「まるで(実況)アナウンサーと日常会話をしているようだった」。9日目にNHK大相撲中継の正面解説を務めた本紙評論家の高砂親方(元大関朝潮)はそう語る。「Be silent!」が1つのテーマともいえる今場所。正面放送席は防音対策のアクリル板で覆われるが「雰囲気からして、どうしても声は抑えがちになる」とも言う。

大観衆のざわめきは土俵進行の大事な一端を担っていた。時間いっぱいの最後の塩。東西の呼び出しが立ち一気にボルテージが上がる。アナウンサーも「さあ時間です!」。そんな高揚感が今場所はない。こんな偽らざる実況でのアナウンスもあった。「私たちも相当、注意しないと時間を誤ってしまいます」。いつも以上に目配せが求められるというわけだ。

3日目から視聴者の「応援メッセージ」を紹介。勝ち越しや金星以外にも“臨時”で取組直後の力士をインタビュールームに呼ぶなど何とか工夫を凝らす中継が続く。呼び出しにとっては声が、より反響するため技量が問われる緊張の場所にもなっている。海外の視聴者から「まるでSF映画を見ているようだ」と形容される異空間の中、さまざまな“闘い”が繰り広げられている。【大相撲取材班】