<プロボクシング:WBAスーパー、WBC、IBF、WBO世界バンタム級王座統一12回戦>◇13日◇東京・有明アリーナ
井上尚弥が所属する大橋ジムの大橋秀行会長(57)が、日刊スポーツに手記を寄せた。2012年(平24)のプロ転向会見で「いずれ米国に進出して怪物をモンスターにしてみせる」と予告した同会長は「いったいどこまでいくのか、頂が見えていない」と、さらなる活躍に期待を膨らませた。
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尚弥のひと言に耳を疑った。19年11月7日のドネア戦後の医務室。2人になった時、彼が「いやぁ 楽しかったあ」とつぶやいたからだ。2回に左フックを浴びて右眼窩(がんか)底と鼻骨を骨折。相手が二重に見える苦境を乗り越えての判定勝ちだった。思わず「えっ、楽しかった?」と聞き返してしまった。
実は試合前に同じような状況を想定して戦う練習もしていた。それが実戦できて心の底から「楽しかった」と。ふつうの選手なら「ホッとした」とか「疲れた」が本心でしょう。だから、あのひと言には本当に「すげえ」と驚いた。彼のハートの強さを、あらためて実感した。
世界戦は人生をかけた一大イベント。試合前の緊張感は周囲にも伝わってくる。集中するために1人になったり、「いくぞ」と気合を入れたりもする。それが尚弥にはまったくない。控室で子どもと遊んでいたり、ふつうに会話していて「じゃあ行きますか」みたいな感じ。どんな状況でも24時間、ふだんの心境のまま。それは強いですよ。
彼を初めて見たのは確か小6か中1の頃。横浜さくらジムでの試合だった。パンチが強くて、足の動きもいい、何とも言えないオーラがあった。それから何度かウチのジムにスパーリングに来るようになって、アマ時代の高3の時、世界王者の八重樫東を圧倒した。だから自分は最初から尚弥には「怪物」のイメージがあった。
プロ転向会見で私は「いずれ米国に進出して怪物をモンスターにしてみせる」と宣言した。ライトフライ級時代は「どこが怪物なんだ」とよく言われた。最近になってようやく「すごい」とか「こんなに強くなるとは」という声を聞くけど、自分は最初からずっと、こうなるだろうなと予感していた。
ダイヤの原石を磨いたのが、リスク覚悟の挑戦だったと思う。6戦目で世界王座獲得。8戦目で2階級制覇。3階級制覇後は同級の最強王者を決めるトーナメントWBSSにも参戦した。無理やりやらせたわけではない。尚弥と父親の真吾さんが常に「強いやつとやらせてくれ」と言い続けたからだ。
印象深いのは2階級制覇を達成したWBO世界スーパーフライ級王者ナルバエスとの一戦。相手は11連続防衛中でフライ級でも16度防衛した最強王者。自分はオファーを1度断った。それを本人と真吾さんに伝えたら「絶対に勝てるからやらせてくれ」と。この負けを恐れない強い気持ちが、尚弥を真っすぐに成長させたのだと思う。
実は尚弥がプロ転向した時、一番心配したのがハートだった。パンチは強いし、テクニックは一級品だが、ハートだけは目に見えないから分からなかった。でも結局、彼の一番の強みはハートだった。これだけ有名になってもおごったところがなく、強くなるほど謙虚さが増し、腰が低くなっている感じさえする。だから、まだまだ強くなる。
今後はスーパーバンタム級やフェザー級で、本場の米国でビッグファイトを戦うようになるのだと思う。ふだんのスパーリングでは国内のライト級王者も圧倒しているので、その階級でもいけるでしょう。今は尚弥がいったいどこまでいくのか、私にも頂が見えていない。