井上70秒殺!日本人の世界戦最速 トリプル日本新

井上(左後方)は1回KOでパヤノを倒し、ガッツポーズする(撮影・鈴木みどり)

<ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS):WBAバンタム級タイトルマッチ12回戦>◇7日◇横浜アリーナ◇1回戦

記録ずくめの秒殺劇!! 王者井上尚弥(25=大橋)が2試合連続の1回KO勝利で初防衛とワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)トーナメント1回戦突破を決めた。挑戦者となる元WBAスーパー王者で同級4位のフアンカルロス・パヤノ(34=ドミニカ共和国)に軽い左ジャブから強烈な右ストレートを顔面に打ち込んでキャンバスに沈めた。わずか1分10秒でのKO勝ちで日本人の世界戦最速タイムを更新。世界戦連続KO記録(7戦連続)、世界戦通算KO記録(11試合)という2つの日本新記録も樹立した。

モンスターが愛称の男に、3分間は必要なかった。井上の右アッパーが距離を縮めたパヤノのあごにかすった。50秒を経過した直後。「目くらまし」(井上)の左ジャブで相手の視界を奪った。即座に放った右拳が顔面を捉えた。「出合い頭の入り際の右。体が勝手に動いた」。わずか70秒。一撃の瞬殺劇に、1万人の観衆から「ナオヤ」コールが起こった。

「かなり手応えがありました。一撃で決まったと」。無傷の笑顔で、5日に1歳の誕生日を迎えた長男明波君をリングで抱き上げた。初めて息子の名をトランクスに刻み「絶対負けられないとケツをひっぱたく思いで入れた」。2日遅れでKO勝ちの誕生日プレゼントを贈り「成長して動画を見てくれたら最高の思い出になるかな」と父親らしい顔もみせた。

世界戦連続KO記録、世界戦通算KO記録、日本人の世界戦最速KOタイムの3つの日本新も樹立。「トリプルですか。記録はこれからも伸ばしていきたい」。今年のバンタム級2戦の試合合計タイムは、たった182秒。30カ国以上で生中継されたWBSS開幕戦で、データ上でも突き抜ける強さを証明した。

WBSS参戦を契機に海外メディアから父真吾トレーナーとの関係に関する質問を受けた。井上が6歳から競技を始めたのは、アマ選手だった父の影響。親子関係を振り返る場面が増え、コンビを組んで来年で区切りの20年を迎えることに気がついた。

真吾氏から「うちの家族は負けず嫌い。その気持ちは一心同体」と言われた井上は「自分が引退する時、(父に)ボクシングを教えて良かったなと思わせたい」。勝ち続ければ統一戦が実現し、3団体統一王者になる可能性もある。「35歳ぐらいまで現役を続けるつもり。辞める時に最高のボクシング人生だったなと思いたい」。来年のWBSS制覇は、大きな節目として不可欠な称号になった。

準決勝は20日のIBF同級タイトル戦、王者ロドリゲス(プエルトリコ)-同級3位マロニー(オーストラリア)の勝者が相手。来年3月、米国が濃厚だ。井上にとって初の団体統一戦が有力視される。「これで準決勝の相手にアピールになったと思う。このパフォーマンスを出せればスーパースターに近づけるかな」。階級最強を証明するための最高の幕開けだ。【藤中栄二】

<井上が樹立した世界戦KO新記録>

▼7戦連続 元WBA世界ライトフライ級王者具志堅用高を抜き、単独1位。

▼通算11回 元WBA世界スーパーフェザー級王者内山高志を抜き、単独1位。

▼最速勝利 1回1分10秒は、平仲明信が92年4月10日のWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチ(メキシコ)で、王者エドウィン・ロサリオ相手に記録した1回1分32秒を更新。

◆井上尚弥(いのうえ・なおや)1993年(平5)4月10日、神奈川・座間市生まれ。元アマ選手の父真吾さんの影響で小1からボクシングを始める。相模原青陵高時代に史上初アマ7冠。12年7月プロ転向。当時の国内最速6戦目で世界王座(WBC世界ライトフライ級)奪取。14年12月にWBO世界スーパーフライ級王座獲得、史上最速(当時)8戦目で2階級制覇。今年5月WBA世界バンタム級王座奪取、国内最速(当時)の16戦目で3階級制覇。家族は咲弥夫人と1男。166センチの右ボクサーファイター。