阪神江夏豊臨時コーチ(66)が8日“置きみやげ”を残して、沖縄・宜野座キャンプ指導を打ち上げた。最後に自らが使用していたグラブを育成上がりで公式戦未登板の左腕・島本浩也投手(21)に手渡した。また、8日間の指導を終えたレジェンドは投手全員に自らの工夫で道を切り開けというメッセージを残した。

 指導最終日の朝がきた。江夏氏はウオーミングアップ前に全員へあいさつし、記念撮影を終えると、1人の左腕に近寄った。昨秋、育成から支配下選手となった島本だった。軽く言葉をかけると、自らが使用していたグラブを手渡した。まだ1軍未登板の小柄な左腕への置きみやげ。まさに江夏流のメッセージだった。

 江夏氏

 この何日間かブルペンで彼の投げてる姿を見ていましたが決して恵まれた体じゃないのに、いいボールを投げている。聞けば、去年まで3桁の数字だったというから。今の時代、恵まれた環境で注目されて入ってくることが多いのに、そういう人もいるんだよということで。そういう意味で頑張ってもらいたいと、島本くんに受け取ってもらった。

 島本は10年、福知山成美から育成ドラフト2位で入団した。3年間の育成契約を経て、昨年11月に支配下選手として契約することができた。身長176センチ、体重67キロと小柄な体ながら初めての1軍キャンプとなったこの2月は、ブルペンでキレのいい球を披露していた。推定年俸はチームで最も低い420万円。1軍どころか、公式戦未登板だが、今後に向けての可能性を感じさせる。そんな左腕にあえて、置きみやげを残したのが、江夏流だった。

 島本

 まさか自分がもらえるとは思っていなかった…。寮に飾ろうと思っています。結果を出すことが恩返しになる。直接、お話をするタイミングはそれほどなかったですが、ブルペン終わった後に「いい球いっているぞ」と言ってもらって自信になりました。

 “江夏賞”に選ばれた島本は目を輝かせた。言葉は多くないが、レジェンドがしっかりと見てくれていたことは21歳の若者に自信を与えた。

 江夏氏

 僕の仕事はここまで。明日からは一ファンとして、一評論家として、タイガースを見させてもらう。少しでも自分と接して対話したことを参考にしていただければ、先輩として大変ありがたい。ただ、ひとこと言ったくらいで勝てるような甘い世界じゃない。あとは彼らの工夫というか。決断力を持って工夫していくこと。

 指導はあくまでヒントに過ぎない。そこから先は自分で道を切り開け-。40年ぶりに阪神復帰した伝説左腕が残した数々の言葉が、選手たちの胸に残された。【鈴木忠平】

 ◆島本浩也(しまもと・ひろや)1993年(平5)2月14日、奈良・大和高田市生まれ。福知山成美で2年夏に京都大会準優勝。10年育成2位。昨季は2軍で17試合1勝3敗、防御率3.40。昨秋キャンプで大野臨時コーチからシュートを習得。176センチ、67キロ。左投げ左打ち。