もう1回…村田諒太、愛息の言葉で現役続行を決断

村田はロブ・ブラントに勝利し、ベルトを巻いて涙ぐむ(撮影・加藤哉)

<プロボクシング:WBA世界ミドル級タイトルマッチ12回戦>◇12日◇エディオンアリーナ大阪

前王者の同級4位村田諒太(33=帝拳)が覚悟の猛ラッシュで王座を奪回した。

昨年10月に米ラスベガスで判定負けを喫した王者ロブ・ブラント(28=米国)と再戦し、2回2分34秒、TKO勝ちでリベンジを成し遂げた。序盤から攻勢に出た王者に対し、右の強打と連打で対抗。2回途中のラッシュでダウンを奪うと、再びロープ際に追い込んでの連打でレフェリーストップ勝ち。年内に組まれる見込みのビッグネームとのドリームマッチを待つ。

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怒濤(どとう)のラッシュだった。2回。村田がキバをむいた。左ボディーで動きを止め、強烈なワンツーからの左フックでダウンを奪うと、フラフラになりながらも立ち上がってきたブラントに容赦なかった。「もう1回ダウンを奪おうと」。右、左、右とめった打ち。防戦一方の王者をレフェリーストップに追い込んだ。「今日はボクの夜だったということです」。満足そうな笑みを浮かべた。

前回対戦と違い、序盤から出てきた王者に1回はポイントを奪われた。所属ジムの本田会長から「前で(相手パンチを)殺せ」と助言をもらい、覚悟を持って前に出た。昨年10月に味わった屈辱は払拭(ふっしょく)したかった。「前に行くしかない。同じミドル級。あそこで逃げたらチキン。もうこの試合が最後になるかもしれないと思って。後悔したくなかった」。ひそかに試合に招待し、自らの勇姿を見守ってくれた長男晴道君に向けリング上から「明日からパパと一緒に野球やろう」と叫んだ。

昨年10月に米ラスベガスで王座陥落後、村田は「98%ぐらいは、ほぼやめよう」と気持ちを固めつつあった。試合動画をチェックし「あのボクシングが集大成でいいのかと考えると『それはないな』と」。揺れる気持ちを後押ししたのは、何より愛息からもらった「もう1回負けたら辞めていいよ」の言葉だった。もう1回-。心が奮い立った。現役続行を決断した瞬間だった。「続けてよかった」と強調した。

国内所属ジムの世界王者による王座陥落後の即再戦で勝利した例は過去12戦で輪島功一の2度、徳山昌守の1度のみという勝率25%の「難関」だった。本田会長は「半歩前に出る勇気があった。村田は(運を)持っている」と褒めた。9カ月ぶりに手元に戻ってきたWBAベルトを見つめ「不安はあったので。結果はうれしい」と深呼吸した。年内にもビッグネームとのドリームマッチが実現する可能性がある。村田の世界王者ロードの第2章が幕を開けた。【藤中栄二】