<ヤクルト3-2巨人>◇7日◇神宮

 ヤクルトが「小川マジック」でサヨナラ勝ちだ。2-2の延長11回2死満塁。打者青木のカウント2ボール1ストライクの場面で、小川淳司監督(53)は一塁走者の相川に代走川本を送った。直後の4球目、青木が放った二塁横の打球に対して、好スタートを切った川本が二塁に滑り込み、間一髪封殺を逃れる。その間に三塁走者森岡が生還。まるで打球の行方を予知していたような神懸かり的な采配で、日本一に輝いた97年以来となる、巨人戦7連勝を飾った。

 延長11回2死満塁、打者は青木。マウンドには巨人越智が立っている。初球は149キロの直球がボールになった。1万8929人の観衆のボルテージは最高潮に達する。ファウル、ボールで、カウントは2ボール1ストライク。緊迫した場面で、小川監督が突如ベンチを立った。球審を呼び止め、一塁走者相川に、代走川本を送った。

 試合に一瞬の「間」が空いた。なぜ、今なのか。誰もが思った次の4球目。青木が放った打球が二塁横に飛ぶ。巨人円谷が横っ跳びで止めて二塁にグラブトスするが、一瞬早く川本が滑り込む。セーフだ。サヨナラだ。まるでマジックのような幕切れで、劇的な勝利を呼び込んだ。

 青木の元に走るナインを笑顔で見つめながら、クラブハウスに向かう小川監督は、もう冷静さを取り戻していた。「青木は内野安打が多いから。やるべきことは、やっぱりしておかないと、と思いましたね」と狙いを明かした。

 一塁だったらセーフのタイミングの深い内野ゴロが、二塁で封殺されては、青木の足も生かせない。ベンチに最後に残った野手の川本は、50メートル6秒1。相川と同じ捕手だが、走力で勝る。「(小川監督に)いくぞと言われました。やるべきことはフォースアウトにならないことと分かっていましたので」。間一髪のプレーを生んだタイミングについて、小川監督は「真一に言われたんですよ」と内情を説明した。佐藤打撃コーチ兼作戦担当の名前を挙げて、決して自分の手柄にはしない。「小川ヤクルト」の和を象徴する名采配だった。

 選手の特徴を把握し、準備して決断する。

 同点に追い付いた直後の8回1死一塁では、代走に野口を送った。本来は代走の切り札の三輪で盗塁を狙ってもいいシーンだが、投手はクイックが速い久保。打者は4番畠山だった。ここは1発に期待して、三輪は後半に取っておく。あらゆる可能性から最善の策を決断する。2軍監督9年間で選手の特徴は熟知。佐藤コーチは「選手のことをよく知っていますし、決断が速い」と話した。

 スタメンから外す選手には必ず声を掛け、裏方さんやスタッフにも気を配る。精神的なケアに加え、選手起用のうまさが、首位に立つ快進撃を支えている。

 サヨナラ打を放った青木は、左足首を捻挫していた。練習中から足を引きずっていた5日の試合前、小川監督が自ら呼び止めた。「あいつは聞くと『大丈夫』『行けます』しか言わないんだ」。迷ったが、信じてグラウンドに送り出した。その青木がサヨナラ打を放った。「あれは監督に助けられました。チームプレーだと思います」。監督、選手の思いががっちりかみ合い、大きな1勝をつかんだ。【前田祐輔】