井上拓真、負傷めげず2年の回り道乗り越え兄弟王者

9回、サラパット(左)に右フックを放つ井上拓(撮影・鈴木みどり)

<プロボクシング:WBC世界バンタム級暫定王座決定戦12回戦>◇30日◇東京・大田区総合体育館

モンスターの弟が世界王座をつかんだ。WBC世界バンタム級5位の井上拓真(23=大橋)が3-0の判定で同級2位タサーナ・サラパット(25=タイ)を下し、暫定王座を獲得した。序盤に攻め、2回の偶然のバッティングでペースを崩されながらも、相手パンチを外し、確実にカウンターを打ち込んだ。現WBA世界同級王者の兄尚弥(25)に続き、同じ階級で念願の緑ベルトをつかんだ。亀田兄弟に続いて国内2例目となる兄弟世界王者が誕生した。

新品のWBCベルトを手にした井上拓は少し顔をほころばせた。「率直な気持ちは、最高です」。試合直前に「人生かけて臨めよ」と猛ゲキを飛ばした兄尚弥もWBAベルトを持参。リングで2人並び「小さい頃から一緒にやってきたので同じ舞台に立てるのは素直にうれしい」とほっとした表情を浮かべた。

勝利に徹した。序盤にワンツーをヒットさせ、相手をぐらつかせた。10月に70秒KO劇でインパクトを残した兄を「意識して攻めた」。ところが2回に偶然のバッティングで鼻を負傷。痛みでペースが乱れると兄から「空回りしている。切り替えよう」と助言を受けた。5回以降、前に出るサラパットのパンチを見切って空を切らせ、返しのパンチを合わせてジャッジの支持を得た。「すごく良い経験。ナオ(尚弥)以上のインパクトを残すのは大変ですが、少しでも近づくように」と決意を新たにした。

2年前の16年11月、WBO王座挑戦の発表会見に臨んだ後の夜練習で右手を負傷。手の甲と手首をつなぐ関節の脱臼を治す手術を受け、世界戦は中止に。スマホには右拳のエックス線写真が残る。「すごくヘコみましたが、この2年はすごくいい経験だった」。昨年は4度の世界挑戦を経験した久高、元日本王者の益田、今年9月には当時の東洋太平洋王者ヤップも下し、世界切符をつかんだ。大橋会長が「ジム内で一番厳しいマッチメーク」と振り返る険しい道を乗り越えた。

4歳の時、兄尚弥を追い、父真吾氏から指導を受けた。メニューは2歳年上の兄と同じで「ついていくので精いっぱい」。中学卒業後、プロ転向を直訴したが、家族の反対にあい、諦めた。一時は16年リオデジャネイロ・オリンピックを目指したが「先に感じたから」と迷わずプロへ。過去にけんかもしたが「途中でナオが競技を辞めていたら自分も続けていたかどうか。兄は優しくて友達みたい」と感謝した。

お祝いとして大橋会長、父、兄の3人が資金を出した約400万円のロレックス製時計がプレゼントされる。来年1月19日に米国で同級1位ウバリ(フランス)と同級3位ウォーレン(米国)の正規王座決定戦が控え、同会長は「次は正規王者との統一戦」と明言。モンスターが愛称の兄に続き、ついに井上拓も世界にインパクトを与えるスタートラインに立った。【藤中栄二】

◆兄弟世界王者メモ アッテル兄弟(米国)は兄エイブが1901年にフェザー級、弟モンテが1909年にバンタム級で世界王座を獲得したのが史上初。92年9月、ブレダル兄弟は兄ジミーがWBO世界スーパーウエルター級、弟ジョニーもWBO世界スーパーフライ級の王座を奪取し、兄弟同時制覇を達成。日本では亀田兄弟が3兄弟世界王者、3兄弟世界同時王者、3兄弟複数階級制覇。クリチコ兄弟(ウクライナ)はヘビー級で兄ビタリがWBC、弟ウラジミールがWBA、WBO、IBF王座に君臨し、同一階級で世界主要4団体を独占した。