大相撲裏話

トランプ氏に見せたかった真の相撲とは何だったのか

19年5月26日、優勝した朝乃山(左)に「アメリカ合衆国大統領杯」を授与するトランプ大統領
19年5月26日、優勝した朝乃山(左)に「アメリカ合衆国大統領杯」を授与するトランプ大統領

「相撲はスポーツではない」。相撲界の人が、五穀豊穣(ほうじょう)を願う神事として、こう主張するのは納得できる。ただ、第三者からこのように指摘されると話は別だ。意味合いは違うが、例えば自分で「私なんかは未熟者です」と言うのと、人から「お前は未熟者だ」と言われるのでは、まったく異なる。それと同じような違和感を覚えたのは5月の夏場所千秋楽だ。

スポーツの枠を超えて、ニュースとして取り上げられたのが、国賓として来日していたトランプ米大統領の観戦。幕内最後の5番を観戦するため、ゆっくりと手を振りながら入場してきたシーンは大々的に報じられた。NHK総合の平均視聴率も、関東地区で26・3%と、最近10年間で最も高い数字をたたき出した。升席に置かれたイスで安倍首相と並んで観戦し、表彰式の土俵に上がる際には、特製の階段も用意された。初めて見る光景が続いた。米国大統領杯も新設され、トランプ大統領は「スモー グランドチャンピオン」と、優勝した前頭朝乃山をたたえた。日付に「レイワ、ワン」と、新元号を入れて表彰状を読み上げていた。

千秋楽の様子で、日米の友好関係はアピールされた格好となった。だが一方で、多くのスポーツが関係する「オリンピック憲章」では「オリンピック・エリアにおいては」と前置きしているものの「いかなる種類のデモンストレーションも、いかなる種類の政治的、宗教的もしくは人種的な宣伝活動は認められない」と記されている。スポーツにおける憲法ともいえる、オリンピック憲章で禁じている政治的な宣伝活動。オリンピック・エリアではないとはいえ、今回の観戦における一連の動きが、それに該当するのではないかと指摘する人は少なくないと思う。ただし「相撲はスポーツではない」という位置づけであれば、批判の声もかわせるかもしれないが…。

力士は早朝から稽古し、厳しい集団生活に身を置いて、時にはケガを負いながらも鍛錬を続けている。それでも五輪種目のアスリートとは別だと、政府のお墨付きで言われてしまうと、何ともいえない、やるせない思いを、部外者の私でさえ感じてしまう。どちらが偉いという問題ではなく、第三者が、今回の場合は政府が、平等に扱っていないことに、多くの国民も違和感を覚えているのではないだろうか。

トランプ大統領に見せたかったのは、伝統に裏付けられた相撲という日本独自の文化だったはずだ。伝統を支える様式美を、そのまま見せることが、最高のもてなしだったように思う。今後、もしも米国大統領の観戦が続くなら、または米国以外の国賓が大相撲観戦を希望するなら、そのたびにマイナーチェンジを繰り返し、元に戻ることができなくなるかもしれない。

千秋楽では、厳重なチェックにより、入場するのに長蛇の列ができた。入場に1時間半以上かかるなど、お目当ての取組を生観戦できなかった観衆は数知れない。政治的な話はしたくないが、今回のことで、その分、観戦できなかった相撲ファンがいたことは、国民一人一人に寄り添うという主張とはかけ離れている。多くのファンや関係者からは「もう、これっきりにしてほしい」と、ため息が漏れていた。【高田文太】

大相撲夏場所千秋楽 国技館に登場したトランプ米大統領(中央左)と安倍晋三首相(同右)(撮影・加藤諒)
大相撲夏場所千秋楽 国技館に登場したトランプ米大統領(中央左)と安倍晋三首相(同右)(撮影・加藤諒)

取組を見るだけじゃ分からない、日刊スポーツの大相撲担当記者が土俵周辺から集めてきた「とっておきネタ」をお届けします。

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