嶋田雄大氏、新潟初の公認ジムで世界王者の夢育む

嶋田氏(右)は練習生の動きを厳しい視線でチェック

 プロボクシングの元日本王者が、新設ジムで世界王者輩出の目標を追っている。新潟県内初の日本プロボクシング協会公認ジム、大翔(やまと)ジムが1月、十日町市にオープン。最高指導者に就任したのが元日本ライト級王者・嶋田雄大氏(46)だ。ヨネクラジムのトレーナー時代は東洋太平洋など3人の王者を育てた。新天地でも手腕を発揮し、今度は世界王者育成を目指す。

 サンドバッグにパンチを打ち込む練習生のかたわらで、嶋田氏は緊張感を漂わせながら鋭い視線を送る。合間を見て短いアドバイスをしては、再び凝視。リング上でミットを手にしてパンチを受けるときは、空気の張り詰め具合がワンランク高まる。

 「勝つためにはどれだけ集中できるかが大切です」。昨年閉鎖した名門ヨネクラジムで4年間トレーナーを務めた。新潟市出身の元東洋太平洋スーパーミドル級王者松本晋太郎(33)、現東洋太平洋ミドル級王者秋山泰幸(38)、元日本ユースフェザー級王者溜田剛士(24)の3人の王者を育てた。その育成のポリシーを新興の大翔ジムでも貫く。

 自宅のある埼玉県ふじみ野市から週4日以上、十日町市に通う。午後2時にはジムに到着し、上越新幹線の東京行き終電に間に合うまで指導。ハードな毎日も「やりがいがあります」と笑う。大翔ジムの松下晴久オーナー(47)は「彼以外の指導者は思いつかなかった」と絶賛する。昨夏、ジム創設の相談のためヨネクラジムを訪れた。そこで嶋田氏と会った。酒を酌み交わしながら話すうちに意気投合。大翔ジムの最高指導者就任を依頼した。

 新しくできるジムで1からのスタート。嶋田氏にとってもチャンスだった。「指導の現場に立っていたかったですから」。松下オーナーには本格的なプロ育成だけでなく、女性や子どもを対象にしたフィットネスプログラムの導入を提案した。地域に貢献することで、ジムの規模が広がるとみている。

 現役時代は強打と技術を持ち合わせたボクサーファイター。日本ライト級王座を5度防衛し、自己最高ランキングはWBC世界ライト級6位。タイトル奪取はならなかったが、08年にWBA世界スーパーフェザー級王者エドウィン・バレロ(ベネズエラ=故人)、09年にWBA世界ライト級王者パウルス・モーゼス(ナミビア)と、2度の世界挑戦の経験がある。現役は41歳まで続けた。

 ボクシングにかける熱意は十日町に来て、さらに高まった。「新潟県から世界王者を」がジムの目標。嶋田氏は、現役時代にかなわなかった世界王者の夢を、指導する選手に託す。「選手には練習から気迫を求めます。教える方はそれ以上の気迫で臨む。そうすることで、選手をより戦える精神状態に追い込める」。自らの経験のすべてを注ぎ込み、世界王者誕生の夢を追う。【斎藤慎一郎】

 ◆嶋田雄大(しまだ・たけひろ)1971年(昭46)8月13日生まれ、富山県出身。富山第一高ではレスリング部に所属。卒業後、米国で1年半、ボクシングの武者修行。97年に日本でプロデビューし、02年に日本ライト級王座を獲得。12年に引退し、13年にヨネクラジムのトレーナーに就任。1月、大翔ジムの最高指導者に就任。戦績34戦27勝(17KO)1分け6敗。