西前頭3枚目竜電(28=高田川)が高安を寄り切り、大関戦初白星を挙げた。角界入りから苦節12年。我慢強い中卒たたき上げは、過去の大けがにも腐らずに番付を上げて、今場所で上位戦を初経験。黒星先行だが、ここから巻き返しを狙う。全勝で単独トップだった小結貴景勝が負けて、1敗を守った平幕の大栄翔、阿武咲と並んだ。

ここまでの竜電の相撲人生のような我慢、我慢の相撲だった。高安の体当たりを低い姿勢で受け止めると、左を差して右上手を取って、相手の胸に頭をつけて勝機をうかがった。下手で振られても我慢。再び頭を胸につけて、最後まで腰を浮かせることなく力で寄り切り、2分近い相撲に決着をつけた。

支度部屋に戻ると、両目を何度もタオルで拭った。「根強く応援してくれた方々に感謝したい。まだまだ、また明日から頑張りたい」。声を震わせながら力強く語った。

中学卒業後に相撲未経験で角界入りし、6年後の12年九州場所で新十両に昇進した。しかし同場所で右股関節を骨折。13年春場所から5場所連続で休場すると、14年初場所では序ノ口まで番付を落とした。「番付外になると自分が相撲取りじゃない気がして。番付表に載らないと相撲界にいる意味がなくなる」。これ以上休場が続くと、番付外に落ちる危機に、師匠の高田川親方(元関脇安芸乃島)に相談。ケガが完治しないままでも、14年初場所から4場所連続で一番だけ相撲を取った。「親方にも『一からやり直そう』と言われた。我慢してきてよかった」と振り返った。

苦労しながらようやく、上位陣と対戦する番付まで上がってきた。何度も腐りかけたが「最初は十両に戻れたらいいなと思っていたけど、ここまでやってきてよかったと思います」と今だから笑える。そして、大関戦初白星。「前に出て勝った…」と振り返ると、我慢できずに左目から涙。だがすぐに「まだ終わりではないので」と切り替えた。苦労人の角界人生は、まだまだ続く。【佐々木隆史】