神の)工藤さん、(現楽天の)中込さんを参考にしてました。ブロッコリーと鶏胸肉ばっかり。自分はさすがにたまには違うもの食べようと思ったんですけど、その2人はずっとそれだけでした。
井上 自分は「クックパッド」見てました。だいたい目分量で作ってたんですけど、レシピ見て参考にしてスーパーで材料買ったりして。
苦労を覚悟してまで、なぜ独立リーガーの道を選んだのか。その理由もさまざまだ。
井上 自分は福岡大学の同級生の(現西武の)仲田と一緒にずっと大学時代は練習していて、2人で「プロ行こうな」と話をしてました。ただ、僕は指名漏れして行けなくて。その時に独立のスカウトさんに声をかけてもらって「独立っていうのがあるんだ」と知りました。いろいろ調べたら徳島から何年も連続でプロに行ってるというのを見て。ただ当時、高知には福岡大学の先輩がいて、誘われてて徳島とどっちにするか悩んでたんですけど、徳島の方がスカウトさんがたくさん見に来てくれるというのを聞いて徳島を選びました。社会人野球の選択肢は仲田がソフトバンクに指名された時に消えました。あいつが行けるなら、俺も行けるだろうと思って。
加藤 自分は東洋大の野球部を退部して、もう野球はやめようと思ってました。実際に野球をやってない期間もあったんですけど、お世話になっている方に紹介していただいて。最初はその方に強く言われたから行っただけでした。ただ練習参加して、雰囲気とかを見たらすごいなと思って、そこからスイッチが入りました。真冬の2月1日の練習でめっちゃ寒かったんですけど周りはすごく動けてて、自分だけ全然動けてなかった。これは恥ずかしいなと思って、スイッチが入ったんです。
いい思い出もしんどい思い出も色濃く記憶に残る。
井上 1年目のドラフトでは指名を待っていたんですけど指名漏れをしちゃった。そこでやめるか迷って、コーチには「やめます」と言ったんですけど「あと1年頑張れ」と言われて、いろいろ考えてもう1年やることにしました。でも今思えばドラフトで指名漏れした日も、なんでか知らんけど、筋トレしに行ってたんですよ。だから、奥底ではやめたくはなかったのかなと。
加藤 自分の思い出は「すき家」ですね(笑い)。試合終わり、夜遅いとお店があまりやってないんですよ。「すき家」だけがいつもやっているので、オフ前とかはみんなの家の近くにある「すき家」に集まってしゃべりながら一番大きいサイズのキング牛丼食べて3時、4時まで過ごすのが楽しかった思い出です。
2人にとって徳島は縁もゆかりもない土地だった。それでも今やプロへの礎を築いた、人生でも大きな意味を持つ土地になった。
井上 本当に人が温かい。あとご飯がおいしいです。月1回とかしか行けないですけど、たまに海鮮とかいいご飯食べたりしたらおいしくて。あとは阿波尾鶏という鶏肉があるんですよ。ホームラン打つと4パックくらい大量にいただける。それがおいしくて、ホームランを打ったらみんなで誰かの家に集まってバーベキューしたりして食べてました。香川のうどんも、もらえたり。ありがたかったです。
加藤 僕は1回、阿波踊りを見に行ってすごいなと思いました。町中が行列でずっと人が多くて。いつもは人通り少ないですけど、阿波踊りの日だけはすごかったです。
プロ野球選手として日々を過ごす中でも、基礎となるものを構築したのは徳島での日々だった。
井上 大学4年の時にバッティングが分からなくなってしまっていて、一からのスタートだったんですけど、監督さんに打撃のドリルとか引き出しを教えてもらって、それは今でも調子悪くなったりしたら活用させてもらってます。元々大学までそんなにホームラン打てる打者じゃなかったんですけど、徳島でガラッと打てるようになったので、今のスタイルを磨き上げてもらったかなと。
加藤 自分は技術というより、どちらかというと強い球を投げる、遠くにとか、そういうポテンシャルの部分を最大限に伸ばすことをやらせてもらって。そこはすごく大きかったと思います。
これからも独立リーガーからNPBへの波は大きく勢いを増すだろう。後輩たちに伝えたいこととは。
井上 自分がプロに行くまでに頑張ってきたと思うのは、とにかく「諦めない」ということ。何があっても諦めずに頑張り続けたら絶対いいことあるなと。
加藤 自分は覚悟を持って徳島に行ったので独立行くからには、そういう気持ちを持って取り組むハングリー精神を持つのが大事かなと。そういう気持ちが強い人がプロに行けてると思います。
◆井上絢登(いのうえ・けんと)2000年(平12)2月23日生まれ、福岡県筑紫野市出身。久留米商では甲子園出場なし。福岡大を経て、四国IL徳島では22、23年に本塁打、打点の2冠。23年ドラフト6位でDeNA入団。24年4月12日ヤクルト戦で初出場。25年7月2日中日戦で初本塁打となる満塁弾。来季推定年俸900万円。178センチ、90キロ。右投げ左打ち。
◆加藤響(かとう・ひびき)2002年(平14)6月15日生まれ、神奈川県厚木市出身。東海大相模で2年夏に甲子園出場。東洋大3年時に野球部を退部し、在学中に四国IL徳島に入団。1年目から遊撃手でベストナイン。24年ドラフト3位でDeNA入団。今年9月10日阪神戦で初出場。来季推定年俸750万円。180センチ、85キロ。右投げ右打ち。