2月5日、総合格闘家の堀口恭司(29)はツイッターで「早く走りたいな…」とつぶやいた。

昨年11月に右膝前十字靱帯(じんたい)断裂と半月板損傷を負い、今はリハビリ中。無理しがちな堀口の性格を知ってか、ファンからは「焦らず」「我慢してください」など、なだめるコメントが多数寄せられた。

昨年12月に拠点のフロリダから日本に帰国した堀口はこの1月末、米国へ戻った。住居は練習拠点であるアメリカン・トップ・チーム(ATT)の2階。そのリビングからは窓越しに練習場が見下ろせるという。きっと仲間が動く姿を毎日眺めながら、うずうずしているのだろう。

1月末、日本をたつ前に堀口に話を聞いた。昨年大みそかのRIZINの会場でつけていたギプスは取れ、普通に歩いて待ち合わせのカフェに現れた。リハビリの成果で膝の可動域が増え、当初の見立てより早く回復しているという。早ければ今年9月のRIZINで復活し、12月に現在マネル・ケイプが巻くベルトを奪還するプランを描く。

大きなけがはすねを骨折し1年間動けなかった高校2年生以来。プロでは初めてのことだった。腰や膝に痛みを感じ始めたのは昨年初めから。それでも周囲に隠し続けた。昨年8月に朝倉海に負けた時も、「言い訳になっちゃうので言いたくないですが…」と前置きしつつ、「練習は1カ月ぐらいできていないというのはありました」と明かした。不調を感じながらも「自分はRIZINの顔。盛り上げなくては」という責任感から、試合のオファーを受け続けた。

靱帯(じんたい)が切れたのは8月の敗戦から約1カ月後、10月の大会に向けた練習中だった。「寝技の練習して、ちょっとだけ膝をおされたんです。そしたらバコっとずれちゃって。全然痛くないんです。普通にスっとずれて。だから、痛くないから大丈夫だろうとその場で自分で戻して、また練習を始めて。でも、その後のスパーリングでぴょんぴょん跳ねているだけで、またバコっと外れちゃったので。『あぁ、これだめだ』と思って。病院にいったら、靱帯(じんたい)きれているねと言われました」。そう笑いながら話す堀口を、取材に同席したマネジャーは「変態。訳が分からないです」。今回のけがを受けての堀口陣営の合言葉は“Don‘t trust Kyoji(恭司を信じるな)”。堀口は「ことごとく信用を失いました」と笑った。

膝の前十字靱帯を切るアスリートは多い。焦って復帰して元の状態に戻れないまま引退するか、じっくり治してむしろけが以前よりパフォーマンスが上がるか。医師に聞くと、その両極端に分けられるという。身近な例もあった。師匠の故山本“KID”徳郁さんは、08年7月に右膝前十字靱帯を断裂。堀口はその後のKIDさんを間近で見てきた。「自分がテレビで見ていた時と、けがした後、ちょうど自分が(KIDさんのジムに)入った時の動きは全然違うと思った。あんまりリハビリをしなかったって言っていました」。1番の敵は焦り。「ちゃんと制御しないと」と自分に言い聞かせて、じっくりリハビリに励んでいる。

昨年末のRIZIN20大会のオープニング映像には、堀口の入場曲「My time」が使われた。リングに立たずとも堀口が総合格闘技、RIZINの顔であるというメッセージにも読み取れた。会場に曲が流れどよめきが起きる中、堀口は「俺、死んじゃったの?」と笑っていたという。「たぶん復帰したらパフォーマンス上がると思いますよ。それも楽しみなんです。世間一般では前十字靱帯きったら、もう無理でしょ、みたいなノリがある。それを覆すのがすごい楽しみ」。今年の目標は「リベンジ」だ。【高場泉穂】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)