山中「原点回帰」フットワーク使い金字塔打ち立てる

計量を終え、ファイティングポーズをとる王者山中(左)と挑戦者ルイス・ネリ(撮影・梅根麻紀)

 大記録を前に原点に返る。ボクシングのWBC世界バンタム級タイトル戦は今日15日に島津アリーナ京都でゴングが鳴る。王者山中慎介(34=帝拳)は14日、京都市内で前日計量に臨み、挑戦者で同級1位ルイス・ネリ(22=メキシコ)とともにリミットの53・5キロで一発クリア。具志堅用高が持つ世界戦13回連続防衛の日本記録に挑む決戦で掲げるのは、フットワークを使う意識。防衛ロードが始まったV1戦のように舞い、かわし、仕留める。

 フラッシュを浴びて、山中の肉体は一層肌つや良く映えた。両拳を胸の前で握る、力こぶを誇示する、人さし指を掲げる。偉業達成前日、約70人の報道陣でごった返すホテルの一室は、生気あふれる絶対王者の撮影会場となった。「状態は文句ない」。前夜にはポークステーキも平らげた。減量苦とは無縁。「計量終わって水分も取って、一気に元気になりましたね。すぐに腕も湿ってきた」。「神の左」の渇きも癒えた。

 11年11月の王座戴冠から5年9カ月が過ぎた。「体格的には6年前に比べて大きくなってますが、14回目の世界戦なので、調整がうまくなっている」。今回はその「6年前」ごろへの回帰を念頭に置く。

 9日の公開練習日、1つの結論を口にした。「自分は足ありきのボクサー。試しながらいろいろ勉強して、いい経験となって、やはりこのスタイルでいこうと定まった」。巧みなステップで、好機に左を打ち込む。理想は元3団体統一世界スーパーフライ級王者ダルチニャン(オーストラリア)を迎えたV1戦。超大物を空転させた。前後だけでなく、左右のフットワークを入れ、最小限の動きでかわし、強烈な左を見舞った。逃げではない。足さばきで空振りさせるボクシングの面白さを体現し、KO寸前に追い込んだ。長期防衛はそこから始まった。

 なぜ回帰するのか。攻撃の幅の広さを求めた結果、足を止めてパンチをもらう場面が増えた。V10のソリス戦では防衛戦で初のダウンを喫し、続くV11のモレノ戦でも。ネリは連打に威力を持つ。同じ轍(てつ)は踏めない。空振りで空転させることが理想。「このスタイル」が最善だった。

 計量後の高揚感があったのだろう。取材の最後、初めて自ら偉業に言及した。「明日は記録のかかる試合ですが、必ず勝ってみなさんに喜んでもらえるようにしますので、期待して下さい」。あのころのように、あのころより強く、金字塔を打ち立てる。【阿部健吾】

 ◆V1戦VTR 11年11月の王座決定戦で世界王者となり、12年4月に初防衛を迎えた。刺客は3階級制覇を狙うビック・ダルチニャン。相手を自由に選べる選択試合で、自らと世界王座の価値を高めるため、あえて最強挑戦者を選んだ。試合ではレイジングブル(怒れる猛牛)の異名を持つ突進に、足を使い強打をかわし、右ジャブをついた。4回までの採点ではリードされたが、5回に左で右まぶたを切り裂いて出血させ、8回でポイントも逆転。10回には左フックをかわしてワンツー、11回にもワンツーで棒立ちにさせた。判定は3-0(117-111、116-112、116-112)の完勝。マタドール(闘牛士)のように試合を制した。