田中恒成“フライ級ウォーズ”で木村に学んだ心意気

12回、激しく打ち合う田中(右)と木村(撮影・前田充)

<プロボクシング:WBO世界フライ級タイトルマッチ12回戦>◇24日◇愛知・武田テバオーシャンアリーナ

挑戦者の田中恒成(23=畑中)が世界3階級制覇を達成した。王者木村翔(29=青木)との壮絶な打ち合いを制し、2-0判定勝ち。プロ12戦目での達成は怪物王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)と並ぶ世界最速。国内ジム所属選手では7人目、日本人では6人目の快挙となった。23歳3カ月での到達は日本人最年少。最終目標を世界5階級制覇に置くドリームボーイが底力を見せつけた。

最終12ラウンドに起こった究極のどつき合いに、場内が沸いた。右ストレートを2度打ち合った後、3度目が出た。田中が「2発いって、やらせじゃないけど“もう1発いくぞ”というか。互いに触発されたというか」と苦笑いした。木村と呼吸を合わせ、右拳を振るった。壮絶な拳闘が昇華し、前代未聞の映画のようなシーンが生まれた。

田中は足を止め、木村と向き合った。タフさとハートが武器の王者に闘牛のように頭をつけた超接近戦に応じた。後半は足を使って距離もとったが、合間に必ずコンビネーションを打ち込んだ。

最後のゴングと同時に木村と抱き合い「疲れたんで座っていいですか?」と断り、へたり込んだ。力を出し切り、判定で勝った。「まず木村チャンピオンに僕より大きな拍手を送ってください」が、勝利者インタビューの第一声だった。

世界戦3戦連続KO勝ちの王者に挑むには「根性」が必要だった。走った。8月中旬から4度、畑中会長らが現役時代に訪れた、名古屋市の通称“チャンピオンロード”大高緑地公園で外周約4キロを2本、急斜面の坂道150メートルダッシュを5本。9月は他の場所で急坂、階段で走った。スパーリング回数を減らしてまで、本番10日前まで走った。田中は「初心に帰る意味もあった」。2階級制覇達成から“慣れ”を感じていた。

名勝負を制し「生涯忘れられない試合になった」という田中に対し、父の斉(ひとし)トレーナー(51)は「木村選手を雑草、恒成をエリートと言うけど、どうです? 雑草でしょ? 泥臭いでしょ?」と顔を腫らした息子に誇らしげだ。

ロマチェンコと並ぶ世界最速の世界3階級制覇を成した。しかし、田中は「全然及ばない」と笑い飛ばす。夢の世界5階級制覇を思えば、スーパーフライ級、バンタム級もある。畑中会長は「フライ級ウォーズだね」と防衛戦をにらむが、遅くとも3戦後にはスーパーフライ級転向の意向だ。

田中は「この試合で新しい強さを手にできる気がする」と話していた。木村に学んだものがある。「心意気。(王者が)敵地に来て。かっこいいじゃないですか」。忘れていた闘争心を取り戻し、夢への中間地点を通過した。【加藤裕一】

◆田中恒成(たなか・こうせい)1995年(平7)6月15日、岐阜・多治見市生まれ。父斉さんに幼少から空手を習い、本格的なボクシングは市之倉小6年から。中京(現中京学院大中京)高で高校4冠。13年プロ転向。15年にWBOミニマム級で日本最速5戦目の世界王座奪取。16年に8戦目で同ライトフライ級王者になり、井上尚弥と並ぶ日本最速の世界2階級制覇。中京大経済学部卒。家族は両親と兄、妹。164センチの右ボクサーファイター。

◆ワシル・ロマチェンコ 1988年2月17日、ウクライナ生まれ。オリンピック2連覇などアマ通算396勝1敗。WBOフェザー級、同スーパーフェザー級と世界最速7戦目で2階級制覇。今年5月にWBAライト級スーパー王座を奪取し、世界最速12戦目3階級制覇。11勝(9KO)1敗。サウスポー。