初場所8日目、1月19日は横綱大鵬の命日だった。亡くなってから7年。優勝32回を誇る大横綱。その名前はあまりに偉大ゆえに、遺志を継ぐ者たちは必死の思いで天国に朗報を届けようともがいている。

大鵬の孫の1人、納谷(19=大嶽)は、東幕下5枚目。入門から2年で、十両昇進まであと1歩。十分すぎるスピード出世だが、師匠の大嶽親方(元十両大竜)は、その宿命を思いやる。「ものすごいプレッシャーが本人にはあるでしょう。勝って当たり前だと思われ、負けても騒がれる。私もつい、ネットでエゴサーチしてしまう。勝てば『大鵬の孫はすごい』と言われ、負ければ『あんな部屋に預けるからだ』と書き込みがある」。

納谷は同じ一門の大関貴景勝の付け人を務め、勉強の日々を送る。この日は、元十両の白鷹山に寄り切られて2勝2敗。命日について聞かれても「あんまり、そういうのは気にしてないです」とポツリ。負けてしまえば、多くを語れない。

正月は大嶽部屋全員で墓参りをし、納谷は書き初めで「三役」と書いた。大鵬死去の日、中1だった少年は大志を胸に祖父の背中を追っている。【佐々木一郎】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)