村田諒太、エンダムと対面し「昨日は敵、今日は友」

WBA世界ミドル級王座決定戦を戦った村田(左)とエンダムは一夜明け、滞在先のホテルのロビーで対面。健闘をたたえ合った。(撮影・阿部健吾)

 不可解判定に異例の直接再戦指令だ。WBA(世界ボクシング協会)は20日(日本時間21日)、12年ロンドン五輪金メダリスト村田諒太(31=帝拳)がアッサン・エンダム(33=フランス)に1-2で判定負けした20日のミドル級王座決定戦について、世界戦を統括する関係部署に「次戦での再戦を求める」との考えを示した。村田が所属する帝拳ジムの本田明彦会長(69)は改めて「再戦はない」と明言したが、今後の動向が注目される。

 多くの疑問、怒りを残した国内最大級のビッグマッチから一夜明け、事態はさまざまな動きを見せ始めた。21日未明、WBAが公式サイトに発表したヒルベルト・ヘスス・メンドサ会長(ベネズエラ)の声明文は、異例ずくめだった。「私の採点では村田が117-110で勝っていた。村田諒太と帝拳プロモーション、日本のファンにおわびしたい。ひどい決定のダメージを回復させるための言葉が見つからない。委員会に再戦を要求する」。

 ボクシング界では2試合続けて同じカードとなることを避けるのが慣例だ。他選手のチャンスを阻み、活性化にもつながらないためだが、今回は例外だった。JBC(日本ボクシングコミッション)の安河内本部事務局長(56)も「翌日にああいう形で会長がコメントするのは聞いたことがない。前代未聞」と述べた。

 帝拳ジムの本田会長は一夜明けて都内で取材に応じ、「再戦は絶対にない」と断言。「(興行を)やったのは何十年ぶり」というWBAへの不信感は深い。WBA会長の命令があっても、対戦交渉するのは両陣営のプロモーターであり、拘束力はない。「集大成だった」というほど経費も時間もかけて開催にこぎ着けただけに再戦は難しく、不信感も募る。ダウンも奪い、ガードを固めて、フットワーク豊かなエンダムを追い詰めるなどやるべきことをやった村田に「こういう結果になって申し訳なかった」とあらためておもんぱかった。

 村田はこの日、午前9時半ごろに滞在していたホテルのロビーに姿を現した。「エンダムが今日帰ると聞いたのであいさつしたかった」。同宿だったため、内線電話で部屋に連絡して意思を伝えると、エンダムも快諾。会って握手を交わし、15分ほど談笑した。「互いにベストを尽くせた。素晴らしい経験をさせてくれてありがとう。昨日は敵だったけど、今日は友だね」。村田の言葉にエンダムも「また会えるのを楽しみにしている」と返した。最後に2人は連絡先を交換した。

 村田はWBAの再戦指令に関しては「僕が決めることではない。判定というより、もっとああすれば、こうすればと考えてしまう」と振り返った。一切の不満を言わず、対戦相手への敬意、感謝を表した。今後はどうなるのか。「今月はゆっくり休みたい」。そう言い残して、都内の自宅へと向かった。【阿部健吾】

 ◆WBAミドル級王座決定戦VTR 村田がガードを固めて前に圧力をかけ、好機に右ストレートを狙う。エンダムは素早いフットワークで周回しながら手数を多く出す展開が初回から続いた。4回にはカウンターの右ストレートで村田がダウンを奪う。以降も同じような展開が続いたが、村田のジャブ、ガードの上からのパンチにエンダムがぐらつく場面も多かった。判定1-2(117-110、111-116、112-115)。米国人ジャッジは村田の有効打を支持し、パナマとカナダのジャッジはエンダムの手数を優勢とした。村田は「第三者の判断が全て」と不平は口にしなかった。

 ◆WBA 世界ボクシング協会。1921年に米国17州の加盟で設立された世界最古のボクシング機構。当初はNBA(全国ボクシング協会)の名前で、62年にWBAと改称。本部はパナマ。