田中恒成がV2、年内に統一戦経て来年4階級制覇へ

WBO世界フライ級タイトルマッチ 祖父の遺影を手に勝利しチームで記念撮影をする田中恒成(撮影・森本幸一)

<プロボクシング:WBO世界フライ級タイトルマッチ12回戦>◇24日◇愛知・武田テバオーシャンアリーナ

王者田中恒成(24=畑中)が2度目の防衛に成功した。同級1位ジョナサン・ゴンサレス(28=プエルトリコ)との指名試合に7回TKOで勝利。王座奪取の木村翔戦、宿敵田口良一とのV1戦と激闘2連戦後の“落とし穴”をクリアした。年内にフライ級でもう1戦、他団体王者との統一戦を検討しており、その後、WBOスーパーフライ級王者井岡一翔に次ぐ、国内ジム選手2人目の世界4階級制覇を狙うシナリオだ。

3回に右ボディーブローでダウンを奪ったが、ゴンサレスのスピードに苦しんだ。6回を終えた時点でポイントで負けていた。それでも7回、ボディーで3度のダウンを奪い、勝ちきった。試合後は「内容は最悪です。苦しい展開でしたけど何とかKOできて良かったです」。笑顔はなかった。試合前の「難しさはちょっとあります。どうしても内容を伴って、になる。正直勝てると思うけど、そういう時は、あまりいい試合ができてないんで」という言葉どおりの内容だった。

フライ級王座を奪った木村戦は2-0判定の死闘だった。V1戦はライトフライ級時代に統一戦が内定し、流れた田口との運命的な戦いを判定勝ち。「もうフライ級に興味のある相手はいない」というほど、精魂の尽きた2試合だった。

「意味ある試合」を求める男が迎えたV2戦。WBO本部に義務づけられたランク1位との指名試合は、落とし穴になりかねない。「ちょっとパランポンの時と似てる。“圧倒的に勝つ”と思ってたら、予想外に強くて…」。17年9月、ライトフライ級のV2戦は9回TKOで勝ったが、初回にダウンを喫し、両目眼底下骨折を負った。

「こういう試合はこれからもある。それに勝っていかなきゃいけない」。将来の世界5階級制覇を公言する王者が今回自分に課したテーマは「原点回帰」だ。アマチュア時代から最大の武器だったスピードが鈍っていた。プロ転向でパワーをつけた代償。「6対4」になった前後の体重配分を「5・5対4・5」にし、スピードを取り戻す。スピーディーなゴンサレスを、スピードで駆逐した末の完勝を自らに課した。

自分に勝つには、我慢がいる。ところが、そもそもムラっ気が強い。「単純な練習が1番嫌い」という天才肌には、きつい。プロ転向時から田中の体力強化を担当する河合貞利トレーナー(45)は「とびっきりのウサギの恒成が、がカメになれるか? そこが今回のテーマ。嫌だと思って投げない、抜かない。“気分でやるな”と言い聞かせました」。カメの心を持つウサギを目指した。

指名試合という義務は、果たした。年内に見据える次戦のターゲットは? 田中はWBOスーパーフライ級王者井岡に興味を持っているが、関係者の話を総合すると次戦での実現は困難。そうなればV1戦後「フライ級で(興味が)あるのはベルト」と話しており、フライ級の他団体王者との統一戦が最大の選択肢。いずれにしてもビッグマッチ実現の可能性が高い。

ドリームボーイの行く先に、夢が広がっていく。

◆田中恒成(たなか・こうせい)1995年(平7)6月15日、岐阜・多治見市生まれ。トレーナーの父斉さんに幼少から空手を習い、ボクシングは市之倉小6年から。岐阜・中京(現中京学院大中京)で高校4冠。13年プロ転向。15年にWBOミニマム級で日本最速5戦目の世界王座奪取。16年に同ライトフライ級で井上尚弥と並ぶ日本最速8戦目の世界2階級制覇。昨年9月にWBAライト級王者ロマチェンコと並ぶ世界最速12戦目の世界3階級制覇。中京大経済学部卒。164センチの右ボクサーファイター。