カロリー計算せず減量食作る料理長/井上尚弥連載2

井上尚の減量食を担当する日本料理店「横浜金谷」店主の金谷明氏

<連載2>

日本ボクシング史に残る究極の一戦が迫った。WBA・IBF世界バンタム級王者井上尚弥には、階級最強を決めるトーナメントを制するためにサポートしてきた人たちがいる。肉体、食事、ヘアカット。井上尚が信頼を置くスペシャリストたちが見たプロ魂を3回にわたって連載する。

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井上尚の体重は、試合4日前でリミット(53・5)に到達した。その順調な減量をサポートしたのは、横浜市の日本料理店「横浜金谷」料理長で店主の金谷明氏(53)だ。17年12月に臨んだWBO世界スーパーフライ級王座のV7戦を契機に、試合1カ月前からホテル暮らしする井上尚のため、夕食を用意している。

井上尚や担当栄養士から届くリクエストがべースにあるものの、金谷氏はあえてメニューを事前に決めていない。「海草、大豆、納豆だけの病院食のような食事は苦手のようなので」と、井上尚が来店した際に調子をヒアリング。表情もチェックした上で準備に入る。

本格的な減量期間中、井上尚の食事は大好きな肉類がほぼ除かれ、魚中心へと変わる。ダシで煮たトマト入りの野菜サラダ、赤身、白身の刺し身の次に塩分を抑えた焼き魚などがテーブルに並ぶ。金谷氏は明かす。「実はカロリー計算していません。減量に入ると井上選手が全部は食べない。そこがすごく上手」。食べ過ぎの心配が一切ないことに驚いたという。

今回、一緒に来店したのは弟拓真やミット打ちを担当する太田光亮トレーナーだった。金谷氏は「食べる量を決め、残りは食事はトレーナーの方に任せる。食事を自分で調整することは、簡単にできることではない」と、プロ意識の高い自己抑制力に目を見張る。

元ボクサーの金谷氏は19歳の時、ヨネクラジムで大橋会長と出会い、約35年の友人関係にある。父は名レフェリーで知られる金谷武明氏。ボクシングを知り尽くす金谷氏が「やり方、姿勢がスマート」と言い切る絶食なしの減量で、井上尚は今日6日の前日計量も確実に1発クリアするに違いない。【藤中栄二】