村田諒太は難敵の被写体「絶対王者」カメラマン語る

4月15日、村田対ブランダムラ戦でインパクトの瞬間を捉えた福田氏撮影の写真

「パンチを予見する男」が見たWBA世界ミドル級王者村田諒太(32=帝拳)とは-。01年に米ラスベガスに拠点を移し、世界一と称されるボクシングカメラマンとなった福田直樹氏(53)。世界の一流選手たちのパンチのインパクトの瞬間を見事に切り取る手腕に対し、それを容易にさせない村田との「戦い」から、2度目の防衛戦を前に日本が生んだミドル級王者のすごさに迫った。

ワンチャンスだった。それを逃さなかった。4月、村田の初防衛戦、8回。リングサイドからカメラをのぞいた福田氏が、シャッターボタンを押し始めた。「ブランダムラが無理な体勢から切り返そうとしたのが瞬間的に分かった」。村田がモーションに入る前に、1コマ目のシャッターは切られた。1つのパンチで切れるのは4コマほど。1コマ目を捨て、2、3コマ目。放たれた右拳が敵の顔面をとらえた。そのカウンターから攻勢に出て、直後に右ストレートでTKO勝ち。見事な「予見」だった。

「難しい」。村田のボクシングを撮り続けて、常に思う。「相手がプレッシャーを感じてガードを固めてしまい、顔が全く出ないので、写真としては打たれていてもガードの合間だったり、顔が隠れていて迫力がなくなる」。巧みなポジショニング、フェイントの複合で前進されると、相手が顔近くに両グローブを固めてしまう。「最終的に右を当てる時は1、2回しかチャンスがない。当たれば倒れてしまうので」。一瞬の勝負を常に強いられる。

福田氏の手法は「カウンター」だ。劣勢な選手に照準を合わせ、強引な動きが出た瞬間を狙う。選手がカウンターを合わせるがごとく、シャッターを押し始める。洞察力が求められるが、その無二の観察眼で数々の賞を受賞してきた。最も権威がある米国専門誌「リング誌」では、福田氏を紹介する「絶対王者」という特集まで組まれた。

その氏をもってして、難敵が村田だ。「ジャブも的確なタイミング。一番嫌なタイミングで打つので、相手が次に何してよいかわからなくなる」。カメラ越しに体力を消耗していくのが分かるという。そして強引さが顔を出す。そのワンチャンスを逃さないかどうか。撮られた村田は「悔しい」と言う。選手は予見されてはたまらない。

専門誌を経て、01年から米ラスベガスに移住し、写真家として歩み出した。16年6月に帰国するまで、トップファイターたちと「戦い」続けた。そして、現れたのが村田だった。「日本人であんな人が出てくると思わなかった。格好良いし、頭も良いし、面白いですし。すべてそろっている」。そして、撮り難い。ただ、その勝負が何より面白い。それはブラント戦でも。「1つ1つの動きが良い意味でも悪い意味でも大きいですね。少し顔がすかすか(開いている)と思いますが、プレッシャーを受けてどうなるか」。今日、また村田との対戦が始まる。【阿部健吾】

◆福田直樹(ふくだ・なおき)1965年(昭40)7月15日、東京都生まれ。小学生時に祖父の影響でボクシングに魅了される。大学在学中に専門誌で働き始め、01年に写真家を志して渡米。本場を飛び回り、年間400試合以上をカメラに収める。米リング誌の専属を8年間務め、全米ボクシング記者協会の最優秀賞を4度受賞。ボクシングマニアとして知られる俳優の香川照之は、小学校から12年間同級生。中1で隣の席になり、ボクシングにはまるきっかけを作った。以降、2人でラスベガスの世界戦に訪れるなど、今でも親交が厚い。